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第34話 竜胆組のアミーちゃん

アミー

36の軍団を率いる序列58番目の大総裁

炎を纏って現れる美男。魂と引き替えに教養を与えてくれる悪魔


「えんどうせんせー、スイミーは、どうしていっぴきだけくろいの?」


 アミーちゃんは、自身の胴体ほどもある絵本をしっかりと抱きしめながら半泣きで遠藤に問いかける。どうやら多くの仲間の中で一匹だけ仲間外れの色をしていた小魚スイミーが可哀相に感じたらしい。


 遠藤は、そんな優しい心をもつアミーちゃんを褒めるような口調で、なるべく気持ちを壊さないように答える。


「それはね、皆と違っていても大丈夫なんだよ。皆、仲間なんだよ。ってことなの」


 いわゆるスイミーにおける模範解答。

 テストに出れば、このように答えておけば丸がもらえるようなものだ。ただ、そんな解答有りきな大人の都合に子どもの疑問は解消されないこともある。


「……スイミーはどうしていっぴきだけくろいの?」


「うん。皆と違っても大丈夫なんだよ~ってお話なの。赤いお魚さんの中で一匹だけ黒くても、それh……」


「どうしていっぴきだけくろいの?」


 遠藤は、アミーちゃんの頑なな目線に思わずゴクリと喉を鳴らした。


「……ちょ、ちょっと待っててね!」


 ……


「山田先生を連れてきたよ! はい、アミーちゃんどうぞ!」


 状況が呑み込めていない山田は、アミーちゃんの小さな胸に抱かれた絵本のタイトルをみて、八割がた理解する。同時に遠藤の情けない体たらくに、ため息を隠せないでいた。


 アミーちゃんはウルウルと瞳を光らせながら問う。


「やまだせんせー。スイミーは、どうしていっぴきだけくろいの?」


 やっぱりその質問か。山田は内心ほくそ笑みながら、それでも泣き顔を浮かべるアミーちゃんには悟られないように優しい笑顔で答える。


「アミーちゃん。それはね、皆と違っていても大丈夫なんだよ。皆、仲間なんだよ。ってことなんだ」


「ごめんなさい山田先生。それ、私がもう言いました」


「……は?」


「やまだせんせー。どうしていっぴきだけくろいの?」


「は?」


 山田は困惑する。

 常識的に考えて、この回答以外に正解は無いはずだ。と。『魚が何故、黒いのか?』それを聞いてアミーちゃんは何を得ることができるのだろうか。っていうか魚が黒い理由なんて知らんがな。と。


 一時の間を置き、山田は漏らすように答えた。


「……遺伝?」


「いでん?」


「スイミーのパパとママが『黒いお魚さん』だったから、子どものスイミーが黒いんだよ(たぶん)」 


 満面の笑顔で押し切ろうとする山田の言葉を受けてアミーちゃんは首を傾げる。


「……じゃあ『むれ』にくろいのほかにもいたの?」


「うん、いたいた。ちょうどご飯食べてた」


「ちょっと遠藤先生っ! 勝手に付け加えないでください」


「じゃあ、おおきな『おさかなさん』にくろいのいっぱい? きもちわるくない?」  


 赤い魚の群れに一匹だけ黒い魚が居たから『目』になれた訳であって、黒い魚の比率が増えれば……


「……気持ち悪いね。やっぱり無しで」


「言わんこっちゃない。うーん、アミーちゃん。ちょっと待っててね」


 ……


「佐藤先生を連れてきました! じゃあ、アミーちゃん、もう一度いいかな?」


 佐藤は状況がつかめていない。休憩時間中にゆっくりとお茶を飲んでいたところを問答無用で山田に引っ張られてきたので何がなにやらである。


 しかし、アミーちゃんの小さな胸に抱かれた絵本のタイトルをみて、大方理解する。同時に同じ先生として遠藤と山田を情けなく思えて仕方が無かった。


 アミーちゃんは今にも涙が溢れそうな瞳を佐藤に向けて質問する。


「さとうせんせー。スイミーがくろいのはどうして?」


「ん? アミーちゃん、質問が雑になってない? 怒ってる?」


 遠藤が何を言っているのか佐藤には分からなかったが、アミーちゃんの質問には満額回答ができそうで少しだけ胸を張って答えた。


「それはね、皆と違っていても大丈夫なんだよ。皆、仲間なn」

「はいっ! それは私が言いました!」

「は? ……えっと、ええと、じゃ、じゃあパパとママからの遺伝かn」

「それは僕が言いましたっ!」

「ええええ……」


 遠藤と山田の『してやったり顔』を腹立たしく思う佐藤であったが、質問してくれたのは可愛い園児のアミーちゃんだ。魚が黒い理由なんて知ったことではないが、なんとか納得してくれる説明をしなければ、と頭を悩ませる。


「……そ、育ってきた環境が違うから」 


「(セロリか)」

「(セロリだな)」


「え? おなじ『うみ』じゃないの?」


「ええとね、あ~……ちょ、ちょっと待っててね! アミーちゃん」


「(逃げた)」

「(逃げた)」


 ……


「は、波留先生に来てもらいましたっ! じ、じゃあアミーちゃん、もう一度いいかな?」


 当たり前であるが波留も状況は把握できていない。無論、佐藤からの説明は一切ない。外で遊んでいる子どもたちを観ていたので、やっぱり何がなにやらである。


 それでも、そこは波留である。アミーちゃんの腕の中にある絵本のタイトル、やたらと汚いニヤケ顔をしている遠藤と山田の姿をみて「(ああ、なるほど)」と色々と察した。


 涙を堪え続けたアミーちゃんの目は決壊寸前のところでなんとか収まってはいるが、今にも溢れ出しそうな程であった。


「はるせんせい……スイミーがくろいのはどうして?」


「(なんだか投げやりだなぁ)」


「環境のせいだね」

「はいっ! それは私が言い……あれ?」


 遠藤はキョトンとした目つきで波留を見つめる。そんな遠藤ばかを尻目に波留は続けた。


「スイミーのお友達はね、元々みんな黒いお魚さんだったの。でもね、お友達のみんなは大きなお魚さんに食べられちゃって、それでスイミーは一匹だけ黒だったの」


「へえ、そうなんだ! ありがとうはるせんせい!」


「(知らなかった)」

「(知らなかった)」

「(知らなかった)」


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