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第26話 怪奇!雨の日に放置された悪魔のロボピッチャ

 『そろもん』では定期的に新しい遊具が設置される。


 設備を常に更新していくことで陳腐化、老朽化を防ぎ、子どもたちが心地よく遊ぶため、ひいては故障した遊具で怪我をしてしまうことを未然に防止することを目的とした至極合理的な仕組みである。


 先般、打者山田と投手遠藤の全身全霊をかけた世紀の一戦もとい、悲劇の凡戦に影響を受けた結果なのかどうなのか、園児たちに対して行われたアンケートの結果、導入された新しい設備がSEGAのロボピッチャ。


 阪神園芸から取り寄せた黒土が、こんもりと盛られたピッチャーマウンドの頂点に置かれたメカメカしいプラスチックの身体はピカピカに磨かれて、それはそれは大事に、大事に扱われていた。


 初めは、その神々しいロボづらに目を輝かせ、リズムよく射出されるボールをキャッキャッいいながら追い回してはアームに戻し、射出されては追い回してアームに戻す。何が楽しいのかわからないが、先生たちもその光景を微笑ましく眺めていた。


 真っ白な体に無骨なアーム。その荒々しさに幼女たちは目を惹かれ、花畑と化していたマウンドのど真ん中に鎮座するロボピッチャに花輪を飾ってみたり、アームに蔓を通して見たりとアレンジメントを楽しんでいた。


 一週間前までは。


 雨が降りしきる日、当然ではあるが子どもたちは教室内で過ごす。もう誰にも見向き去れなくなったロボピッチャの白い体は泥に塗れ、アーム部にほどこされた植物は古代兵器を思わせる絡まり具合で寂し気に射出部を回転させている。


「……子どもって残酷ですね。先週まであんなに楽しそうだったのに」


 職員室から園の庭に放置されたロボピッチャを見ながら遠藤は悲し気な声で言う。残念な面持ちであったのは波留も同じであった。


「う~ん、でもアレって本来、室内で遊ぶものじゃないんですか? プラスチックですし。そもそも遊具じゃないですよね、アレ」


「いやぁ、でも子どもたちのアンケートの結果ですし。……なんにしても次の更新の時には撤去の対象ですね。まぁ僕としては楽ですからありがたいんですけど(この園、どんな遊具でも絶対に業者呼んでくれないし)」


 波留と山田の素っ気ない言い振りに反論する訳ではなかったが佐藤としては少しだけ腑に落ちないことがあった。


「で、でもですよ。あ、アンケートの結果の割に、こ、子どもたちが飽きるの早かったと思いませんか? っていうかなんでロボピッチャ?」


 外は雨が降っている。窓を叩く程の強い雨ではなかったが、土の地面をパラパラと鳴らす音がいつも聞こえる環境音をかき消すように……


 妙な空気になった職員室の雰囲気を変えようと遠藤は明るめの声で問いかける。


「そういえばっ! そのアンケートの結果って、大体どれくらいロボピッチャの意見があったんですか? 私、その時ちょうどいなかったんですよね」


「えっ? たぶん私もいなかったと思いますよ?」


「ん? 僕、いなかったですよ? 第一、僕ならロボピッチャよりもしっかりとした作りの遊具を造るでしょうし。冗談はやめてくださいよ~」


「や、や、やめてくださいよ~。わ、わ、私じゃありませんよ。ロボピッチャなんて存在じたい、し、知りませんでしたし……」


 四人は互いに顔を見合わせて「またまたぁ~」と苦笑し合うが、庭先でガッチャンガッチャン射出部を振り回すロボピッチャの黒い目が職員室を恨めしそうに見つめている姿を見てゾッとした。


「……百歩譲って、アンケートのことは置いておくとして、誰がロボピッチャを持ってきたんですかね?」


「……そりゃ、山田先生じゃないんですか? 遊具関連はお任せしていますし」


「いえいえ、だから僕だったらロボピッチャをそのまま置いて終わりだなんて雑なことしませんって」


「わ、私でもな、ないですよ? そんなこといって、遠藤先生がみんなをこ、怖がらせようとしているんじゃないんですか?」


「違いますよっ! どうやったらロボピッチャで怖がらせることができるっていうんですかっ! もうっ! 佐藤先生ったらいやだなぁ」


 遠藤の軽い笑い声が三人を和ませる。それも波留の次の一言で台無しになるのであるが。


「遠藤先生ったら本当に冗談が好きなんだからぁ。充分に気味が悪いじゃないですかぁ! もう、本当にやめてくださいよぉ」


「いや、ですから本当に私じゃないですよ?」


「……」


「……」


「……や、山田先生、ゆ、遊具担当なんですから、ロボピッチャをか、回収してきてくださいよ」 


 佐藤の一言に賛同した遠藤と波留は、山田を焚きつけるようにして気味の悪いロボピッチャの回収を促す。雨が降る中、ビッチョビチョになったロボピッチャを取りに行くなん気が進まない山田ではあったが、三人に言い寄られては如何せん分が悪い。しぶしぶと教室を出ようと、ふと外に目をやるが……


「……ロボピッチャが、『いない』」


「「「え゛っ」」」


 ……まだ誰も職員室から出てはいない。園児たちが雨の中、外に出るとも思えない。すると、どうだろう。園内、廊下の奥、外と室内を繋ぐ通用口の辺りから音が聴こえてくるではないか。


 ……ガッチャン……ガッチャン……


 その後、回収されたロボピッチャは二度と自我が目覚めることがないように、山田先生の手により庭のマウンド上にガッチリと固定され、『そろもん』で長らく愛されるオブジェとなりました。

山田「ようし、出来た! これからお前はロボピッチャMk2だ!」


波留「ネーミングセンスがSEGA!!」


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