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第47話 魔女マスコさん

魔女マスコ

フランスの魔女の名前。

ウサギの足の剥製が幸運を招くとして一大ムーヴメントを起こした。

『マスコット』の由来とされている。ちなみに本作には一切登場しない。


 世界に闇の帳が落ち、分厚い遮光カーテンをもって外界からの一切の光を拒絶した室内で聖母は目覚めた。


 それは唐突な目覚めであった。これまでの人生の全てを上書きしても事足りない程の衝撃を持って彼女は使命を認識した。


 何がキッカケだったのか、それは神のみぞ知る所なのであろう。どちらにしても、そのような些細なことに意識を回す程、彼女に余裕はなかった。


 無意識のうちに真っ暗な空間へと手を伸ばし、スマホを掴み取ると眩しいまでの光を目に受けながら電話を鳴らした。「早く……早く出て」思いが口をついてでる。数回のコール音の後、機械的な留守番電話の声色ではないことを確認した上で遠藤は口早に告げた。


「起きてましたか? 波留先生。急ぎ、お話をしたいことがあるのですが」


 電話口の相手は、いつもと違う遠藤の深刻そうな口調に身構える。何かあったのか? 大丈夫なのか? 一体どうしたのか? 心配性な波留は矢継ぎ早に返した。


「園にマスコットキャラを作りましょう」


「……なんで?」


「……干支がいいと思うんです」


「いやいや、なんで?」


「毎年変わる方がインパクト……強いんです」


「『……強いんです』じゃなくて、……じゃなくて、今、何時だと思ってるんですか?」


「……だいたい三時くらいでしょうか」


「既に惨事だよ! 『起きてますか?』って寝てるわ! 常識的に考えて」


「『三時』と『惨事』……なるほど!」


「そういうの本当にやめて! ……だから、どうしてマスコットなんですか? しかも三時に」


「大変なことに気が付いてしまったんです。今まで当たり前だと思っていたことが根本から覆るような大変なことに……」


「(駄目だ。私の話を聞いてくれない……)」


 波留には電話口の遠藤の様子は見えない。きっと、夜中まで積みアニメを観続けていたのであろうと安直に考えていた。


 その通りであった。


 この日、遠藤は昼の内から延々と、食事もとらずにアニメ視聴マラソンを続け、いつのまにやら寝落ちしていたのだ。ただ、寝惚けて電話をしたということでもない辺り非常にたちが悪い。


 小さな間を置いて遠藤は低い口調で説明する。気づいてしまった事柄を恐ろしい話をするかのように。


「干支。十二支。数えてみると、『子』『丑』『寅』『卯』『辰兄」『午』『羊』『猿』『鳥』『戌』『猪』……十一しかないんです。きっと、きっと、知ってはならない十二番目の名前を呼んではいけない感じのヤツがあ』


「切っていいですか?」


「ああん。ちょっと待ってください! おかしいと思いませんか? 動物の中になんで辰兄がいるんですか! 辰兄って誰なんですか!」


「こっちが聞きたいですよっ!」


 遠藤は声を荒げる波留に対して何かを察するように続けた。


「なるほど。その反応をみると、やっぱり気づいてはいけないことだったんですね。……波留先生は一体どこまでご存じなんですか? 約束します! 他言しませんから!」


「本当に切っていいですか?」


「……まさかっ、盗聴! そこまで隠蔽された歴史が辰兄には隠されているのか(驚愕)」


 噛み合わない遠藤に波留は深くため息を吐く。安眠を邪魔され、意味の分からないことを言い出した可哀相な同僚の将来を不安に感じながら答えた。


「いいですか遠藤先生。干支は『辰兄』じゃなくて『辰』『巳』。ちょっと調べればわかる事だと思いますよ?」


「辰巳さん?」


「違う! 『辰』と『巳』で、龍と蛇!」


「波留先生、なんでそこで龍が出てくるんですかぁ~。もう、いい歳して中二病なんて笑えませんよ?」


「は? ちょ、おま、ええ……」


「あーはいはい、わかりましたわかりました。『辰巳』『辰巳』、龍ですよね? っぷぷぷ……すみません。笑う所じゃないってわかってるんですけどね……龍って」


 電話の向こうで必死に笑いを堪えている遠藤の姿を想像して腸が煮えくり返る思いの波留は、一対一のやりとりにあって、相手の話を聞かない。これが相対した者に対してどれ程の理不尽をもたらすのか、を反面教師的に学ぶことになった。


 午前三時に。


マスコットの話は?

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