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第23話 山田だけがいない園(前編)

三連休なので前後編です(?)

 園の庭の一角には、こんもりと盛られた黒土がある。つわものどもが夢の跡。どこからともなく飛んできた雑草が芽吹き、グングンと成長していく姿に心を奪われた子どもたちは、働き蜂のように種やら花やらを埋めていった。


間もなくして彼らの思惑通りに黒土の部分だけがお花畑と化す。


 ちなみに、何か御伽噺だとかファンタジーみたいな花の絨毯を女の子たちが「さんくちゅあり」と呼んでいたのは間違いなく遠藤の影響。


 自主性を重んじる『そろもん』流儀にのっとって、男の子代表バエルちゃんと女の子代表パイモンちゃんとの間に『お花畑不可侵の協定』が締結されたとかなんとか。


 兎も角、そんな園の誰もが侵すべからずの自治法が制定されていた訳であったが、その日、その場所にハンカチを敷いて腰を下ろしている人が居たのであるから遠藤は驚く。


 華奢で肌も白くって、太陽の燦々とした光にすら溶けてしまいそうな程に透明さを持つ美少女。頭の中にある(二次元的な)イメージをそのまま現実に映し出したようなお姫様。

もっとも、男装の麗人といった姿ではあったが、それがまた何とも妖艶な雰囲気を強く思わせる。


 何よりも驚いたのは、そんな男装のお姫様に対する園児たちの対応である。遠藤や山田はおろか佐藤であっても、波留ですら立入を固く禁じられていた花畑の中央に鎮座する彼の者に対して全くもって嫌な顔をしていない。


 それどころか、男の子はお手製の大型団扇を扇ぎ、そよそよと風を送りだし、陽の光を和らげる目的なのであろう、日傘を差しているではないか。

 女の子は愛でるように育てていた花々で冠を仕立てて姫の頭へと献上する。持ってきてはいけないはずの菓子を差し出し、お茶を淹れる……職員室の備品で。


 ……


「波留先生っ! お庭に、白雪姫みたいな、でもスーツで、子どもたちが食器を勝手に、聖域サンクチュアリが、でも綺麗で、お姫様です!」


「??????????? はあ? とりあえず落ち着いてください遠藤先生」


 アタフタする遠藤に波留は内心「またか」と呟く。いつもの発作なのであろうが、彼女の精神年齢は子どもたちに近いものがあるので、突き放すのではなく、まずは話を聞いてあげる必要がある。


そうしなければねる。すると、仕事をしなくなる。結果、残業が増える。それだけは勘弁。なので、落ち着かせて話を聞くことが肝要であると波留はわかっているのだ。


「まぁ、子供たちの中で花畑に入ることを許可しているんであれば目くじらを立てる必要は無いんじゃないですかね。誰かが暴力でも振るったってことであれば話は別ですけど」


 波留は、まだほんのり温かみの残るコーヒーを口に含みながら答える。焦ってはいけない。問題の本質を聞き出して冷静に判断しなければならない。それが常識ある大人というものだ、と自分に言い聞かせながら。


「……そうですね。少し落ち着きました。ありがとうございます波留先生。そうですよね、子どもたちが危険に晒されていないのであれば、仮に知らない大人が園に入っていても大丈夫ですしね」


「それは駄目!!」


 園児の親御さん、あるいは、よく園に出入りしている近所の人であればいざ知らず、腐っても先生である遠藤が『知らない人』ということは、十中八九、園に関係の無い人であろう。

 世間一般ではそういった人のことを不審者と呼んで常識ある大人が節度をもった対応をしなければならない。


「遠藤先生っ! 念のために『擦叉さすまた』を!」


「大丈夫ですって波留先生。とりあえず、お茶淹れますから一服してから行きましょう」


「何を悠長な事を言っているんだコンチクショウ! 山田先生は研修でいないですし、佐藤先生はお散歩行ってるんですから、今、子どもたちを守る事のできる大人は私達しかいないんですよっ」


 波留の切迫する発言に遠藤はハッと気づかされる。


「今、(世界を魔の手から)守る事ができるのは私達だけ……行きましょう! 波留先生。(世界を)守る為にっ!」


「遠藤先生? ニュアンスがちょっと違いますよ?」


 防犯対策で購入した擦叉さすまたを右手に。どんな悪党が相手でも子どもたちを第一に考え、身を挺してでも助ける。駆けながら、そんな覚悟を完了させ、二人はガチャリと庭への扉を開く。


 ……


「……くぅ! もう、遅かったか」


 目の前に広がる光景に遠藤は力なく肩を落とし、膝から崩れ落ちた。

 対して波留は状況が飲み込めない。なにせ、異様。円形の黒土の中央、マウンドの上、そこに鎮座する何とも美しい御方。側近の様な一部の園児が数人だけ傍にいるものの、それ以外の子どもたちは黒土を囲うように平伏しているではないか。

 

 偶像を崇拝する宗教にも似た光景に遠藤は悔し涙を浮かべながら口にする。


「あれが彼らの神か……七十二柱を従えているのであれば『そろもんの王』といったところか。どうやら私はここまでのようだ。おお、全能なる神よ私はどうやら聖母になることはできないようだ。へへへ、波留先生……良き友に再会できて私は嬉しかっ」

 

「何をトリップしているんですか遠藤先生っ! あと『へへへ』ってなんですか、普段そんな笑い方してないですよね? ……確かに凄い光景ではありますけど、少なくても不審者ではないようですよ。あの人、私が以前お見かけした山田先生の彼氏……じゃなかった、友人の方ですし。なんでここにいるのかはわかりませんけど、って本当に凄い光景だなぁ」


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