第41話 紅花組のヴィネちゃん
ヴィネ
36の軍団を率いる序列45番の王で伯爵
馬に跨ったライオンの姿をしている。塔を造ったり壊したりする悪魔
「えんどせんせー、えんどせんせー、どうして、はるせんせーには『おむね』がないの?」
「それはねヴィネちゃん。前世でのおこないがよくなかったからだよ」
「ちょっと待て遠藤。適当なことを吹き込むな」
社会見学。
何事も体験させることを教育の是としている無認可幼稚園『そろもん』。今回、一行が訪れたのは、園と同じ町内に古くからある銭湯『玉乃湯』であった。郊外にあるようなスーパー銭湯的なものではなくて、昔から近隣住人たちの疲れを癒してきた言わば地域に愛されている銭湯。
『裸の付き合いは人生を学ぶことと似たり』なんてことを誰かが言ったり言わなかったりしたのは、こういった施設が当たり前のように無数に存在していたからなのであろう。
子どもたちにしてみれば、家族以外の人間と同じ湯舟に浸かる機会だなんてほとんど無い訳で、それはそれは楽しそうにハシャいでいるのであった。
「でも、はるせんせーの『おはだ』、とってもきれい!」
「そうだねぇ。波留先生の肌ってツルツルしててまな板みたいだね」
「遠藤先生?」
「冗談ですよ冗談。本気にしないでくださいよ。あと、シャワーヘッドは人を叩くものではないので置いてください……」
波留は恨めしそうに遠藤を見る。無意味に恵体なのがイラっとする。
玉乃湯に社会見学に行くという話になったときに、いつもは面倒臭がって動こうとしない遠藤が、やたらと張り切っていたので『何か裏がある』とは思っていたが、なるほど、自分の身体に余程の自信があったのであろう。
「えんどせんせーむちむちしてておもしろーい!」
ヴィネちゃんの無垢な笑顔が波留の胸を締め付ける。小さな子どもが突き出した指を弾力のある遠藤の筋肉がパツンと押し返す。浴びるシャワーの水を弾き、滴る水滴をツルツルと滑らせる。
「それにしても波留先生の肌って、本当に白くて綺麗ですよねぇ」
「まあ、これでも一応、お肌のお手入れは頑張ってやってますからね」
「へえー。私は何もしてないんですけどね!」
「やっぱり嫌味だった!」
……
何はともあれ、大きな湯舟というものは人の心を何とも和ませてくれるものである。
先ほどまで殺意を抱きかけていた波留のわだかまりも、ほんのりと解してくれて、行儀は良くないが、まあ止めようがない程にバシャバシャと泳いでいた子どもたちも、気が付けば、のんびりと気を落ち着けてくれる。
すると不思議なもので、自然と深呼吸にも似た深い息をついてしまうものだ。
「えんどせんせーのからだ、おもしろーい! いろがちがうんだね!」
当たり前ではあるが、普段は目にすることはない部分もさらけ出しているので好奇心旺盛な子どもの目は小さな異変も見逃してくれることはない。
「あ~本当だ! 遠藤先生、それって水着の跡ですか? お休みなんてほとんどないのに、いつの間に……」
「いやぁ、実は今年の夏、着る予定も無いのに水着を新調しちゃいまして、年甲斐もなく。えへへ」
「それはまた意外な一面。インドア派の遠藤先生でも海に行ったりするんですね。やっぱりアレですか? アニメ繋がりの友達だとか」
「一人です」
「……失礼しました」
「園で」
「職場で!」
「なんとなく夏の陽射しを浴びたいなって」
「だとしても。だとしても職場で新調した水着を! 水っ気ないのに!」
「そうですよ! 僕に言ってくれたらビニールプールでも準備してあげたのに!」
「!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!!」
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
ヴィネちゃんは何も不思議に思わない。
「やまだせんせー、せなかおおきい……」
「みんなの為に、いつも鍛えてるからね!」
「????????????????」
「????????????????」
山田「いやぁ、裸の付き合いって、本当に大事だと思うんです」
警官A「……また、あなたですか」
警官B「言いたいことはそれだけかい?」