第51話 新年あけましておめでとう怪人カルタ小僧
新年あけましておめでとう怪人カルタ小僧(以下、怪人カルタ小僧)
かるた大会に現れては、そこそこの腕前で上位入選を繰り返す怪人(人間)。
これまでのあらすじ。
新校舎(仮設)にて新年を迎えた『そろもん』では、新春特別企画としてオリジナルかるた大会が催されていた。
このかるたは、子どもの勉強にも用いられる特別な代物であった。
ルールは単純明快。上の句にあった絵札を先に取った者が一ポイント。さらに、その描かれた『モノ』に対して正確な説明をすることができれば上乗せ二ポイントというもの。不正解の場合は解答権が相手方に移り、正しく答えることができれば絵札を獲得できなくても一ポイントが得られる。というもの。
「犬も歩けば……」
「はい!」
「波留先生、大人気ないですが、解答をどうぞ!」
「え~、(なんだこれ? 茶色の建物……何かの観光名所?)えっと……は、博物館?」
「ブ~、違います。正解は函館の老舗百貨店『棒二森屋』の新館の方、『ボーニアネックス』でした」
「ニッチが過ぎる! あと犬が全然関係してないっ!」
そんな感じで、ある子は、ひたすらに絵札を獲得するのに集中し、また、速い動きの苦手なある子はルールブックに記載された解答を具に確認し、黙々と正答を得ることに時間を費やした。
遊びながらに(一部ニッチな内容も含まれるものの)学ぶこともできるこのアイテムに波留たちは『してやったり』な笑みを浮かべていたのであったが、突如として現れた、かの悪名名高いかるた大会荒らし、通称、怪人カルタ小僧の手によって園児たちは困惑し、泣き崩れるのであった。
「へっ! 甘ちゃんしかいやしねぇ。こんなかるた大会、オイラが出るまでもねえやい」
「まてぇい! その言葉は、この私『かるたのエリちゃん』こと、遠藤恵里を倒してから言ってもらおうじゃないか。まずは決勝まで上がってきな。話はそれからだ」
「がんばれー! えんどうせんせー!」
「(頼みましたよ……遠藤先生)」
……ここまであらすじ……
鋭く透明な赤い光がグルグルと廻る。
白をベースとした黒い横縞模様の乗用車が二、三台ほど『そろもん』の入口を固めるように停車していた。
厳めしい顔をした男は子どもたちにキリリとした顔を向け、時折白い歯を覗かせる。
「……まあ、正月は色々なヤツがいますからな」
「まったくですね」波留は腕組みした手を頬に添えながら警官と話す。
「しかし、被害がないようで安心いたしました。子どもたちに怪我などあれば大変ですから」
通称、カルタ小僧は国家権力に逮捕された。建造物侵入罪の現行犯である。
「オイラを逮捕するってかい警察の旦那? オイラを誰だと思ってやがるんだい! かるた大会荒らしのカルタ小僧だぞ! わかってんのかい!」
「なに? 他にも余罪がありそうだな。話はゆっくり署で聞かせてもらうから大人しくしなさい!」
連行されるカルタ小僧の寂し気な後ろ姿には、哀愁が漂っていた。
警官の一人が遠藤に話しかける。年々増加している不審者対策に関する相談であった。
「この園には男性はいらっしゃらないんですか?」
「ええ、(買い出しに行っているので)いないですね。門も閉めているし、知らない誰かが入ってくるなんて思いもしませんでした」
「(ええぇ……)」そんな感じの受け答えをしている遠藤の姿に佐藤は驚愕した。口には出さなかったが、変な男が園に入って何かを言い出したタイミングで、どこかの誰かが『かるたのエリちゃん』とかなんとか言いだしたので、てっきり遠藤の仕込みかと疑ったぐらいであった。
何はともあれ、今日も園の平和は守られた。
警察一同が去った後、波留は遠藤に聞いた。
「かるたのエリちゃんは勝ちを手にしなくてよかったんですか?」
「そんなもの、どんな手を使ってでも勝てばよかろうなのですよ」
「……悪役の台詞ですね」
波留、佐藤。新年初呆れ。
園の表で。
山田「あれ? カルタ小僧だ」
警官A「むっ、君は……ま~たこの幼稚園に来ていたのか! 近づくなと何度も言っているじゃないか!」
山田「いえいえ、ですから僕は、この園の先生なんですって」
警官A「はいはい、みんなそう言うんだよ」
山田「本当ですって!」
警官A「それになんだ! その荷物は! どこの世界に昼間っからシャンパンを持って幼稚園内に入る保父さんがいるっていうんだ? ああ?」
山田「いや、これはシャンメリーと言ってでs」
警官A「はいはい、みんなそう言うんだよ」
山田「聞いてくれない!」
警官B「……山田さん。先ほど、こちらの園の遠藤先生にお話を伺ったんですがね」
山田「はい」
警官B「男性の教諭はいないらしいんですわ」
山田「は?」
警官B「……署で、ちゃんと話しましょうか?」
山田「……」
山田、新年初連行。