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第107話 魔王。またワンパンで沈む

前回までのあらすじ


「実は、私は魔導士です」

「(何言ってんだこいつ……)」

「その目に焼き付けるがよい!」

「ちょ、消火器!!!!」

「それで、私のレベルは?」

「5兆」

「下世話が過ぎる!」


続き


 悪魔だの魔法だのと、ただでさえ突拍子もない話である上に、その物語におけるラスボスのレベルを約196,078倍上回る存在である英雄が目の前にいる遠藤であるなどという、最早、頭のネジを全部外して大気圏外に放り投げる位の勢いがなければ聞いてすらいられない程の妄想であるのにもかかわらず、全否定することができない状況にあるのもまた紛れもない事実であった。


「ちょ、ちょっと僕から一言よろしいですか?」 平林がわざわざ挙手して発言権を求めたのは、そういった混乱に陥っていたためであろう。


「どうぞ」 対して那古はケロリとした表情でそれを促した。


「……ええと、どこから言ったものか」

「ちょっと待って平林先生っ!」

「え?」

「私に近づき過ぎると消滅しちゃうかもしれないから! 平林先生、スライムだしっ! 私、レベル5兆だしっ!」


「……」

「……5兆だしっ!」


「いや、消滅してませんし。今まで散々同じ環境で仕事してましたけど」

「5兆ですよ? 佐多が255に対して私、5兆ですよ? いやー参ったなぁ! 英雄で聖母で5兆で美人だなんて参ったなぁ! 天は二物を与えずって言いますけど、いやぁ参った参った!」


「『聖母』は自称だし『美人』とは誰も……」

「あっ! そっかぁ! 私、選ばれし者だから仕方ありませんよねー! いやぁ5兆5兆」


 遠藤はこの上なく調子に乗っていた。

 流石にウザいので一同は無視を決め込むことにした(アイコンタクトで)

 平林は何事も無かったかのように話を続ける。


「まだ、那古さんの話を全て呑み込めたなんてことはありませんが、どうしてその話を今? 那古さんが言うように本当に、ここの子たちがそんなに悪い悪魔だとすれば、もっと早く手を打つことができたのでは? それこそ七十二人を分けることだって」


 平林に賛同するように波留と佐藤は頷いた。気になったのは勿論それだけではない。ただ、整理が追い付かない。それを見かねてか、那古は淡々と返す。


「まず第一に佐多こやつらが『三丁目魔界化計画』などとくだらぬ企てを始めたこと。第二に子らに何ら罪はあるまい。偶然七十二柱が一堂に会することになったとはいえ、人と人との出会いを無闇やたらと割く程に罪深いことはない。それに、悪魔が一概に『悪い』とは言えんだろ?」


 波留は思案した。

 そもそも思案する程の状況であるかといった根本的な事はとりあえず置いておき、子どもたちに罪はない。という点は至極当然だと考える。生まれながらにして罪を抱いた子なんて存在してはならないとさえ思う。


「……仰っていることに矛盾があるような気がするのですが」 我慢できずに波留は口にした。正直に言えば平林同様、頭の中がモヤモヤとしていることは否めない。それでもどこか、何か、何故か気になる。気にかかるような気がして。


「……」 那古は無言で波留を待った。


「『悪魔』が『悪い』とは言えない? ……いや、そこじゃあないですね」 


「……どうして僕がここに呼ばれているか。ですか? 波留先生」 佐多は整理のつかない波留の心情を先読みするかのようにして言葉にした。


 そう。どのような質問に対してどんな回答があるにせよ、結局辿り着く結論は、そこに行き着く。話の流れからどう考えても敵対関係にあるはずの佐多がここにいる理由。


 そして、その立ち位置は『こちら側』であるはずの那古の隣にある。


 本来ならば重苦しい雰囲気が漂う所であろうが、先程から耳に入れないようにしている遠藤の「5兆♪5兆♪」と繰り返す戯言が密閉された応接室の壁に軽く反響して実にシュールな空間を演出していた。


「……那古さんは『どちら側』なのですか?」


「……私はいつだって『人』の味方だよ」


「? それはどういう?」 


「悪魔はいつだって『人』の味方って意味ですよ。波留先生。そして人の敵はいつだって『人』ただそれだけのこと。我々悪魔の本質は貴女たちが崇める神や天使と同質であって異質ではない」 佐多はキザっぽく意味ありげに代弁した。


「いや、別に崇めてませんけど?」 これに対して波留、冷静に対応。


「単に『無償の愛』などという押し付けがましい神と違って悪魔は『対価』さえあれば、その者にとっての味方となる。いつの時代も『対価』を持ちえた者の傍に我らがある。そもそも、悪魔にとっては利害の一致こそが全てであり、その者の願いが破壊であれ創造であれ、あずかり知る所ではないのですよ」


「……駄目だ。こいつも話を聞かないタイプだ。平林先生。どうにかしてこの場を締めてもらえませんか?」

「僕ですかぁ……無茶言わないでくださいよ。佐藤先生? 佐多先生の首筋に手刀かなにかでバシュっとできないですかね?」

「……」

「佐藤先生?」

「……波留先生、悪魔って強いんですかね?」

「ん?」

「……最近、サンドバックが壊れちゃって替えが届くまで時間がかかりそうなんですよね。悪魔っていう位だから耐久性はそれなりにあると思うんです。いや、それどころか動く訳じゃないですか。勿論反撃だってしてきますよね? もしかしたら翼があって飛ぶことも? そうなると対空技が必要に……対空か、となると武具の使用も。佐多さんも魔王って話ですし、ちょっと試してみても」


「佐藤先生!?」

「危ない危ないっ! 佐多さん逃げてっ! 早く逃げてっ!」


「え?」


「『え?』じゃない! 早く、早くこの暴走マシーンから逃げて!!」


「それは……『人』が悪魔である私に対して願いを」

「五月蠅い!!! いいから逃げろって言ってるでしょ!!!」


「佐多さーん!」 佐藤は満面の笑顔で佐多に近づいた。


「あっ」

「あっ」

「あっ」


ズドン!!


「……」

「……」

「……お、おのれ、に、にんげんごときに……こ、これでおわ……」


「(あっ、ちょっと悪魔っぽい)」

「(これは悪魔っぽい)」

                    

                    「5兆♪5兆♪」


……


「という訳で、『三丁目魔界化計画』によって、このそろもん幼稚園を中心とした三丁目の全域にシールが貼られると悪魔の悪魔としての能力『職能』とも言うが、これが発現『しやすい』環境になるわけだ。それまでは大体『普通の人間(レベル1)』と同じであることを肝に銘じておいて欲しい」


「……そういうことはもう少し早く言ってもらわないと」


 元体操の佐多お兄さんこと、魔王サタンこと、佐多真男さたまおう

 保母さん(レベル1)による渾身の正拳突きのもとに沈む。


山田「……なにか凄い音が聴こえた気がする」

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