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第113話 馬鹿は高い所と偉そうな役職がお好き

「私は絶対にやりませんからね」 遠藤が強い口調でそう言うと周囲の人々は苦笑いを浮かべながら「まあまあ」「そう言わずに」「遠藤先生、そこをなんとかお願いしますよ」と揉み手を続けた。


「そんなことを認めるために私がここにいるとでも言うのですか?」

「いやいや、遠藤先生。本当、勘弁してくださいよ」

「今年の炎天下を乗り切るには我々が率先して打ち水をすることによってですね……」


 近所の寄り合い、青年団会合での一幕であった。


 さて、この会合。数年前から『町おこしをするぞ』と威勢の良い声を挙げてはいたものの、その実、何らの成果を挙げることができておらず、ここの所、モヤモヤ感に包まれていた。


 しかしここに来て、特段これと言って名物の存在しない三丁目界隈が、どういう訳か活気づいてきているようで参加者の頭上には大量の『?』が浮遊していた。


 なんで? どうして? と会合参加者は首をひねる。


 ああ、そういえばこの間もテレビの取材が来てたわ。

 へえ珍しい。で、どこに? 


「そろもん幼稚園」 


 なにやら市議会のお偉いさんも最近よく見かけるようになった気がするね。

 あ~、あの引き籠りの?

 相変わらず小さかったけど……。

 それで、どこらへんで?


「そろもん幼稚園」


 幼稚園と言えば、あの偏屈なハゲが園長やってる所あったろ?

 あのオッサン、昔から見た目変わってないよなぁ~。もうかれこれ二十年も前から園長やってたはずだが、アイツ今、何歳なんだ? 

 それは知らんな。

 あっ、でもウチの爺さまが子どもだった頃の写真に確か園長の姿も映ってた気が……

 ふーん。爺さまっていくつ?

 今年で八十二歳。ほら、この写真のここ。

 お前がどうして爺さまの写真を肌身離さず持っているかはさておき、どれどれ……あ~、この坊主?

 それはウチの爺さま。

 んじゃその隣? ……これ俺んちの爺さまじゃねーかwww

 園長先生は、ほら、その後ろにちょっと見切れてる。

 あ~本当だ。これ園長だ……っておい、今と見た目変わってないんだが?

 だろ? なんだこの人? っと話が逸れたが、この人が園長やってる幼稚園って確か。


「そろもん幼稚園」


 という具合に『そろもん幼稚園には何か秘密がある』と遅まきながら嗅ぎつけた訳である。


 まぁ完全なる部外者、かつ、一般人である彼らに対して悪魔だの大昔の英雄だのという戯言を律儀に説明するだなんて無謀な対応をする者は、事前のすり合わせを行うまでもなく、誰一人としていなかった。……ところまではよかった。


「なんのことだかわからないですね」「偶然ですよ偶然」 そんな具合に誰もがはぐらかす中、青年団の一人の若者がヤケクソ気味に口を開いた。


「あ~あ、そういえば遠藤先生って『こんなに美人』なのに『どうして彼氏さん、いらっしゃらないんです?』幼稚園の先生って小さい子どもが好きな優しい方が多いじゃあないですか? 僕たちだったら『全面的に支援』できるのになぁ」


「……具体的には何をしていただけるので?」 遠藤ばかえさに喰い付く。


「え? あっ、はい。ええと、そのですね」 青年団の人、遠藤ばかが喰い付くと思わず、思わず口籠る。というよりも単なる皮肉のつもりであったので勿論ノープラン。


「あ……」

「『あ』?」

「あ、あいてぃ企業の……」 ごにょごにょ。

「ほうほう、『あいてぃ企業』」 遠藤ばかの鼻、広がる。

「えりーとのですねぇ……」 ごにょごにょ。

「ほうほう、『あいてぃ企業』の『えりーと』を?」 

「え? IT企業のエリートを?」 波留、飛びつく。

「え?」

「え?」

「え? どうぞ続けて続けて」


 ……


 その後も広がり続けた風呂敷は最終的に次のようになった。


 『町おこし』企画の一環として、IT企業をメインとした、将来のユニコーン企業を誘致すること目指し、その為にも住み心地の良い街であることをPRする必要があると考え、この街の『理想的な女性ランキング』(自社調べ)で優秀な成績を収めた、そろもん幼稚園の美人保母さんである、遠藤先生と波留先生にモデルをお願いしたい。なお、既に大手企業のエリートから『あの美人を紹介してくれ』とお願いされている状況にある。


 



 

 当初の目的はどこへやら、滅茶苦茶な無茶である。ハチャメチャヤムチャである。


 以来、会合が開かれる度に、呼んでもいない遠藤がノコノコと現れるようになり(波留はとっとと気づいた)、やれ『あの話はどうなった』だの、やれ『婚期は絶好調なので』だのと急かすのであるが、無論、ピクリとも進展するはずもなく。


 さらに数か月後、青年団としても謝罪の意図があったのであろう、真実を知って怒り狂う遠藤に『青年団特別顧問ご意見番』の役職を与えることで本件は収束を迎えることとなった。


 馬鹿とは基本的に偉そうな役職が好きなのである。


 これら一連のやりとりは、青年団内において、通称『遠藤ばか案件』と呼ばれ、遠藤ばかの名は、こんな形で歴史の一ページに残ることとなった。


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