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第16話 チューリップ組のビフロンスちゃん

ビフロンス

26の軍団を率いる序列46番の地獄の伯爵

様々な姿をしている。植物学、占星術など幅広い知識をもつ悪魔


 サツマイモは、ヒルガオ科、サツマイモ属の野菜である。

 大変たくましい植物として有名。また、原産が砂漠地域ということもあり、水や肥料が無くても栽培することができるため非常にお手軽であるともいえる。


 土に触れること、野菜を育てること(とはいっても大体の場合は収穫するだけではあるが)は、泥んこ遊びのようで園児が興味を持ちやすいため、幼稚園での食育を考える際には有力候補として挙がる典型とされている。


 ほどよくポカポカとした陽気のなか、少し肌寒い位のそよ風が心地よい昼下がり。目指すは『そろもん』から少しだけお散歩した先にある小さな農園。ひざ下まであるような色とりどりの長靴をガッポンガッポン鳴らしながら行列は往く。


 ……

 

「はーい! じゃあみんな、準備はできたかな~?」


「はーい」


 うねからニョロニョロ伸びた緑色の葉と茎。所々に黄色の花がみられる。沿うように並んだ二列縦隊の園児の群れは太陽の子のように元気に手を挙げる。その手には小さな小さなスコップが日光を反射してギラギラと輝いていた。


「スコップで怪我しないようにゆっくりと土を掘り返してみようね! 誰が一番大きな『お芋さん』を収穫できるかな~」


 引率の遠藤は園児を煽る。

 まぁ盛り上げ上手と言っていいのかもしれないが、大人が子どもに向ける演技染みた言い回しではなく、遠藤自身が根っから楽しんでいることが子どもに伝わっているのであろう。


 なにせ、収穫したてのサツマイモは一人暮らしの遠藤にとっては貴重な食料。煮ても焼いてもよし。干せば長期保存も可能だ。とはいえ、流石に子どもに混じって遠藤が大人力おとなぢからで大収穫を果たすことはできない。


「(かつて苦しめられた七十二柱の悪魔どもが私の命に従い、私のために作物の収穫を計る。なんと素晴らしい光景であろうか)」


 などとは、おくびにも出さない。いくらなんでも自身の半分にも満たない背丈の園児たちに向かってそんなことを考えていることが誰かに知られでもすればサツマイモをいただくことができなくな……もとい、大人として駄目であろうと遠藤ばかでも考える。


「おおー!」「びふろんす、すげぇ!」「わぁ!」


 喝采にも似た声がする場所には子供が折り重なって小さな『かまくら』の様相を呈していた。勿論、遠藤もそれを見に行く。正直な話、あんまり大きなサイズのサツマイモは調理に困るなどといった戯言をブツブツ洩らしながら。


 そこには、恐らくはボーリングのピンにも達しそうな程に巨大な紅色の頭が露出していた。小さなスコップで傷つけることのないように丁寧に丁寧にビフロンスちゃんは掘っていき、宝物を見つけたかのように目を燦々と輝かせながら周囲に集った友達に提案する。


「みんなでひっぱってみよーぜ!」


 なんと微笑ましい光景なのであろうかと遠藤は思う。たぶん味が悪そうなサツマイモが途中で千切れてしまおうがどうなろうが遠藤は知ったことではない。ただ、園児たちが怪我をしないように「気を付けないと駄目だよ~」なんてニッコリした表情で引率の仕事をこなす。


 童話『おおきなかぶ』のようであった。長く伸びた蔓が根元から千切れないように慎重に慎重に……


「せーのっ!」


 モッ


 土が盛り上がるように少しだけ巨大なサツマイモの頭が地上に顔を出す。それでもまだまだ。


「せーのっ!」


 モモモッ


 さらに土が盛り上がり、小さな地割れのように歪な形の頭が地上に顔を出す。やっぱりそれでもまだまだ。


「せーのっ!」


 ズモモモモモッ 「……ヴぉ」 


「みんなー、あとひといき! ……せーのっ!」


 ズズズッ……モモモモモモモッ 「ヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉっヴぉヴぉヴぉヴぉ」


「えんどーせんせー! おおきいのとれたー!」


 満面の笑顔で振り返るビフロンスちゃんの目に映ったのは、口から泡をふき、真っ青な顔で、白目を剥いて横たわる遠藤の姿であった。


「あーあ、えんどーせんせー、こんなところでおひるねしてちゃいけないんだー」


 ビフロンスちゃんは両手で持った「ヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉ」言っている気色の悪い人形のようなサツマイモを、横たわる遠藤の顔に添えるように、そっと置いてあげるのであった。



 その日以降、遠藤はサツマイモが食べられなくなった。

マンドレイク

ナス科マンドラゴラ属の植物。

根が枝分かれし人型をしている。

引き抜くと悲鳴を上げて、聞いた人間を発狂させる。


と言われている。

 

芋「ヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉヴぉ」


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