表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/119

第11話 牡丹組のセーレちゃん

セーレ

軍団数不明、爵位も不明

どこにでも現れる不思議な職能を持つ悪魔


 遠藤先生は園児から好かれている。幼い子供は正直だ。なので打算計算をくわだてる大人をなんとなく見破ることができる。だから遠藤先生は好かれていた。言葉を知らない園児たちはそのような存在のことをどのように表現すればいいのかがわからない。


「ええとね、ええとね、えんどーせんせーきいてきいて!」


「きいてるよ~」


「んとね、んとね、ゆうえんちがたのしかった」 


「そっか~、遊園地、楽しいもんね~。いいなぁ先生も行きたかったなぁ」


 セーレちゃんも、ほかの園児と同様に『同じ目線』で話を聞いてくれる遠藤のことが大好きであった。

この年代の子供の話は常識ある大人にとっては、実に難しい。言葉と言葉の間に存在する『本質』を持たない、取り留めのない、山も無ければオチもないような話であることが大半であるから。


 遠藤が彼女らの話を聞きとる能力に秀でているのは、大人としての常識に欠……彼女が『聖母』であるからであろう(たぶん)


「あのねあのね、『アレ』にのったの。……おなまえでてこない」


 連想ゲームのスタートである。


「遊園地の乗り物の名前かぁ。そうだな、グルグル回ってたかな?」


「いぇす」


「メリーゴーラウンドかな?」


「ちーがーうー!」


 セーレちゃんに限らず、自分が伝えたいことが正確に伝わらないことを幼い子供は物凄く嫌がる。下手すると自身の存在意義を否定されたかの如くショックを受けるので泣きだすことも間々ある。


 遠藤は、そんなセーレちゃんの複雑な表情を見つめながらタラリと汗を垂らす。何せ園児の涙の感染力はインフルエンザの比ではない。漏れなく涙の洪水である。溜まった涙の水圧で扉が開かなくなるので自称ラフメイカーである遠藤恵里もお手上げなのである。


「あっ、あー……じゃあコーヒーカップかなぁ」


「チーガーヴー! おそらとぶやつ」


「空飛ぶの!? じゃ、じゃあスイングアラウンドとか?」


「すいんぐあらうんど!」


「スイングアラウンド!」


「せいかい! ではつぎののりものにまいります」


「あれ? いつのまにかクイズ形式になってるんですが、それは……」


 セーレちゃんは問答無用で続ける。理由なんてものは無い。何故ならお子様だから。


「『すいんぐあらうんど』をたのしんだセーレちゃんですが、約六十三メートルの超大型回転ブランコ……」


「スターフライヤー!」


「せいかい!」


「よっしっ!」


「続いて、左右に二百四十度もの角度を回転しながら……」


「ジャイアントフリスビー!」


「せいかい! なかなかやりますね」


「うん! 私も遊園地大好きだからね!」


 ……セーレちゃんと遠藤のやりとりを教室の外から見つめていた波留はツッコむかどうか迷っていた。彼女たちの中で遊園地が特定の一箇所しか存在しないという歪んだ共通認識を。


 セーレちゃんにとっては生まれて初めての遊園地だったのかもしれない。そうであれば、このツッコみは彼女の幼心を傷つけることになるかもしれなかった。


「楽しかった? ユニバーサル・スタ……」

「えっ? 東京ディ……」

「ちがーう! 富士急ハイ……」


みんな違った。

 

みんな大好き! ナガシマスパーランド!


甦れ……甦れ……スペースワールド


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ