第32話 洋梨組のバラムちゃん
バラム
40の軍団を指揮する序列51番目の王
牛と人と羊の頭を持って蛇の尾まで持つ欲張り。人を賢くさせる悪魔
ぽかぽか陽気に子どもたちの元気もどことなく空回りする昼下がり。そんな日のお散歩は、波留にとっても何気に楽しいものがある。車通りの少ない住宅街にあって、しっかりと整備された遊歩道、緩やかな風でも吹いてくれれば園児にとっても不満はない。
「はーい、みんな信号が赤だから青になるまで待つんだよ~」
間延びした波留の声に、吐き出しきれない元気を乗せて「はーい」なんて返事をしてくれれば自然と笑顔が溢れ出る。
「はやく、しんごうさん、げんきになってね!」
「ん?」
……
「ということがありまして。一体、バラムちゃんは何が言いたかったんだと思います? 遠藤先生?」
波留は事の経緯を振り返り、改めて不思議に思い職員室で話題に挙げた。
遠藤は一呼吸だけ間を置いて答える。
「恐らく『赤信号』だったからじゃないですか? ほらっ、FPSなんかだと画面が赤くなると大ピンチですし。応援してあげると青になって正常に戻る辺りなんて、ほら」
「『ほら』って……」
……
曇りがちな日、若干、肌寒いと感じる気温だと、普段は元気な子どもたちも、どことなく不完全燃焼気味となる。そんな日のお散歩でも佐藤にとっては園児たちと触れ合える楽しい時間。車通りの少ない住宅街にあって、しっかりと整備された遊歩道、友達同士で仲良く手を繋ぐと不思議と楽しくなって園児たちにも不満はない。
「はーい、みんな信号が青になったから渡るよ~、ちゃんと車が来ていないか確認するんだよ~」
間延びした佐藤の声に、体の内に溜め込んだ元気を乗せて「はーい」なんて返事をしてくれれば自然と笑顔が溢れ出る。
「しろいところ……ここからおちちゃ、だめなんだ!」
「ん?」
……
「ということがありまして。一体、バラムちゃんは何がしたかったんだと思います? 遠藤先生?」
佐藤は、波留の話を聞いた後、改めて振り返ってみて、自身も体験した不思議な思いを職員室で話題に挙げた。
遠藤は一呼吸だけ間を置いて答える。
「恐らく『シマシマ』だったからじゃないですか? ほらっ、サメ映画なんかだと、ちょっとでも海に落ちるとフラグが立ちますし」
「いや、それは本当によくわからないんですが。……サメ?」
……
ポツポツ小雨の日、普段は着ることの無い雨合羽を着用した子供たちのテンションは異常に高い。そんな日のお散歩担当は山田以外に務まらない。無論、山田にとっては園児たちと過ごす楽しい時間。
車通りの少ない住宅街にあって、しっかりと整備された遊歩道、友達同士でワチャワチャと水たまりで遊びながら歩く園児たちには不満の欠片もない。
「はーい、みんな逸れちゃ駄目だよ~、ほらほら、ちゃんと手を繋いで転ばないようにするんだよ~」
鼻の下を伸ばして、だらしない表情となった山田の声に、暴走する元気の塊たちは腹の底から「はーい」なんて返事をしてくれて、自然と笑顔が溢れ出る。
「やまだせんせい……めつきがこわい」
「ん?」
……
「ということがありまして。一体、バラムちゃんは何が言いたかったんだと思います? 遠藤先生?」
「いや、それは知りませんよ! なんて目で子どもたちを見てるんですかっ!」
山田は、佐藤の話を聞いた後、改めて振り返ってみて、自身も体験した不思議な思いを職員
「いやいや、なんで山田先生が私や佐藤先生と同じようなことになってるんですかっ! なんですか『自身も体験した不思議な思い』って。普通に鼻の下を伸ばしていた山田先生の顔が気持ち悪かっただけじゃないですかっ!」
「は、波留先生。さ、流石にそれは言い過ぎなんじゃ……確かに、や、山田先生の子どもたちに対する、め、目つきが怖いことはありますけど」
「恐らく『雨』だったからじゃないですか? ほらっ、水も滴るイイ男って言いますし」
「……」
「……」
「……な、なにを自分でフォローしているんですか山田先生。流石の私もドン引きですわぁ。それに、バラムちゃんになんてことを言わせてるんですか。一教育者とあろう者が! まったく、反省してくださいよ。もう!」
波留と佐藤、それに山田は同じことを考えていた。
「「「(遠藤先生にだけは言われたくないなぁ……)」」」
遠藤先生の信号待ち講座
青信号 …… 健康状態
黄信号 …… 中ダメージ
赤信号 …… 瀕死
赤信号になったら『早く治れ』と応援すれば少しだけ早く青信号になる。
と真面目な顔をして子どもたちに教えている。
なお、遠藤のレベルになると回復魔法が使えるので信号待ちで困ることが無い。などと意味不明なマウントをとっている模様。




