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第4話 銀杏組のウァサゴちゃん

ウァサゴ

26の軍勢を率いる序列3番目の君主

過去、現在、未来を知り、隠されたものを発見する能力を持つ悪魔

「はーるせんせー」


 職員室の入口にドングリのような頭をした小坊主が波留を呼んでいる。どうやら何事かが起きたようではあるのだが、どうにも間延びした声に波留も反応に困る。


 子供の声は同じ顔の高さで聞くことが基本である。決してないがしろにしてはならない。どんな大人であろうが、彼らにとっては大人の一人に変わりない訳であって、ただの一度だけでも興味のない素振りをみせてしまうとそれだけで大人に対する見方に影響を与えかねない。


 ある程度の一般常識を備えた波留はテキストに従うように膝を折って耳を傾ける。


「どうしたのかな?」


 大人がキチンと耳を傾ければ子供はキチンと反応を示してくれるものだ。


「あのーね、おそとでね、たたかってるの」


 主語がなかろうがどうしようが子供は子供なりに表現をしているのであるから、『常識ある』大人はそこのところを上手い具合に斟酌しんしゃくしてあげる必要がある。何からなにまで質問攻めにしてしまうこともまた、子供に対して耳を傾けていないのと同義である。


 ……と『はじめての保母さん~子供への忖度の仕方編~【民明書房刊】』に書いてあったのを思い出して実践する。


「ええと、お外で戦ってる……ケンカしているのは誰と誰かな?」


 慌ててはならない。物事の本質を見極めるためにはいつでも落ち着いて対応する必要がある。子供同士のケンカともなれば、恐らく、どちらに非があるというものでもないはずだ。波留は考える。暴れん坊のあの子だろうか、それともやんちゃなあの子だろうか……


「えんどーせんせい」


「事情が変わった。急ごう。奴を止めなければならない」


 少年の肩に波留の力強い掌がそっと置かれ、決意の目を魅せる。


「はるせんせーかっけえー」


 ……


 園の庭には人だかりができていた。人だかりといっても一人を除いて全員が幼稚園児な訳で、人垣にすらならない。波留が視たのは少しばかり体の大きな『大人』な遠藤とウァサゴちゃんが『良い感じの棒きれ』を取り合っているという地獄絵図。


 意味もわからず泣きじゃくる子がいたのであろう連鎖的にわんわんと泣き叫ぶ……というよりも悲鳴を上げる光景は地獄を地獄たらしめていた。


 足下の子らを蹴散らさないように気を付けながら掻き分けて波留が怒声を浴びせる(遠藤に)


「ちょ、ちょっと遠藤先生っ! なにやってるんですか!(いつもいつも)」


 恐らく遠藤は近づく波留に気づくことすら無い程に集中していたのであろう。その声を聞くやいなや、腰を抜かしてしまい『良い感じの棒きれ』から手を離してしまった。尻餅をついた遠藤は大きなため息をついて波留に冷たい視線を浴びせる。


「……ちょっと波留先生、どういうつもりですか?」


「こっちの台詞だっ! このとんちき野郎!」


 余程、波留の怒りが込められた声が怖かったのであろう涙の大喝采が巻き起こる。その混乱に乗じて遠藤の背後をとったウァサゴちゃんは『良い感じの棒』を遠藤の尻めがけてペチンと振るった。


「いったっ!」


「ゆうしゃよ。この『せいけんえくすかりばー』のいりょく。とくとあじわうがいい!」


ぺちんっ! 痛っ!

ぺちんっ! 痛っ!

ぺちんっ! 痛っ!

ぺちんっ! 痛っ!

ぺちんっ! いい加減にしろよこのお子様!!


「ちょっと待って! ウァサゴちゃん。今、その棒きれのことなんて言った?」


「えっ『せいけんえくすかりばー』だけど……」


「遠藤先生。もしかして『聖剣エクスカリバーは自分の物だから返せ』とか言ってませんよね? ただの『良い感じの棒きれ』ですよ? まさかそんなことないですよね?」


「流石は元賢者。何も言わずに状況を理解するとは」


「おい、マジかお前」


 尻を叩かれ続けた遠藤と尻を叩き続けた悪がきウァサゴちゃんは『それがどうした?』と言わんばかりのとぼけた顔で波留を仰ぎみた。


「うっそだろお前ら! いい加減にしろよ!」


 鬼の形相をした波留先生は『せいけんえくすかりばー』を奪い取るとメタメタに折りたたんで使い物にならない形にしただけに飽き足らず、ウァサゴちゃんのご両親を呼びつけ、ついでに遠藤先生の両親にも連絡をするのであった。


 なお聖剣エクスカリバーを折った代償として波留先生は数日間、園児たちから避けられ続けた。

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