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第111話 本当にあったら怖い話

 都市伝説。

 

 ある種の恐怖体験や不思議体験に関するエピソードが、人から人へと伝聞されていく過程で、形を変え、誰もが知りながら、その実、誰もが知り得ない域に達した『噂』である。


 話の出どころを調べようと思えば、思いの外はやく辿り着くのであるが、ある地点までフォーカスすると途端に霧散したかのように姿が失われてしまう。故に虚像、故に虚実。九藤神父が口にしたのは、そんな都市伝説を匂わせる話であった。


「先日、バチカンから親書が届きまして」


(ひそひそ)「この時点で胡散臭いんですが、それは」 

(ひそひそ)「まぁまぁ波留先生。聞いてみようじゃないですか」


 九藤の「……よろしいですか?」に対し、しかめっ面の波留の代わりとばかりに遠藤が「どうぞ、こちらは気になさらず」と返す。


 九藤の話によれば、ここ日本から遠く離れたバチカンの地において異常が起きたというのだ。


「一般には知られていないことなのですが、我々バチカンの悪魔祓いは単に悪魔を祓うに留まらず、祓った悪魔を使役し、手元に置いておくという役目を担っておるのです。ところが、その『バチカンが捕らえていた悪魔が忽然と姿を消したのだ」と」


「あらあら、それは職務怠慢ですね。九藤さんも早いところ教会をお閉めになられてバチカンに戻られたらどうです? それこそが悪魔祓いの本分というヤツでしょう?」

(ひそひそ)「ちょっと波留先生、今いいところなんですから!」


「遠藤先生? エンタメか何かと思い違いされていません? 結構命懸けなんですよ悪魔祓いって。……元来、神とは、祈りという対価を捧げ、叶うともしれない願いを届け、その上で、極々一部を奇跡の名の元に顕現させるものですが、一方、悪魔は実に契約に忠実なのです。対価さえ払ってしまえば履行されるその日まで文字通り仲『魔』となる。故に古来より権力者たちはこぞって力のある悪魔を傍に遣わせてきた。バチカンは、いわば権力者と悪魔を橋渡しする仲介役ブローカーにして、秩序を乱そうとする輩を取り締まる監視人ウォッチャーのようなものなのです。あっ、ちなみに、この話は秘匿中の秘匿となっておりますので、貴女方も晴れてバチカン特務機関の監視下に置かれることになります」


「……」

「へえ、なんかスパイ物の映画みたいでワクワクしますね。ね? 波留先生?」


「私の一挙手一投足を監視衛星が追っております。四六時中、寝ている時も、食べている時も、働いていようが休憩していようが、そして全世界の悪魔祓い同士がネットワークで繋がり相互に監視を続けているのです。そう、まさに今、この時も!」


 九藤は力強く拳を握った。ギュッと。その顔は実に誇らしげであった。


「う~ん、にわかには信じられない話ですねぇ」

「波留先生ぇ~、もう少し夢を抱いていきましょうよ~、ね、事実は小説より奇なりっていいますし、那古さんの話もありますし」

「いや、それにしたって遠藤先生。だって、そんなSFみたいに『衛星で監視』なんて言われてもですよ。現実感無さ過ぎですよ~。ね、九藤さん?」


「まぁすべて事実ですけどね」


「四六時中ってことは、例えばお休みの日にお出かけしてても視られているんですよね?」

「はい」

「建物の中に入っても監視衛星の目が届かない場合は九藤さんの同業者の方がどこかにいるってことですよね?」

「はい。必ず」

「お風呂に入っているときもトイレだって」

「一番無防備になりますからね。あっ、でも、その辺りは配慮してまして、女性の悪魔祓いがおりますから」

「へ~、至れり尽くせりですね~」

「そうですね」

「『そうですね』じゃないですよね?」

「まぁ、いつ悪魔が現れるかわかりませんし、身辺警護と思っていただければ」

「はぁ、身辺警護。で、私は誰から襲われる心配があると?」

「ですから、悪魔」

「悪魔ですか……」

「はい。悪魔です。試しに、お帰りの際に周囲を警戒してみてください。視線を感じたら恐らくソレです」

「あー……え? それはどっちの? 悪魔? 悪魔祓い?」

「もー、ちょっと波留先生、顔がひきつってるじゃないですかぁ。思考回路がショート寸前なんじゃないんですか?」

「衛星だけに?」

「衛星だけに」

「www」

「www」


「www……ってなるか!! 信じてないって言ってるでしょうがッ!? やめて? なんなの? 勘弁してくださいよ!! なに勝手な事してくれてんですかっ!! こんなのクーリング・オフですよ! クーリングオフ! 無効!無効!無効!ノーカン!ノーカン! 一体、乙女のプライベートをなんだと」


「失礼な言い方となりますが、波留先生の年齢を考えると『乙女』というには些か……」

「本当に失礼だよッ!!!」

「まあまあ波留先生、なんかどこかの班長みたいになってますから」

「遠藤先生は、遠藤先生はどうして落ち着いていられるんですか!! こんな滅茶苦茶な話に!」

「え? だって私、レベル5京ですし」

「ええい、いちいち盛るな面倒くさいっ!!」


 フーッ!フーッ! とネコ科の動物が威嚇するような呼吸音で毛を逆立てる波留に対して、それでも九藤は冷静さを保っているのであった。なにせ『本題はここから』


「『滅茶苦茶』なのは、この街なのですよ波留先生。……以前からお伝えしているでしょう。この幼稚園、そろもん幼稚園には悪魔が巣食っていると。そして、この三丁目界隈はこの数週間で一気に」


「だから、そんな話をどうやって信じれば」


「……『那古瑠々』という方に心当たりがあるでしょう?」 


 波留の言葉をわざわざ押さえつけるように九藤は淡々と続ける。含みを持たせるような言い方を選んだのは、話の一切を認めようとしない、受け入れようとしない波留の心を折るためなのであろう。


「那古瑠々から話は聞いているはずです。貴女方がどのような役目をもって」


「いえ、誰ですか? そんな方、知らないですし何も聞いてないです」 でも波留は折れない。


「え? いや、でも先ほど遠藤先生も『那古さん』って」

「いいえ、言ってません」

「あっ、でも特務機関の情報によれば」

「聞いてません。ねえ遠藤先生?」

「え? あの時、波留先生もいらしたじゃないですか? やだー、その歳でもうボケてるんですかぁ?」

「……(ああ、もうこの遠藤ばかは)」



続く!!

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