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第50話 戦国大名列伝そろもん

 天下に覇を唱えて早二ヶ月。それまで無名の大名であった遠藤家は電光石火の快進撃を魅せ、メキメキと力をつけていき、あっという間に天下統一間際まで迫っていた。


 しかしながら出る杭は打たれるのが世の常。たったの二ヶ月で大大名になったとしても信用を得るまでにはいたらなかった。


 それがよくなかったのかもしれない。


 先刻、狼煙が確認された。煙は遠藤家に謀反を起こした輩がいたことを報告する色をしていた。

 

 オロオロと対策を検討している軍師、波留兵衛を尻目に、それでも当主である遠藤は落ち着きはらっていた。遠藤は理解していた。知略は波留兵衛に任せればよい。政治も波留兵衛に任せればよい。戦略を練るのも波留兵衛に任せれば間違いない。治水は山田斎に任せればよかったし、武力は佐藤之介に任せればよい。


 ようするに何もすることがないのだ。


「報告しますっ!」


 狼煙を受け、斥候が息を切らせながらドタドタと入ってくる。


「うむ、申せ」遠藤、偉そう。


「旗は桔梗紋!」


「明智かっ!」波留兵衛は斥候の言葉を遮るように叫んだ。


「謀反人は明智光秀……続くように西より織田、豊臣、毛利、大友、島津、龍造寺。加えて東より武田、上杉、芦名、最上、佐竹、北条、徳川、北より朝倉、浅井、南より長曾我部、三好にございます!」


「……して、数は」


「はっ、おおよそ三十万」


「なるほど……さて、波留兵衛よ。主の考えを聞かせてもらおうか」


「殿、敵方三十万に対して当方の兵数を御存じでございますか?」


「二十五万くらい?」


「殿を含めて七十六でございます」


「いけるなっ!」


「無理かと」


 波留兵衛の発言を聞いて遠藤は黙りこむ。これまで戦いぬいてきた自身の経験(二ヶ月)の中から何か打てる手はないものかと引き出しを開けては閉めて、ある一つの妙案を思い浮かべて波留兵衛へと確認する。


「鶴翼の陣でワンチャンいけ」


「ません! 三十万人相手に七十六人の陣形なんて全然意味がありません」


「いやぁ、そういわずに、こう、包囲してしまえば……ね?」


「七十六人で包囲って、穴ボッコボコ開いてるじゃないですか。無理です」


 一度『こう』と決めてしまった波留兵衛を説得するには骨が折れる。そのことを知っていた遠藤は腰の折れ曲がった山田老こと、山田斎に質問する。


「山田斎よ、主の機械からくりをもってすればどうじゃ?」


 白い髭を床まで垂らした皺だらけの山田斎は、ニンマリと笑みを浮かべて返した。


「十万……はいけるかと」


「山田斎すごっ! なに? ロボ? ロボなの?」


「殿、ロボではございませぬ。『からくり』でございます」


 山田斎が一人で十万もの相手を買って出たことから遠藤は俄然やる気を取り戻す。それでも残りの二十万もの大軍を破る奇策が思い浮かばず頭を抱える。ここまで無言を貫き通していた佐藤之介、遠藤家随一の武力を誇る彼女に改めて問う。


「佐藤之介よ……主の力ではどうじゃ?」


 佐藤之介は自信無さげに答える。恐らくは、かなり謙遜しているのであろう、そんな様子で。


「頑張れば十二万はいけるかと」


「徒手空拳で? どうなってんのそれ! なに? 常時無双乱舞?」


「そんな感じです」


 ……


 遠藤は現状を整理した。


 迫りくる戦国大名オールスター三十万に対する遠藤家の戦力は二十二万七十四。これでも足りない。しかし、ここまで戦力差が縮まったのであれば波留兵衛の知恵さえ加われば勝ちの目が見えてくるのではないかと思う。


「……もうひと押し欲しいですねぇ」波留兵衛の呟きを遠藤は見逃さなかった。


「波留兵衛よ。我が遠藤家に仕える七十二の猛将は、それぞれが一騎当千の強者であるが、どうだ? いけそうな気はしないか?」


 波留兵衛にしてみれば『一騎当千が文字通り一人で千人倒す戦力と勘違いしているウチの殿様は頭がどうにかしているんじゃないか?』と誰かに打ち明けたいところではあるが、俸禄をいただいている身の上であれば、それも致し方なし。


「(計算しても仕方ないけど)これで我が方の戦力は二十九万二千! 殿! 敵方は遠藤家を討つために立ち上がった連合軍とはいえ、各個の連携が薄いことが搦め手でございましょう!」


 (嫌々ながらも)ノリ気になった波留兵衛に遠藤の目は一層の輝きを増す。見据えた先に見えた天下を掴み取る様に腕を伸ばすと城全体に届く程の声で兵を鼓舞した。


「さあ! 皆の者! 刀を持ちて立ち上がれ! 天下の逆賊を此度の戦で一掃してくれようぞ! 頼もしき我が七十二の将よ! 声を上げるのだ!!」


「……」


「声を上げるのだ!!」


「……」


「声をあげ」


「との、うるさい! おひるねのじゃま!」


滅んだ。

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