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第13話 防犯週間幼稚園『そろもん』~それが見えたら終わり~

 秋風が吹き始める頃。人が夏程には活動的でなくなる季節の変わり目。人目につかない時期だからこそ、防犯週間は設けられている。年端もいかない子どもたちを預かる『そろもん』でも、キャンペーンが企画されていた。


「……ということで、打ち合わせ通りに防犯訓練を行いますので犯人役の山田先生を遠藤先生と佐藤先生は『さすまた』を使って取り押さえてください。よろしくお願いします!」


「「よろしくお願いしま」」「ちょっと待ってもらっていいですか?」


「遠藤先生どうしました?」


 朝、職員室では本日おこなわれる防犯訓練の最終打ち合わせが行われている。質実剛健をモットーとしている波留が企画を立案、他三人の役割からタイムスケジュールまでを一人で準備してきた。


 無論、遠藤にも力を貸してくれるように依頼をしたこともあったが、何かにつけて「今日は重要な案件アニメが」と逃げ回ってきた挙句、本番当日の最終最後に唐突に挙手するのだから波留の心中は穏やかではない。


「やっぱり、異世界転生してきたゴブリンがいいと思うんですがどうでしょうか?」


 ……


「やっぱり、異世界転生してき」「聞こえていない訳じゃないですよ! 遠藤先生!」


 波留の顔は笑顔である。逆に遠藤の顔は至極真面目であった。大の大人が真面目な顔をして会議の席で異世界転生がどうのこうのといっているのである。涼し気に笑うほかない。


「はい、遠藤先生。『一から説明』をしていただけますか?」


 闇を抱えた波留は遠藤へ、さらりと発言を促す。今更なにを言われようが何かが変わる訳がない。そう思えばこその判断。


設定シチュエーションですよ。どうして犯人は『そろもん』にやってきたのか。それによって柔軟に対応しなければいけないと思いませんか?」


「……あれ、ちょっとまとも(異世界うんぬんは抜きにして)」


「あっ、それ私も思いました(異世界うんぬんは抜きにして)」


 と口にしたのはボサボサおさげの佐藤先生。確かに遠藤の言葉には一理ある。子どもの目の前で暴力沙汰に近い大捕り物は、正直あまりよろしくはないようにさえ思えてくる。


「私的にはUFC元チャンプだった男が自分よりも強い者を求めて『そろもん』にやってきたっていうシチュエーションが……」


「どうして総合格闘技のチャンプが幼稚園に来るんですか? 何を言っているんですか?佐藤先生。その辺り詳しくお聞かせ願えますか?」


「ごごごごご、ごめんなさい」


 佐藤はペコペコと波留に頭を下げる。ちなみに佐藤の方が年上で『そろもん』の先輩であったりするのだが、最早その辺りの関係性は誰もツッコまない。


 波留は大きく肩を落としながら頭のモヤモヤを吐き出すようにため息をついた。


「んもう……わかりました。でも凝った設定は組み込めませんよ。如何せん本番当日の朝に提案されても準備には限度がありますからね! わかってますか遠藤先生?」


「いやぁ、それほどでもないですぅ」


「どこに褒めてる要素がありましたかっ!!」


 ……


 犯人役(山田)テコ入れ計画。


「『そろもん』に来るくらいですから、やっぱり子供好きの変質者ってところが無難じゃないです?」

「で、でも……そ、それだと普段の山田先生と何も変わらなくないですか?」 

「確かに。インパクトに欠ける感じですかね」

「とりあえずメイクしてみません? 何を隠そう私は前世では……」

「メイクっていってもねぇ。変質者のメイクって何なのよ」

「ペイントレスラーみたいな感じでどうでしょう」

「ああ、目の周りに星マークみたいな感じですか。個人的には、かつて仲間だっ……」

「あんまり華美になりすぎなければいいかもね。それでいきましょう。山田先生、怖がらなくても大丈夫ですよ。ちゃんと『水性』で描きますから」


 ……


「……こんな感じでどうでしょうか」

「うーん。何か物足りない感じがするなぁ。なんていうの、これだとお茶らけて見えない?」

「言われてみればそうですね。ちょっと口を大きくしてみましょうか。口紅で。山田先生、動かないでくださいね」


「……」


 ……


「……悪魔みたいになりましたね」

「これは子ども泣いちゃうかしら……」

「大丈夫ですよ! 今は園児の姿をしていますが、中身はかつて死闘を繰り広げて……」


「あっ、私、良い物もってますよ? これ被せちゃうのどうでしょう」

「目出し帽なんて……佐藤先生、これ着けて出勤しているんですか?」

「寒がりなんです。三つ編みは飛び出しちゃいますけどね」


((目出し帽で出勤する年頃の女性ってどうなんだろう))


「意外と優れものなんですよ。遠赤外線か何かの効果で温かいんです」

「ん~、まあ不審者感は増すからいいんじゃないかな」

「やった! じゃあ山田先生、これ被ってください」


「……」


 ……


「山田先生の服装って、いつも同じだから子どもたちにはバレバレと思いません?」

「あ~それ、わかるかも」

「シンプルに上半身ハダカでいいんじゃないでしょうか」

「「佐藤先生。正解」」


「……」


「山田先生。常識的に考えて、流石に裸のまま外に出る訳にはいきませんから……園長先生のトレンチコートでも着ていてください!」


「……」


 ……


 山田。上半身裸のままトレンチコートを羽織り、目出し帽すがたで園の入口にて待機す。

 巡回中警官A「ちょっと君、見るからに怪しいな。少し話きかせてもらえるかね」

 山田「あっ、いえ、私はこの園で働いておりまして」(裏声)

 巡回中警官B「いいからいいから。まっ、ちょっと目出し帽。外してくれる?」

 

 汗まみれの山田。

 崩れまくりの水性メイク。

 突如現れたマッドピエロ悲鳴をあげる警官B。

 取り乱す山田。

 拘束する警官A。

 抵抗する山田。

 解けるトレンチコートの紐。

 露出する筋肉質な山田の裸体。

 銃を構える警官B。

 無線で仲間を呼ぶ警官A。

 騒然となる現場。

 到着する警官C~G。

 時間になっても入って来ない山田を見に行く波留。

 地獄絵図。


 おわり。

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