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第56話 ツッコミ上手の佐藤さん

もち米を加工して作る食品。

焼いたり蒸したりしたら大体伸びる。笹餅は美味しい


 ホカホカと湯気が立ち上る遠藤先生のお弁当箱。職員室に備え付けの電子レンジを使う事ができる特権階級ほぼさんの優越を噛み締めるように遠藤の箸は具材をグワシと掴み、ゆるりゆるりと口の中へと運ばれる。


「はフッはフッはフッ、もちゃもちゃ、うぬぬぬぬぬぬ」 


「……遠藤先生、美味しそうですね。チーズですか? 考えましたね、レンジの有効活用」


 佐藤は冷たくなったおにぎりと持参したほうじ茶(魔法瓶入り)を寂し気に見つめながら遠藤に羨ましそうな視線を投げた。


「もチーズ(餅+チーズ)です」


「お餅だった!」


……


「実はですね……モッチャモッチャ……正月に……モッチャモッチャ……実家から大量の餅が……モッチャモッチャ……」


「ひぃ汚いっ!」


 どうやら中々飲みこむことができないらしい遠藤のモッチャモッチャ音に対して佐藤は、喋るか食べるか、どちらかにするように伝えた。その後の話によれば、実家から食べきれない程の餅が送られてきたので今、必死で消化をしている最中なのだそうだ。


「それにしたって弁当にまでお餅を入れるだなんて、よっぽど余っているんですね。遠藤先生、ちゃんと三食食べられていますか?」


「食べてますよ? 三食」


「ならいいんですけど」


「餅を」


「そうじゃないですってば!」


……


 それでも、遠藤のお弁当箱から匂ってくるのは野菜であったり、ケチャップであったりと、鮭おにぎりを頬張る佐藤からしてみれば、やっぱり羨ましくなるほどの多彩な食材のようである。


「……まあ、お弁当は色とりどりのようですから、流石にお餅だけってことは無さそうですけれど。波留先生に見つかったら、また怒られちゃいますよ?」


「お弁当? これ、全部『餅』だよ?」


「いやいや、だって温野菜の匂いしているじゃないですか」


「ああ、それ、もケール」


「もケールだった! ……もケール? なんですかそのご利益のありそうな食材は」


 弁当箱にへばりつくようにネッチョリとした緑色の何やら伸びる物体を箸で持ち上げながら遠藤は説明を始めた。


青汁ケールの粉末を餅に練り込んだヤツ。それに、こっちは、もチャップ(餅+ケチャップ)でしょ。あと、もキニク(餅+焼肉のたれ)、もロッコリー(餅+粉末ブロッコリー)、今話題の餅をスライスしたヤーツ!」


「……最後のヤツに至っては溶けて合体しちゃってるのでスライスの意味がないような」


 正月以来、一般的な餅の食べ方をひとしきり味わってしまった遠藤の苦肉の策であった。


「極めつけは、餅を米粒大にして、米の代わりに弁当箱に敷き詰めた『も飯』だー!」


「……だから溶けて合体しちゃってますけど」 


……


 毎日、顔をあわせる間柄になると、ちょっとした変化に気づかないということはよくある。佐藤が遠藤の、そんな小さな変化に気が付いたのは、そんなやり取りがあったからなのであろう。


「ちょっと失礼なこと聞いちゃいますけど、遠藤先生、少し太りました?」


「そんなことないよ」


「即答ですかっ! いや、顔の輪郭がちょっとだけモッチリしてますって」


「餅ばかり食べてるからね」


「わかってるじゃないですか! なんで否定したんですか」


 遠藤はハッとした。確かに佐藤が言うように少し体が重くなってきた気がする。そういえばウエストで引っかかるパンツも増えてきた。てっきり時期的なものだとばかり思っていた。


「いや、そこは時期的なものでしょうよ。『正月太り』って言うくらいですから」


「そぉんなぁこぉとぉいったぁってぇ」


「うわあぁ! 声まで変わってる!」


「冗談ですよ」


「それくらいわかりますよ」


 とはいえ、やはり正月のお餅は早めに消化してしまわないと冷蔵庫の肥やしになってしまう。なまじ冷蔵庫に物が詰まっていると電気代を喰ってしまう。これが意外と馬鹿にできない。


「……まあ、とはいっても佐藤先生にそこまで言われちゃあ仕方ないですもんね。波留先生に五月蠅く言われるのも嫌ですし。ちょっと自重します」


「是非そうしてください。健康管理の基本は健康的な食生活からって言いますからね! 新年早々に体調を崩しちゃいますと調子も狂っちゃいますから」


「はーい」


そう言いながら遠藤はお手製のもチップス(餅+ジャガイモ)を取り出し、も湯(餅+お湯)と共にモシャモシャと食べ始めた。


「……」


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