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第18話 明日葉組のプルソンちゃん

プルソン

22の軍団を率いる序列20番の王

熊に乗ったライオン顔の男の姿。隠しものの在り処を知り過去・現在・未来を語る悪魔


「わたし、たぶん前世はヨーロッパのお姫様だったんだと思います」


「おい遠藤。設定はどこにいった設定は! しかもヨーロッパってまたアバウトな」


 自由に遊びまわる時間だというのに園の庭には誰一人として姿が見えず、何事かと遠藤が教室まで様子を見に行って、職員室に戻ってきた第一声がこれである。


 苦虫を噛み潰したような表情の波留に遠藤はキョトンとした表情で返す。

 

「やだなぁ。波留先生。それはそれ、これはこれですよ」


「いや、意味がわからないんですが……」


 プルソンちゃんという園児がいる。物静かで、あまり前に出たがらない少しだけ引っ込み思案な子。

 大きな声で元気よく! なんてことを遠藤がニッコリ笑顔で呼びかけようが、それにノるように周りの園児がギャースカ喚き散らかそうが、全く、ピクリとも動じない、ある意味で肝の据わった子。


 極めつけは山田に対してだけ異常に顔を隠すような仕草をすることであろう。幼心に恋心とでも言おうか、遠藤と波留は微笑ましい光景を何度となく目の当たりにしてきた。


「(ああ、思春期になって初恋の相手を思い出して後悔するヤツだ……)」


 なんてことを思ったり思わなかったり。


 なにはともあれ、教室から園児が出ていなかったのはプルソンちゃんの仕業であったと遠藤はいう。

 代々『占い師』の家系であるというサラブレットがママの仕事道具をコッソリと『そろもん』に持ってきた。とても大きな水晶玉。綺麗に澄んだ透明なのに映るのはどういう訳か周囲の景色ではない。


「『ぜんせ』がみえます」


 なのだそうだ。

 遠藤曰く『生まれて間もない子どもは自分が生まれる前の事を覚えていることがある』らしかったが、常識的に考えてそんなことはあり得ないと鼻から疑いの目でみている波留の耳には届かない。

 

 こういう状況を『日頃の行いがよくない』と呼ぶのであろう。あるいは『オオカミ少年』であろうか。……そもそも幼稚園の先生が園児の占いをガッツリ信じているという状況が普通じゃないのでどれも当てはまらない気がしないでもない。


「波留先生も騙されたと思って話を聞いてみてくださいよ。きっと信じますから」


「……って信じるとか信じないとかではなくて、プルソンちゃんに『嘘は駄目だよ』なんて言える訳がないじゃないですか! 大人気おとなげないにも程がありますよ」


 波留の腕を引っ張るようにして遠藤は教室へと導く。晴天にも関わらずカーテンを閉め切り、恐らく『それ』も親の影響なのであろう真っ黒なローブ姿のプルソンちゃんが水晶玉の前に鎮座している。


「いらったいまて」


 舌ったらずなのか、言い慣れていないだけなのか。小さな占い師は波留を己の前へと手招きし、早々に『始まる』


 ここまで来たらもう腹を括るしかない。占いではなく、本来この時間に終わらせてしまいたかった業務を終礼後にやらざるを得ない。今日は定時で上がりたかったのに……そういった意味で波留は腹を括るしかなかった。


「……プルソンちゃん? 何が見えたのか先生に教えてくれるかなー?」


「……『ぜんせ』のえんどーせんせーといっしょにいるすがたがみえます」


「へー! 波留先生と私って前世からの縁なんですね! なんだか嬉しいなぁ」


「そうですね(ほら、やっぱり。みんな似たような結果になるのよ。これも親御さんの影響かしらね)」


 プルソンちゃんは続ける。


「……しょうがい、どくしんです」


「え~、それは少し嫌だなぁ。先生もお嫁さんになりたいよー」


「……イケメンの従者に囲まれ、毎夜の如く、とっかえひっかえ『従者同士の絡み』を楽しんでいる波留先生の姿がみえます」


「なにそれ凄い」


「そうでしょ! 波留先生も信じますよね!」


「遠藤先生、少し黙っていてもらえますか! プルソンちゃん。その『従者』さん達は、みんなお兄ちゃん?」


「……若々しいイケメンと……『イケオジ』が……くんずほぐれつ……」


「す、凄い。プルソンちゃん! その理想郷せかいには、いつイケるのかな?」


 遠藤は、とても悲しそうな表情で鼻息の荒い波留の肩に手をあてがい引導を渡す。


「……波留先生、残念ながら『前世』です」


「ああああああああああっっっ! ……ああああああああぅぅぅぅ」


 ……


 カーテンを閉め切った教室内から零れる波留の嘆きが耳に入り、ひとり黙々と草むしりをしていた山田は思い出す。


 以前、プルソンちゃんに『前世』を占ってもらった結果を。


「やまだせんせいは……」


「うん」


「ひつじかい……」


「ああ、いいねぇ牧歌的で」


「の、かってるひつじ……」


「動物かぁ。うん、でも悪くないね」


「が、ふみつぶした『おはな』」


「……まぁ花はいいよね、花は」


「に、ついていたあぶらむし」


「……アブラムシ」


「あぶらむし」


「……そっか」


「はい」


 山田の頬を伝う水滴は汗なのか涙なのか、それは山田にしかわからないし、草を伝って手に登ってきたアブラムシに温かい笑顔を向けることなど、わりとどうでもいい。


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