表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/119

第108話 仙人掌組のサレオスちゃん

サレオス

 30の軍団を率いる序列19番の公爵

 いわゆるドワーフのような小さくてガタイのいい髭面。ワニに乗っている。

 そんな見た目に反して性格は穏やかで男女の間を取り持つ悪魔。……悪魔?


 その子は無表情であった。寡黙であり、無感情。悪く言えば体温のある人形、生物学上こそ人間であるが、本質は人ではない。戸籍のうえでは、5歳に満たない幼子にしてその雰囲気はどことなくオジサン臭い。


 そんなサレオスちゃんは、白無地のタオルを首に巻き巻き幼稚園の庭を歩く。別に一人寂しくトボトボという訳ではない。前を歩く平林の後ろにピタリと張り付くようにして歩いていた。


 ちなみに、特段、平林に懐いているということでもない。


 当の平林は四輪の青いライン引き(G2065)をゴロゴロと鳴らしながら白い線を描いていた。時折、後方に気を配りながら。


「……サレオスちゃんは、どうして僕についてくるのかなぁ?」


「……」 俯くでもなく、視線を逸らすでもなく、振り返って話かけてくる平林の目をキッチリと見つめ返しているものの、一切の反応は示さない。


「そっか『ライン引き』が珍しいのかぁ。でもね、お砂糖みたいに甘くないから白い粉には触れちゃあダメだぞ?」


「……」 


「この白い粉はね、『水酸化カルシウム』って言ってね」


「……」


「サレオスちゃんにはちょっと難しいかもしれないんだけれど、水酸化カルシウムはね、触っちゃうと肌が荒れちゃったりするんだ」


「……」 それでも反応はない。


 サレオスちゃんは掻いた汗をグイッとタオルで拭いながらシゲシゲと平林の顔を見つめ続ける。


 なかなかどうして不思議なもので、こんなにも見つめられると、まったく反応が無くても『興味を抱いてくれている』と思ってしまうものだ。


 当然、平林もそう思う。思い込んだ。相槌すらも無いにも関わらず、頷きすらもしていないにも関わらず。である。


 中学生の頃に、顔立ちの整った異性が何らの理由もなくジッと見つめてくるのに、ふと気づいてしまった時、早とちりして抱いてしまう淡い恋心のようなものではないけれど、とりあえず平林は得意になって話を続けた。


「貝殻ってあるじゃない? あれをね、こまかーく砕くの。それがコレ。眼に入ったりすると危ないんだ。不思議だよねー、そんなに危ない物なのに僕たちが普段から食べてる物にも使われていたりするんだから」


「『たんさんかるしうむ』」


「ん?」


「これ『たんさんかるしうむ』」


「……」


「……」


「……知ってるんだ。……そっかぁ炭酸カルシウムかぁ。へぇ、そっかぁ物知りだね、サレオスちゃん。物知り博士だね! なんちゃってデュフフ」


「……」 気まずい空気が二人を包む。


 ゴロゴロゴロゴロ……


 概ねこんな感じが小一時間ほど続いたのであった。


 ……


 ……ゴロゴロゴロゴッ!         


 延々と引かれた白いラインの始点と終点が歪に交わった地点で平林は立ち止まる。ふぅふぅと日頃の運動不足を反省しつつ、描いた白線の全体を見回し、平林は那古より渡された『絵』と照らし合わせ『これでよしっ』と小さく洩らす。


 那古が言うには、これは『封魔の陣』なのだという。なんとも中二くさくて馬鹿馬鹿しい話で、平林自身、決して信じている訳ではなかったが、やれ「このままでは~」だとか、やれ「今のうちに対策を~」なんて大真面目な顔をして頼まれてしまえば断ることはできやしない。


 最も、那古に弱味を握られている平林であるからデキレースではあったのだが。


 ともあれ描き終わったところで何も起こらない。

 『光がピカー』だとか『煙がバシュー』的なことは起こらない。

 

 信じていないとはいえども夏場に苦労した結果、何らの成果も得られないのは少しだけ寂しい。平林が「魔除けだかなんだか知らないけれど、まぁそうだよねー」と吐露したのはその表れであろう。


 気づけば後ろをピョコピョコ付いてきていたサレオスちゃんの姿はなかった。





 サレオスちゃんは無表情であった。寡黙であり、無感情。悪く言えば体温のある人形、生物学上こそ人間であるが、本質は人ではない。


 そして5歳に満たない幼子にしてその雰囲気はどことなくオジサン臭い。


 平林に気づかれることなく白線の一部を足でザリザリと削り取り、不完全な方陣に仕立て上げたあたりは、黙して語らず、人知れず成果を上げるデキる中年サラリーマンのようであった。


 お茶目ポイントの白無地のタオルを首に巻いて、サレオスちゃんは今日も汗を拭う。


後書き1


平林「これでよし」



山田「いてててててててててててててててててっ!!」


不完全な『封魔の陣』は山田の胃に謎のダメージを与えた。



後書き2


平林「これでよし」



遠藤「……ん?」

波留「どうされました遠藤先生」

遠藤「なんだか右腕がうずk」

波留「ああ、それは大変ですねー。でも包帯とか巻いてこないでくださいね~」

遠藤「ふ、古傷が……」

波留「付き合い長いですけど遠藤先生、一体何か所古傷もってるんですか? ダメですよ? 子どもたちが真似しちゃいますから」

遠藤「……ちっ」

佐藤「(舌打ちした!)」



後書き3


平林「……那古さん、この文様はなんというんです?」

那古「ああ、これな。マホカトー……『封魔の陣』という」

平林「仰々しい名前ですね。アレですか? これも昔の?」

那古「ああ、アバン先生からな。じゃあ頼んだぞ鬼面導師」

平林「ん? きめん? え、なに?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ