第37話 あの日みたアニメの衝撃を遠藤は忘れない
地球温暖化の影響なのか、単なる気まぐれなのか、異様な寒さをみせる日の翌日に夏を思い出させるような陽射しの強さが降り注ぐ日々が続く。
もっとも、誰が言い出したのか『子どもは風の子』というものは実に的を射ていると思わせてくれるほどには『そろもん』の園児たちは賑やかであった。
成長段階にある子どもの小さな体は『一体どこからその熱量を生み出しているのか』、と不思議に思うこともしばしば。そんな子どもたちを波留は頼もしいと感じる一方で、いずれくる卒業のことを想像してしまい、目頭が熱くなる。
「……卒業しなきゃ……ですね」
波留はギョッとした。感傷的になっていた点は兎も角として、まさか遠藤が同じことを考えていたという事実に驚きを禁じ得ない。
「……そう、ですね。彼らの成長を誇るべきなんですよ。きっと」
普段はよからぬことを企て、目の届かない場所では楽をしたがる遠藤の姿ばかりを見てきた波留は、嬉しくなる。そして、全くそんな様子をみせることのなかった遠藤の底の深さを、素直に認めたくなる。
「1Q、話数にして約十二話。時間にすれば、たかだか六時間」
「ん?」
「予告PVに始まり、一話のハードルを乗り越え、四話辺りからの展開の遅さに思わず原作を大人買い」
「は?」
「一週間に一度という近年の発達した通信網を前提とすれば非常に遅い更新頻度に対して、SNSを通じて出会ったひと時の戦友たちと盛り上がるリアルタイムな実況付きの視聴の果てに迎えた十話の死闘」
「……秋アニメですか」
「十一話では倒したはずのラスボスが、実は真のラスボスを封じていたという驚愕のエピソードを盛り込み、とうとう迎えた涙の最終話」
「聞いてないですね」
「続編を匂わせる幕引きに、翌週の放送を確認するけれど、そこには別のアニメの第一話のタイトルが……この無情ともいうべき視聴者置き去り、続編をみたければ円盤を買え、と言わんばかりの構成に最終回の寂しさも加わって……」
「続きが見たいなら買えばいいじゃないですか」
拳を握り、わなわなと震える遠藤に対して波留はスパンと竹を割るように返す。
「……いやぁ、私が買っても続きが出るとは限りませんし」
「でも続編みたいんですよね? じゃあ買い支えなきゃ」
波留の思わぬ反撃に遠藤は握った拳を緩やかに開き、顔の前で手を組んでモジモジと応じる。
見据えた波留の表情が若干不機嫌に見えたこともあって遠藤は小さくなっていく。
「円盤、高いですし、他にも視たい作品ありますし。それにホラ、『……卒業しなきゃ……ですよ』ねっ、ねっ」
「話を逸らさないでください!」
「ぐぬぬ」
「なにが『ぐぬぬ』ですか! ずっと追いかけていたい作品があるのなら全力を尽くして応援することが何よりもの愛情じゃないですかっ!」
遠藤は、波留が何故こんなにも熱弁するのかが理解できないでいた。それは別に『そろもん』の子どもたちの卒業と秋アニメの終了シーズンを掛けた『おふざけ』に対する怒りなんてものではなくて、なんというか、人としての在り方を高らかに叫んでいるようにも思えた。
「そ、そんなことないですよ。アニメ好きですし。原作の漫画だって揃えましたし」
「……初版ですか」
「はい?」
「その漫画は初版ですか? 新刊ですよね? 帯がついてますよね? まさか中古本だなんてことはないですよね?」
「しょ、初版です(本当は中古だし、版数なんて見てないんだけど)」
「……特典は?」
「つ、付いてませんでした(知らないけど)」
「だったら、なおのことDVDを……いや、Blu-rayを! いや、単品とBOXで初回予約するべきでしょう! いや、するはず! それが作品に対する礼儀というものでしょう!」
「そ、そんなもの、中身全部同じじゃないですか~、やだなぁ波留先生~」
遠藤は虎の尾を踏んだ。
波留の怒号は園内に轟き、今まさに引きちぎられんとする血管をこめかみに浮かべながら鬼は吼える。己が愛するBASARAシリーズの素晴らしさを、勿論、学園BASARAの放映が始まる前日の段階で既に初回予約申し込みが完了していることを。
波留曰く、遠藤には覚悟が足りないのだという。作品に対する愛情は注いだ金額に比例する。無論、そんなことはない。そんなことはないのだけれど、『それもある』。遠藤の言葉を借りると『作品の続編を望む』のならば、どんなに綺麗ごとを並べても結局は買い支えるしかないのである。と。
がなり立てる波留に対して遠藤は恐る恐る尋ねる。変な敬語で。
「……こ、コードギアスも映画化されるようですが、そちらはもうよろしいのですか?」
「それはそれっ! これはこれっ! コーヒーとコーラは同居しないでしょ!」
「いや、その例えは、よくわからないですね」
後書き
遠藤「ガンダムシリーズにハマると大変なことになりますねw」
波留「ガンダム?」
波留、自身が興味のないジャンル以外、本当に知らないスタイル。
後書き その2
波留「ばらかもん……終わりましたね」
遠藤「原作が終わるのが、一番つらいっす」
波留「(わかる)」
山田「ハンターハンターみたいに生殺しもきついっす」
遠藤・波留「(わかる)」
佐藤「ガラスの仮面……」
遠藤・波留「本誌が休刊!(白目))」
後書き その3
遠藤「波留先生って卒業したシリーズで買い支えたグッズってどうされてるんですか?」
波留「さあーて、仕事仕事!」
遠藤「おい、ちょっと待て」




