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第104話 変わらないものと変わったもの

 教室外に一人見張りを立たせ、佐多のお兄さんと数人の園児たちが何やら眉間に皺を寄せながら作戦を練っていた。依然として進行中である現世征服計画……今のところは三丁目魔界化計画。


 何も力による支配だけがすべてではない。彼らの手にある『そろもん印』のセキュリティシール。家主の承諾を得て、家主の手により玄関にペタリと掲げられることで、そのエリアは悪魔の庇護下に置かれたものとみなされる。


 大昔ほどに悪魔に対する警戒心がなく、かつ、かつての禍々しさを払拭するために、大幅にデフォルメされたシールを、孫を髣髴とさせる幼い児童が『貼って』と願えば大抵の爺婆はすんなりとOKしてくれるので現在の進捗率は98%と驚異の実績を残していた。


「さて、あとは一軒だけではあるが」 


 佐多が話を切り出すと、そろもん幼稚園リーダー格であるバエルちゃんが続いた。


「那古……ですね。相も変わらず邪魔してくれよって、あの女狐め。かつてのようにベレトちゃんの色香で堕落させることは叶わぬものか?」


「ええ勘弁してくださいよバエルちゃん。幾らこのベレトちゃんが魅力的だからって、幼稚園児に色香を求めるのは何か違いません? ここは悪魔らしく物理で」


「それこそ幼稚園児に腕力を求めるのは違うだろう。いやしかし、佐多様の力を持ってすれば討つのは容易いのではなかろうか」


「待て待てバエルちゃん、それは色々と不味い。ただでさえスキャンダルを起こして干された体操のお兄さんが、年上の女性だけならまだしも、幼児体型な市議会議員けんりょくしゃに手を出すなんて業が深すぎるだろ!」


「悪魔が『業』を気にしてどうするんです? 佐多様も、いやサタン様も随分と弱気になられたものだ。これが時の流れというものか……いやはや、嘆かわしい」


「そうか? 佐多様が女性に手を出す事に『業』を感じない辺りは悪魔っぽくないか?」


「ガミジンちゃん、それは悪魔的というよりは、ただ単に最低なだけだと思うぞ? 我々悪魔は、あくまでも品の良さが大事であってだな……」


「『あくま』だけにな」


「……」

「……」

「……」


「……どうしたガミジンちゃん」 バエルは呆れた。

「……大丈夫かガミジンちゃん」 ベレトは心配した。

「……少し休めガミジンちゃん」 佐多は案じた。


 悪魔という生き物に対する世間一般的なイメージは総じて腹黒いものが多い傾向にある。『悪い事』という曖昧な定義のうえに、あるいは『善行』という、これまたあやふやな事柄の対局に位置する行動をとるような。


 他方で、悪魔というものは実に勤勉であるともいえる。何せ悪魔は約束を違えない。約束は遵守する。どんな依頼であっても契約に基づくものであれば、それが相対的に善であれ悪であれ、対価をもってすれば何でも応えてくれる。


 対価とは贄だ。悪魔は贄を持って力を行使する。自らが持つ力の底上げをするために贄を用いる。言うなれば贄とは悪魔にとって一種のドーピングのようなものだ。


故に、往々にして業の深い契約には相応の贄が必要となるものとなる。だからこそ、バエルちゃんが言うように悪魔とは『品の良さを重んじる』生き物なのであろう。プライドがある。人が無闇に悪意をばら撒く様な悪辣なことを本当の悪魔は行わない。 

 

「埒があかないので聞いてみてはどうでしょうか?」ベレトちゃんは提案した。


「誰に?」


「え? そりゃあ本人に」


……

……

……


「それで? 三丁目魔界化計画の完遂の為に、私がどうやったら『そろもんシール』とやらを玄関に貼ることを承諾するのか知りたいと?」

 

 那古は晴れやかな笑顔で聞いた。

 無理矢理、引き籠り部屋から引っ張り出された那古は、実に晴れやかな笑顔で聞いた。

 どうやって『今世において目覚めた悪魔の悪行を封じ込めようか』と思案するあまり、ただでさえ不規則なプロフェッショナル引き籠り生活の中、寝不足に陥るという悪循環を迎えてしまった現役市議会議員、那古は満面の笑顔で聞いた。


「はい」


「なるほど。それで?」


「はい。那古さんがシールを貼ってくれれば我々の配下に入ったということで三丁目の魔界化が完了するのです」


「ほお。それで、三丁目が魔界化されるとどうなる?」


「ふふふ……その時は地上に悪魔の軍勢が」


「もうお前ら(悪魔)おるやんけ!」


「……」


「はい」


「『はい』じゃないが。え? それだけのために呼んだの? 暇じゃないよ? 私、言うてもそんなに暇じゃないよ? なに? 馬鹿にしてるの?」


「馬鹿になど……」


「してるよね? してるでしょ? 正直に言いなさい。正直に言えば、苦しまずに消してあげるからぁ!」


「……ご、ごめ、ごべぇんなざぁ」


「ええい! 悪魔が泣くな馬鹿者! おいっ佐多! お前こいつらの保護者だろうが! なんとかしろ!」


「な、那古さん。シ、シールを……」


「貼らんわっ! いい歳して昼間っから幼稚園に入り浸る二十代ってどうなんだよっ! この社会不適合者が」


「さ、流石に言い過ぎでは……ひぃ悪魔っ!」


「お前じゃいっ!」




 那古攻略作成その一、失敗。

 三丁目魔界化計画、本日までの進捗98%


波留「最近、部外者が多くないですか?」

遠藤「まぁ身元はわかってますし、何かあれば佐藤先生がいらっしゃいますから」

波留「それはそうですけど……」

佐藤「あのぅ、そこは平林先生でいいのでは? その、男手的な意味をお求めなら」










山田「……また忘れられてる?」


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