第116話 ヒラバヤビッチの穴 その2
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なんだろう……自分が自分じゃないようだ。
今日の送迎は山田先生にお願いしないといけないな。
というか、波留先生たちの姿が見えないな……
またサボりか……ふぅやれやれ、あの三人はまったくこれだから……
遠藤先生の悪影響だよな、本当、まぁいつものように僕がサポートするだけなんだけどね。
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「……なんですか、この不愉快な声は」
階段の先で妙に薄暗い部屋に辿り着いた波留たちは、二つの窓から覗く景色に、そろもん幼稚園のどこかであることは認識していたが、室内スピーカーから流れてくる平林の声に違和感を覚えた。
「いや、ですから『平林先生の頭の中』なんですよココ」
「なんで?」
「知りませんよ!?」
「どうしてですか? 那古さん?」
「いや、知らん知らん」
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さっきから頭の中がガンガン響いてるんだよなぁ……
やっぱり風邪か?
そういえば遠藤先生、咳して……馬鹿は風邪ひかないか。
だとすれば、昨日のナイトプールかなぁ……
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「ええ、平林先生がナイトプールって、お洒落とか通り越して腐れ成金って感じがしますよね~?」
「佐藤先生、相変わらず平林先生に厳しいですよね」
「そんなことよりも波留先生も佐藤先生も、私が馬鹿呼ばわりされていることには反論してくれないんですか?」
「ヒドイデスヨネ」
「ヒドイトオモイマス」
「もういいです」
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あっ、いたいた。筋肉男
「山田先生!少しよろしいですか?」
「おや、平林先生。どうされたんですか? 顔色が優れないようですけれど」
わかってんじゃ~ん流石筋肉男。健康には人一倍違いがわかるってか。
「そうなんですよ。ちょっと具合が悪いみたいで……そこで、お願いなのですが」
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「……なんか、凄い腹立ちますね他人の頭の中って」
「……波留先生、奇遇ですね、私も同じです」
「でもですね、そんなときはこうすればスッキリするんですよ」
そう言うと遠藤は通い慣れた空間であるかのように歩き回り、ボタンめいた物を見つけると躊躇なくそれをポチリと押した。
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「好きです」
「……え?」
「……え? 僕、いま何か変なこと言いました?」
「へ、変なこと……かどうかは恐らく『人によって』と言いますか、あの、その、育ってきた環境だったり、あの、」
「違います違います! 本当に何て言ったのかわからなくて、なんかですね、最近ちょくちょくこういった妙な感覚に」
「恋ってそういうものなんじゃ……ないですかね」
「あれ、僕、本当になんて言いましたッ! ちょっと山田先生ッ!」
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「このボタンを押すとこんな感じになります」
「ちょ、遠藤先生? タイミング的に結構エゲつない感じになっちゃいましたけど」
「コラテラルダメージ、コラテラルダメージ」
「軽いなぁ遠藤先生……」
波留と佐藤は大層スッキリとした表情を浮かべていた。
続く!




