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第62話 保母さんたちのカタルシス

カタルシス

心的緊張感からの解放をキッカケとした浄化。

具体的には、凄い腹痛がしていたけど抜けられない重要な会議があって、もう破裂寸前、限界ギリギリのところでトイレに間に合った時の快感を伴う解放感。における排泄の瞬間(汚い)

 三人は悩んでいた。

 夕方を数時間前に迎え、子どもたちの騒がしい声が聴こえなくなった園内にあって、いつものような事務作業をするでもなく、頭を抱えていた。


 四人で何とかこなしていた業務を三人で回していくということが無理筋であることは鼻からわかっていたことで、園長そろもんおうに嘆願し、早々に求人募集を出してみたものの、なしのつぶて。問い合わせの電話すら鳴らない。


 何が悪いのか、単に世の中的に人手不足である中にあって、いくら子ども好きな人とはいえども安い賃金に反応を示してくれないのではなかろうか。いや、しかし、だからといって易々と条件を上げることなんてできない(というか、だったら私たちの待遇から見直して欲しいくらいなのに)、だとすれば、どうしたものか。


 如何せん、このような事は一切経験のない三人である。知恵を貸してくれるような知人の心当たりでもあればよいのであろうが、どうにもそう都合の良い話もない。


「……仕方ないですね」


「遠藤先生?」


「私が以前、お世話になった方に声を掛けてみましょう!」


「遠藤先生!」


「ただ、連絡先がわっかんないんだよなぁ……」


「遠藤先生~」


「何せ、かつて共に七十二柱と戦って以来、会ってませんからね」


「佐藤先生は何か思いつかないですか?」


 遠藤のどうしようもない発言に、一瞬でも期待した自分を叱りたくなる波留は、佐藤に話を振った。まぁ、佐藤に何かしらのアイデアがあるのであれば、とっくに提案をしてくれているはずであって、そんなものが無いことは、佐藤が左右に首を振るまでもなく、波留にもわかっている。


「んもう、ですから波留先生。『そろもん』の求人を募集するのではなくてですね、私のかつての仲間を探す広告に差し替えてもらえればですね」


「何故に、遠藤先生の趣味の友達を探すために園のお金を使わなきゃならんのですか。そういうことはプライベートでやってください。プライベートで」


「えー、波留先生の『大層なご趣味』みたいにですかー」


 遠藤の思いがけない返しに波留は、ギョッとした。別に隠している訳ではなかったが、基本的に常識的な社会人象をベースに生活している職場にあって、その反動のように営まれている腐女子活動、主に刀剣的な男子、水球的な男子、戦国的な男子、執事(老齢限定)などなど、一度手を付けた領域を挙げていくと両手足の指折りだけでは足りない位の一切合切の片鱗を「そんなの知ってますけど、なにか?」レベルの返しで聞かされたので、そりゃあ汗も垂れる。


「あっ、そうだ! それですよソレ!」 佐藤は大きな声で二人の会話に割り込む。


「えっ? 佐藤先生が何を仰っているのか私にはわかりかねますが、今日の所は解散とい……」


「何を言ってるんですか波留先生。求人募集の内容を差し替えるんですよ! 目立つように、興味をもってもらえるように!」


 その言葉に波留は安堵した。佐藤の純粋な気持ちに救われた気がした。よくぞ方向転換をしてくれたと感謝すらした。


「あ、あー、確かに! じ、じゃあ早速、み、見直してみましょうか?」


「波留先生、どうして動揺してるんです?」


……


■≪急募≫幼稚園教諭募集

・会社名:そろもん園

・給与

月給十七万円~(経験により決定)

・雇用形態

正社員(試用期間三ヶ月)

・仕事内容

幼稚園教諭のお仕事をしませんか?

経験に応じてご活躍いただきます。

まずは、お問合せください。


……


「何か『最低限』って感じですね。こう、無機質というか人の温もりの欠片も無いような」


 佐藤の率直な感想に、二人共ぐうの音も出ない。こんな求人に募集をしようと考える人は余程、切迫した状況にあるのであろうと想像するに難くない。


 じゃあ、これをどうするか。

 「とりあえず、気づいた点を盛り込んでいこう」「意見の言いやすいようにキーワードでもいいから」 皆で良い物を、仲間を探すために作るんだ。想いを込めるんだ。そんな勢いで何か始まった。


「『≪急募≫幼稚園教諭募集』って、良くないと思いません? 何か、逼迫ひっぱくした状況で、私たちとしても『誰でもいい』風に見えてしまうような……」

「うーん、でも本当に今すぐにでも来てもらいたいのは事実だしね」

「『≪メンバー募集≫幼稚園教諭、来たれ希望の星!!』なんてどうでしょう? ノリのいい方だと『おっ?』って目を惹くと思いません?」

「いやぁ……それはちょっと」

「……いいんじゃないですか? 求人なんて見てもらわないと始まらないですもんね。キチンとした内容は、別に書いておけばいいんですから」

「本気ですか? 佐藤先生」




「あと、会社名。ちょっと殺風景ですよね……『★†そろもん園†★』だと、ちょっと神聖な感じがしませんか?」

「採用しましょう」

「いや、ちょっと遠藤先生は兎も角、佐藤先生まで……†(ダガー)ってなんですか! ★も大概だけど」




「給与は相場的に悪い方ではないと思うんですよね。ここはそのままにしておきましょう」

「……いえ、ちょっと待ってください波留先生」

「遠藤先生、流石にここは」

「こういうのはどうですか?」

「佐藤先生?」

「『子どもたちの笑顔』なんて、幼稚園で働いている者としてはこれ以上ない最高の報酬だと思うんです。私は」

「流石です……佐藤先生」

「ええ……(遠藤先生はともかく)どうしちゃったんですか、佐藤先生……」



その後も、

「こう、『温かい職場ですよ』って感じを表現したいですね」

「やっぱり最近の出来事は、園のイメージを持ってもらうために書いておくべきたと思うんですよね」

「募集の背景なんかも明らかにしておかないと」

「やっぱり、子どもたちに『ありがとう』って言ってもらえると嬉しいですよね。多少の無理なら、その一言で報われた気持ちがしますもん! ほら、なんかどこかの経営者の方もそんな感じのこと言ってましたし」

「聖母がいるって凄い売りになると思うんですよね」

「残念ながら宗教色を出すのはNG」

「そんなぁ……」

「でも、社員からの一言、みたいな感じでメッセージを入れるのはいいかもしれないですよ」



……

■≪メンバー募集≫幼稚園教諭、来たれ希望の星!!

・会社名:★†そろもん園†★

・給与

子どもたちの笑顔(経験により決定)

・雇用形態

『聖』社員(試用期間三ヶ月)

・仕事内容

アットホームな雰囲気の職場で私たちと幼稚園の先生をしませんか?

十二月には、クリスマス会を開いて校舎が爆発しました。てへぺろ(-_-)

今回は、園の都合でスウェーデンに出張している教諭の欠員募集になります。

私たちは『ありがとう』を集めるために頑張ります!!


【H教諭からのメッセージ】

楽しくて明るい仲間たちと一緒に未来を創る子どもたちを育ててみませんか?

私たち『そろもん園』の職員一同は、皆さんからのご連絡をお待ちしています。


【S教諭からのメッセージ】

よろしくお願いします(^^)/


【E教諭からのメッセージ】

せいいっぱい

いたらないこともあるけれど

ぼくらは、それでもいきている

:*:・。,☆゜'・:*:・。,ヽ(・∀・)人(・∀・)ノ ,。・:*:・゜'☆,。・:*:



まずは、お問合せください。


……






……応募は来なかった。


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