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第66話 中途入社のダルンダリアン

ダルンダリアン

主にお腹がダルンダリアン

「子どもたちは気にしないけれど、親御さんの目もあるから、せめて身なりだけでも綺麗にしてね」


 苦虫を噛み潰した後の口の中をアバ茶で洗い流したような顔をした波留の正直者っぷりに素直に従った平林は、言葉通り身なりそのものを整えはしたが、その『くびれのない瓢箪』みたいな面白体型のためか、ある問題をもたらした。


 なにも『そろもん』に影響するような大事ではないのだけれども、少数精鋭という経営方針の影で大きな顔をしている『年中人手不足』にあえいでいる彼女たちの日常に関して、影響が少ないとは言い切れないものであった。


 知恵ある子豚のような平林はオドオドしながら、緑色をした厚手の紙に数値がつらつらと詰まった、世間一般で言うところの『健康診断の結果』用紙を波留に差し出しながら『要精密検査』であったことを波留に告げた。


「……どうしましょう。……去年までは一つも異常値はなかったんですが」


「うーん、まぁでも、その体系だと大方の予想はついてましたしね。今が健康なら大丈夫ですよ。メタボだって普段の食生活の見直しで改善するものですから、私と佐藤先生で応援しちゃいますよ! ……ん? いや、ちょっと待って。去年まで異常なし? 何の冗談ですかそれは。そんなダルンダルンなお腹で異常値が無い訳がないじゃないですか!」


「僕って着太りするタイプなので」


「いやいや気太りってレベルじゃないですよ? え? え? マシュマロマンみたいじゃないですか! 顔も」


「そう言われましても……体重は五十kgくらいですよ? ていうか顔がマシュマロマンに似てるんです? 僕って」


「五十って言ったらわた……嘘だっ!」


 『理由は定かではない』が波留には平林の体重が五十kgではないことが明らかだとわかっていた。ガラス戸に映りこんだ自身の顔を確かめた後に平林へと視線を移し、その事実を再確認する。


 『別に自分の体重がどうだとか関係ないけれど』、波留自身が平林を見た印象、つまりは『くびれのない瓢箪』であるとか、『肉が目鼻立ちを圧迫しているような皺の入る余地のないパツンパツンな顔』に対して、同じような体重……ではないけれど、とりあえずは安心した。


 平林は絶句したりしなかったりする波留に確認をするように伝えた。先ほどの小刻みに震える豚のような口振りではなく、趣味の仲間に自分語りを始め、己の世界に浸り、花を咲かせるかのように饒舌な口振りで。


「おやおや波留先生ともあろう御方が他人を見た目で判断してはいけませんなぁ。第一、これでも健康には気を遣っているんですよ。父が市長よりも強い影響力を持つ市議会議員だけに、周囲も後継ぎに仕立て上げたくて病気にならないようにですね……」


「(暖房が強い訳でもないのに全力疾走をした後のような息切れを起こしながら言われましても……)……ちなみに、どの項目が異常値だったんです? コレステロール? 血圧? それともメタボ? メタボですよね? 体重も倍くらいありますよね? 五十kgなはずがないですよね? ね? ね?」


 波留は語気を強めて平林に詰め寄った。現実というものが何なのかわからなくなりつつある自分自身を諌める意味も込められているかのように。それでも、それを平林に気取られることのないように、出来る限り冷静に笑顔の仮面で取り繕いながら。


「視力です。ちょっと落ちたみたいで。ですから、お腹周りは去年から変わってませんでしたから問題ありませんよ。五十kgを維持しています」


「ええい嘘をつくなっ! 嘘をっ!」 


 波留は、ちょっとキレた。






 結局のところ、父の影響をバッチバチに受けている健康診断センターでの本当の結果は親族と医療関係者にのみ開示され、平林耕太本人並びに職場関係者に関しては改竄された数値を参照するというズブズブっぷりがおおやけになることはこれ以降もないのであった。

波留「そういえば遠藤先生は健康診断の結果、どうなんですか? アニメ鑑賞て完徹なんて生活続けている割に健康そうですけれど」

遠藤「前回の審査ではSランクでしたね。【情報の海を探索する燃狐】(ファイヤーフォックス)で閲覧できますけれど、ご覧になります」

波留「結構です。なるほど。それはよかったですね」

遠藤「……波留先生?」

 

 波留はツッコまない。

 最早、自分の健康診断の結果すらも信じられなくなってしまったのであった。






 特に体重あたりが。

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