第27話 睡蓮組のベリトちゃん
ベリト
26の軍団を率いる序列28番目の公爵
頭が大きい。金属を黄金に変える力を持ち、しばしば嘘をつく悪魔
「じゃん・けん・ポン!! あっち向いて~……ホイッ!!」
「あー、まけちゃった……」
「フハハハハハ! そんなベリトちゃんには摩訶摩訶をプレイする権利を与えよう」
「まかまか?」
「スーパーファミコンっていう昔のハードの神ゲーだよ」
「やったー!!」
大人気ない遠藤と引っ込み思案なベリトちゃんがやっているのは『制約じゃんけん』という名の普通のあっち向いてホイ。単に罰ゲーム付きというもの。
園の大半の子どもたちが外で走り回ったり庭の中央のオブジェで遊んだりしているのにベリトちゃんは、頑なに庇の外には出ないような男の子。
身体が悪い訳でもなくて、単に眺めているのが好きなだけであるのだが、(職務を放棄して)暇を持て余した聖母こと遠藤の体の良い遊び相手なのである。
欧州系の血筋らしく、淡褐色の瞳に少しだけ彫りの深い顔つきは女の子にとっては幼気な王子様。……幼児が幼気。背伸びをしたい年頃の幼女にとっては弟のような存在な同級生。
人気が出ない訳がない。
それでも一人だったのは九割九分、遠藤が悪い。
「あっあっあっああああああ! 私の左腕がああああああああ!」
遠藤の腕は、力無くダラリと垂れさがる。痛さに耐える叫び声ではなく、唐突に腕を失った喪失感ともいうべき違和に声を絞り上げる。
右手で左腕の存在を確認するかのように擦り、持ち上げ、痛々しく……
その声に他の子どもたちが注目しないはずもなく、何事かと首を傾げるが「あー、えんどーせんせいか……」と程なくして元の遊びへと興じる位には日常。
勿論、ただの遊びである。しかし、前述の通り、ただのあっち向いてホイでもない。勝負の敗者は洩れなく罰を受ける闇のゲーム。負けた遠藤は、ベリトちゃんの要求に従い身体の一部を失なった。
「ふははははっ! いたいか? えんどーよ。ぶざまになきさけび、ゆるしをこうがよい」
「くっ……悪魔めっ! だが私は悪になど屈しはしない! 何故なら(元)勇者だからっ!」
「ほう、では、さらなる『くつう』をあじわうことになるが、よいともうすか?」
「望むところだっ!」
「そこは望んじゃダメでしょ遠藤先生……」
子どもたちが思わず見返す程の大きな声で叫べば、そりゃあ波留にも聞こえる。まさか本当に怪我をしたなんてことではないことは承知の上であるが、別の意味で怪我をしているベリトちゃんを助けにきた……が、時すでに遅し。
そもそも、遠藤イズムともいうべき中二的な格好良さに半ば憧れるような形で影響を受けてしまったのがベリトちゃん。
せっかく……せっかくのイケメン王子様がこれでは残念王子様。「彼って見た目はいいけれど、遠藤先生と同じレベルだからねー」「わかるー、ちょっとないよねー」的なやりとりを同じ位の年齢の幼女たちが交わしているのを波留は知っている。
そんな(一名を除いて)誰も望まない英才教育は『そろもん』の方針ではない。どちらかといえば波留のような常識を身につけることこそが求められる在り方である。
「……でも、はるせんせーより、えんどーせんせーのほうがおもしろいもん」
「ベリトちゃん! 超いい子! 良ぉおーしッ! よしよしよしよしよしよし」
「なんでチョコラータっ!」
「せっこです。はるせんせーの、そのような『ちゅうとはんぱ』なつっこみが、えんどーせんせーを『ぞうちょう』させているのですよ」
「全く、わかるかな? 波留先生。ベリトちゃんの言ってることが」
「……遠藤先生、小馬鹿にされてますけど、ちゃんとわかってます?」
ぬいぐるみに抱きつくような体勢でベリトちゃんを撫でまわす遠藤の手は波留の言葉でピタリと止まる。
「ぞうちょう……ベリトちゃん? 『ぞうちょう』ってどんな意味かな?」
「増長天。仏神です」
「増長天……アリだねっ! ンフフフフフフ……四天王かぁ。あれだね、『そろもん』の守護神みたいな感じ! アリアリアリアリ有明コロシアム」
「(……ブチャラティだろう……そこは、お前、ブチャラティが正解だろう遠藤よ)」
「『ありあけころしあむ』だね」
「ええ……」
……
少女たちは、ベリトちゃんを猫可愛がりする大人の女二人を尻目にため息をつく。
「これだから、えんどーせんせーも、はるせんせーも『かれし』がいないのよねぇー」
「わかるー」
「ああいうおとなにはなりたくないよねー」
「ねー」
おしまい。
『ちゅうとはんぱ』なつっこみ とは。
→ 遠藤を叱る、注意するのではなく、ボケに対するツッコミ的な反応が遠藤に反省を促さない。そういうことをベリトちゃんは言いたかったのです……
なので、「チョコラータであってるじゃん」という野暮なツッコミは不要なのです(必死の弁明)
(*ノωノ)ボケの説明は心に響くっ!