第48話 柊組のハゲンティちゃん
ハゲンティ
33の軍団を率いる序列48番の大総裁
力強い牡牛の姿で現れる。水をワインに変えたりワインを水に変えたりする悪魔
ハラリハラリと舞い散る雪が二人の感覚を徐々にではあるが蝕んでいく。もう、拳を握る力も残されてはいなかった。
男は女にだけ聴こえるような声で呟いた。切れた息が吐き出される度に白く靄を生み出す。それが、身を寄せた背の低い柱の陰から漏れ出でる度、やつらに居場所を気取られるかもしれない恐怖に顔を滲ませながら。
「遠藤先生、私が囮になります。どうか、その隙に」
「そんな、……いえ、わかりました。山田先生の覚悟、無駄にはしません」
山田は鈍重な雲を仰ぎ、数度だけ深い呼吸を繰り返す。薄らと浮かべた涙はこれから訪れる出来事を想像したのか、あるいはこれまでの出来事が走馬燈のようによみがえったのか。山田の口から語られることはなかった。
「山田先生、泣いているんですか?」
頭を垂れ、隠すような仕草で、袖口をもって目頭を押さえる。……そこに言葉はなかった。ただ、遠藤の目には山田の口角がニマリと持ち上がったように写った。
「イキマス!」
掛け声と同時に大きな山田の身体は柱の陰から飛び出した……
……
二時間前。
果たして犯人が誰なのか、なんてことは結局のところ誰だか探すことさえできないのであろう。廃屋と化した『そろもん』に、何者かの手による不法投棄が繰り返されていた。
恐らくは、手放された空き地だと勘違いした何者かにとっては体の良い空き地なのであろう。
「また、ですか。どうします? こういうのって手を打たないとエスカレートしていっちゃうイメージがあるんですけど」遠藤は、呆れた様子で波留に告げる。
それを聞いた波留も同じく呆れた顔をしていた。立て看板を置いても何をしても日に日に増えていくナニカ。遠藤の問いに対して適切な回答を持たない波留は無言を通した。
「まあ、幸か不幸か家電みたいな廃棄にお金のかかる物ではないようですし、これくらいであれば僕の手だけでも処理できますから、そう目くじらを立てることもないですよ」
山田が笑顔を崩さなかったのは、内心、一番腹が立っていたからであろう。
その後、不法投棄の犯人を待ち伏せたり、追い回したり、絞ったり絞られたり、大きくなってみたり縮んでみたりしながら、途中でハゲンティちゃんの活躍もあったりなんかして、なんやかんやあって、その件は解決した。
「いやぁ~、まさかハゲンティちゃんにあんな特技があっただなんて驚きでしたね」
「あさめしまえです」
「あそこで三回繰り返すとは思いもよりませんでした。いやはや、子どもの発想とは、かくも柔軟なものなんですね」
「ぐうぜんです。しょせんは『おもいつき』ですから」
「またまた謙遜しなくてもいいよハゲンティちゃん。それにしても不法投棄されたアレを固めて丸めると飛ぶだなんて夢にも思わなかった……」
「えほんでよみました」
ハゲンティちゃんは照れ笑いしながら、その時の様子を振り返るように不法投棄された廃棄物の山からアレを取り出す。
「じつは、こんなこともできます」
アレを、一家に一つはあるチューブタイプのアレと、円形のアレとを器用に混ぜ合わせることで仄かに熱を帯び始め、ハゲンティちゃんが火傷しない丁度よいところで地面にポトリと落とすと、シュワシュワと泡立ちながらモクモクと黒煙を吐き始めた。
そういえば寒い。
四人は身を寄せ合いシュワシュワ泡立つアレに両手を差し出しながら暖を取り始める。
「はぁ……暖かいですね。ココア飲みます?」波留はそう言いながらポケットからヌルリとスティック型のココアパウダーを取り出して、各自が手に持ったコップに粉を配って回る。
「……今まで隠していましたが、僕、指先から熱湯を出すことができるんです。ちょうどよかった、それでいただきましょう。砂糖はないですけど」
「佐藤ならここにいますよ?」
そろもんの瓦礫の間から現れた佐藤は、どうやら素手で猪を狩っていたらしく、汗を拭きながら四人の前に現れて年越し猪肉BBQが始まった。
……
「という夢を見ました」
「……遠藤先生? 最初と最後で話が繋がっていませんよ?」
「わたし、流石に素手で猪はちょっと……」
「というか、僕、どうなったんです? え? 年明け早々死んだんですか?」
後書き
◆山田の初夢トーク
山田「一藤、二藤、三藤でした」
佐藤「????」
遠藤「富士ではなく?」
波留「……二藤」 ← 撮り溜めたヲタ恋を周回視聴中
 




