第35話 雛罌粟組のマルバスちゃん、ハルパスちゃん
マルバス
36の軍団を率いる序列5番目の大総裁
ライオンの姿で現れる。質問に真摯に答えてくれる案外真面目な悪魔
ハルパス(2回目)
26の軍団を率いる序列38番目の伯爵
コウノトリの姿で現れる。しゃがれ声。塔を建てる悪魔
「ぷいきゅあっぷいきゅあっ、ぷーいてぃでーくぅーあくぅーあー」
「やーーーーーん、鬼ごっつ可愛いー!! 舌ったらずな所が鬼ごっつ可愛いー!」
「くぅ~たまらんですっ! キュートな姿がもう、がばいハートキャッチ!!」
マルバスちゃんとハルパスちゃんは、歌を歌う。何故ならば、聞いてくれる遠藤と山田が喜んでくれるから。
サイリウムを両手に構えてガシガシ振り回し、やたらと派手な法被はどこから持ってきたのやら。ライブはいつも裏庭の薄暗い場所で開催される。山田お手製の小さなステージ上に二人の園児がスポットライトも無い中、一心不乱に歌う。
「L・O・V・E・ラブリー・マルバス!」
「L・O・V・E・ラブリー・ハルパス!」
陽気な大人の子が二人、ステージ上の二人を喰ってしまわんばかりのエールを送る。
……
「遠藤先生。山田先生。なんで正座させられているか、わかりますか?」
「……波留先生を誘わなかったから」
「違いますっ!」
職員室で同僚から説教を受ける陽気だった大人の子、二人。子どもを愛でるなとは言わない。愛情を持って接することは実に素晴らしいことだ。子どもを応援するなとは言わない。感性を育むことは実に推奨されるべきことだ。
波留は、何もそんな二人の心根に対して怒っているのではない。
「……波留先生が好きなフレッシュプリキュアじゃなかったから」
「違いますっ!」
「遠藤先生……波留先生は、きっとハピネスチャージ派なんd」
「違いますっ! シリーズの問題ではありません!」
近所迷惑。騒音被害。『そろもん』の近隣に住んでいれば、そんなものはある程度は許容されるべきものであろう。そんなことは誰しもが理解している。だがしかし、大人の声となれば話は別だ。
子どもが大きな声でアニメの主題歌を口ずさむ。ともすれば注意すべきことなのであろうが、あろうことか、その小さな騒音をかき消さんばかりにドスの効いた声量でエールを送っていたのだから、それはもう話にならない。
「いやぁ、僕はHUGっと!派でして」
「聞いてません! っていうか山田先生、現役なんですか? 独身ですよね? 本気ですか!」
「……私はスマイル派……ですかね」
「聞いてませんって! 全然反省してないじゃないですか! 苦情が届いているんですよ? わかってますか?」
「そんな、子どもが歌っているくらいで苦情だなんて……ちょっと酷くないです?」
「お前らの声だよっ!」
いい歳して職場で正座をさせられ、怒られ、怒鳴られ、いつもいつも頭を下げるのは波留の役目。これで同じ給料なのだから腹立たしくて仕方がない。
それでも山田に関していえば、送迎バスの運転やら遊具の制作、補修、保全、改修、ペンキ塗り、肉体労働、掃除、飼育、草むしり、土壌改良、水質検査、パシリ、見張り、等々それなりに仕事があるので、まあ許せるが、問題は遠藤である。
面倒事はやりたがらない。美味しいところはもっていきたがる。目立ちたがり、その割にシャイ、すぐ寝る。中二病。ロクなことがない。
「そんなに褒めないでくださいよぉ」
「褒めてま……心を読むなっ!」
波留は、深いため息を吐く。両手を重ね、涙目で天井を仰ぐ。こんなどうしようもない同僚に囲まれた自身の境遇を嘆き、神に問いかける。何故このような目に遭わねばならないのか。もう少しマシな同僚に恵まれなかったのは私が前世でよからぬことをやってしまった罰なのか。と。
「あれじゃないです? 前世で魔法の詠唱の時に、やたら神に祈りを捧げてたから、その代償みたいな」
「なんですか、その中二設定……だから心を読まないでくださいってば!」
前世
賢者カス=パール
「おお神よっ! 我らに加護を与えたまえ!」 ← 原因




