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第25話 シュワルツワルダー組のオセちゃん

オセ

30の軍団を率いる序列57番目の大総裁

ヒョウと人間の姿を持つ。人を変身させる職能を持つ悪魔

 子ども同士での仲良しグループができるというものは推奨されるべきであって誰かが仲間外れだからといって、大人が安易に手出しをすることは逆に傷口を悪化させることもある。

 

 つまりはキッカケを与えてあげること。幼児期の友情なんてものは小さな小さなキッカケさえあれば、芽吹きさえすれば大人になるまでの短くも濃い時間を経て強固な友との絆を構築するものだ。


 とするのが無認可幼稚園『そろもん』の信条。


 多少の手助けをするものの、児童たちが自分たちの手で何かを成し遂げる。結果を誉めてあげるのは当然としても、狙いは過程。率先してみんなを引っ張るリーダー気質な性格が生まれることもあるだろう。一方で誰かに引っ張ってもらわないと一歩を踏み出せない事もあるだろう。


 それはそれ、これはこれ。今回主役になれなかった園児は別の機会で主役になればいい。『そろもん』はその機会をいくらでも与えてくれるのだから。


 ……


「で、遠藤先生……(とても不安なのですが)今回のテーマは何なんですか?」


 職員室で園児たちの準備を待つ波留は今回の監督役であった遠藤に投げかける。子どもたちが提案して子どもたちが計画、準備することに重きを置いているため、遠藤の息がかかることは御法度なのではあるが、佐藤、山田の顔も若干の不安の色を隠せないでいた。


「ええとですね。季節が冬なので『雪の妖精』になるんだそうですよ。まぁ細かい部分は流石に教えてくれませんでしたので私もわからないんですけども……」


 監督者として面目ないという具合に落ち込む遠藤の姿を見て三人はホッと胸を撫でおろす。遠藤が余計なことをしていないのであれば、以前あったような『包帯グルグル巻き』で『封印がうずく』だとか『ヤツが目覚める』みたいな地獄絵図は無さそうなので、とりあえずは安心といったところ。


「それにしたって『雪の精』かぁ。可愛いだろうなぁ。きっと、昆虫みたいな羽根を生やして、教室内をカサカサしているんでしょうね……楽しみだなぁ」


 イメージを膨らませる山田のホッコリ笑顔に、波留と佐藤は苦い顔を浮かべる。もう少し表現を選べないものだろうか、と。もっと、こう『モンシロチョウみたいな羽根をパタパタとはためかせて……』みたいな感じの方がどう考えても可愛いだろう、と思う。


「山田先生の気色悪い想像は置いておくとして、そろそろ教室に向かいましょうか」


「そ、そうですね。や、山田先生の異常性は聞かなかったとして、そ、そろそろ時間ですしね」


「ええ? だって小さくて羽根の生えた地を駆けまわる存在なんて、ゴ」

「うああああぁっやめろぅ! このゴリラ!」


 遠藤の渾身の平手打ちが山田の頬を叩いた炸裂音が園内に響き渡るのであった。


 ……


 教室の前には一人の園児が先生たちの到着を待っていた。白いポリ袋に頭と両手の切れ目を作って全身をスッポリと覆った姿は、とても簡単な造りではあったがテーマの通り、ちょこんと小さな雪の精。


 白い紙を貼ったパーティー用の三角帽子を頭にのせ、切れ長な目を持つオセちゃんは山間の寂れた神社にでも現れそうなお狐様の妖精にも見えた。


「は……はわわわ……か、可愛い」


「何が『はわわ』ですか、顔崩れてますよ。山田先生。手を出したら佐藤先生の鉄拳が飛びますからね」


「(波留先生は私のことを何だと思っているんでしょうか?)」


「三人共、何を遊んでいるんですか? じゃあ仕方がないので私から……」


 遠藤は波留、佐藤、山田のやり取りを尻目に一人抜け駆けするように教室の扉をガラガラと開け、何かを確認した後、ガラガラと閉めて扉の前で座りこむ。『誰も開けてはならぬ』『誰も見てはならぬ』そういった覚悟めいたものをもって頑として動かぬ地蔵か何かの具合に。


 その一連の行動に波留は「一体何があったんです?」と問うが遠藤は質問には答えない。 ただただ「私のせいじゃない。私のせいじゃない……」と延々繰り返すだけで……それだけであったにも関わらず何となく『よろしくない』状況なのだということを三人は察した。


「……山田先生。強制撤去を」


「畏まりましたっ!」


 どれだけ身を挺して扉を死守しようとも、肉体派脳筋男爵こと山田の腕力の前では悲しい程に抗えない。抱きかかえられるような体勢で強制撤去された遠藤は、それでも「私のせいじゃない、私のせいじゃない」と繰り返し続ける。


 佐藤が半笑いしながら波留と苦笑いを交わす。


「い、いや、そ、そこまで警戒されると、さ、流石に大抵のことは耐えられると思いますから、ねぇ? 波留先生」


「そうですね。遠藤先生に鍛えられてますし。大抵のことには動じませんし、遠藤先生のせいだなんて誰も考えてないですから安心してください」


 二人の言う事はもっともであって、ここまでハードルを上げられてしまえば、どんなに中二病めいたことを子どもたちがやっていたとしても笑って反応を返すことのできるであろう。


 ガラガラ


 そこに居た園児たちは、オセちゃんと同じように白いポリ袋でスッポリと全身を覆っており、目の部分だけが刳り貫かれた白三角頭巾で顔を隠すように……教室の中心に描かれた五芒星の魔法陣の周りを列をなしてグルグルと行進していた。


「「け……KKKはラメぇー!!」」


 園児たちは秘密結社を結成することで、とても仲の良い関係を構築することができました。


オセ「『けーけーけー』ではありません」

波留「?」

オセ「『わいけーけー』です」

佐藤「ファスナー!!」


※『わいけーけー』→『幼稚園・子ども・組合』


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