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第100話 目覚める悪魔たんたち

前回までのあらすじ

テレビで人気の佐多のお兄さんは、実は遠藤と幼馴染であった。

生放送中に放送事故を起こし、業界から干された佐多のお兄さんは、どういう訳かそろもん幼稚園に入り浸るようになるのであった。(ちなみに変なファンが増えた)


 職員室から眺めるいつもの光景に波留は不思議な感覚を抱いていた。


 ここ数日、すっかりテレビで見かけることの無くなった佐多のお兄さんが子どもたちと一緒になって遊んでくれている。

 本来であるならば部外者の立ち入りは固く禁じられている幼稚園という特殊な空間にあって、保護者……大半は奥様方だけども、極めて異例、特例的に自由に出入りを許された大人。それが佐多のお兄さんであった。


「まぁ、子どもたちに危害を加えるようなヤツではないですし、そもそもそんな大それたことができる程、肝っ玉が大きな男でもありませんから」


 遠藤は不安そうな表情で外を眺める波留に気を遣ってか、はたまたサボる口実か、とりあえず話しかけた。


「……まぁ彼と付き合いの長い遠藤先生が仰りたいことはわかりますけれど、私が気になるのはどちらかと言えば」


「あの背中の『タトゥー』ですよね。あんなの怖いに決まってますよ。それも背中一面に。……波留先生、遠藤先生ご存知でした? あの文様、悪魔崇拝を意味しているらしいですよ。いくら遠藤先生が大丈夫だと言っても私はちょっと……」


 その時、平林は確かに見た。あの日、目にした佐多のお兄さんの背中を思い出して震える佐藤の三つ編み。その割に、分厚い眼鏡の奥に隠れる瞳がニンマリと笑っているのを。……何か視てはいけないものを視てしまったような気がして平林はそっと視線を外した。


「ああ、今週の週刊女性イレブンでそんなこと書かれてましたね。しかも検証記事付きで。なんでしたっけ? 『悪魔王サタンの召喚術式~人気アイドルの背後に見えた悪魔崇拝の影~』でしたっけ? 意外だなぁ佐藤先生もゴシップ誌読むだなんて、てっきり『月刊武道』とか『季刊古武術』みたいな誰が買ってんのコレ? 的な専門誌しか読まないものかと」


 遠藤の言葉に佐藤はムッとして返した。


「お言葉ですが遠藤先生。私だって女の子ですから週刊女性イレブンや東スポの都市伝説記事くらい読みます!」


「女の子はドロドロしたゴシップ誌や東スポは読まないと思いますけれど……いや、でも私も佐藤先生と似たようなものなんですよ。彼の背中の「タトゥー」アレを目にしてから何かが引っ掛かるような、胸がモヤモヤするというか……ざわつくといいますか……」


「恋かな」

「恋ですね」


「違う。そうじゃない。だっておかしいじゃないですか! 彼は今をときめく大人気タレントですよ? そりゃあ生放送であんなことが起きれば……まぁ暇にもなるんでしょうけれど、それにしたってあの時の彼は何というか……普通じゃない、そう! 普通じゃあなかった」


「そりゃあ生放送中に突然、上半身裸になってタトゥーを見せびらかすだなんて普通の神経じゃ考えられないですよね? 変なクスリでもキメてたんじゃないです?」


「それはそれで大問題ですが、私が言いたいのはそうじゃなくて……」


「『イタイ』ってことですね」


「さっきから佐藤先生は何を言っているんですか? 第一、私が彼をそろもんに呼んだ時だって打ち合わせの席では『やる気の欠片も無かった』なんていうんですかね、テレビで魅せる彼のイメージと実際の彼の印象は、それ程にも差があったんです。たぶん本来、彼は子どもが好きじゃない」


「ああ、それはあるかも。昔から根っからの根暗マンでしたし、子どもが好きじゃないっていうよりは『人嫌い』って感じはありましたね。自分の世界に籠っちゃう性格みたいな。いやぁ変わってないなぁ……佐多」


「……」

「……」


 遠藤の昔を懐かしむような口振りに佐藤はハッとした。そして波留が何に対して違和感をもっているのかも何となく察する。


「ん? 波留先生、佐藤先生、どうかされました? じぃっと私の顔をみて。何か憑いてます?」


「憑いてないと思いますけど。っていうかもしかして……」

「ひょっとして……」


「佐多のお兄さんって遠藤先生目当てでココに通い詰めているんじゃ……」


「え? 冗談でもヤメテクダサイヨーイヤダナー」 


 イラァ……遠藤の脳裏に苦い記憶がよぎった。




 なお、平林だけでなく山田も職員室にいたが完全に蚊帳の外である。




……


 彼女らの視線の先、子どもたちと砂場でたむろしている佐多のお兄さんと数人の園児たち。

 湿らせた砂を山のように積み上げ、器用にスコップで成形していく。中東で見る様な丸い玉ねぎ頭の柱や欧州の宮殿染みた直線の走る構造がみるみるうちに姿を現わす。


「アロロアロアルアロアレ」

(それで? 具合の方はどうだ? グシオンちゃん)


「アリアロアレレアロアレ」

(サタン様のお陰で随分と気分が良い……いや、悪いですなぁ)


「ロロアロアレリアロアレレ」

(しかし、まさかあのような荒療治。我々にとっては顕現を促すキッカケになったもののサタン様の体操のお兄さんとしての……)


「アリアレアロ」

(実際、干された)


「……アロロロ」

(……なんかごめんなさい)


「アラアレアロロアレアロロアリロアロアロ」

(気にするな。おかげでこうして頼もしい仲間に再会できたのだ。この地より、再びこの人の世に我らが故郷を復活させようぞ)


「アロリアロアロ。アレリアリリ」

(まったく。サタン様はお変わりありませんな。それでこれからは?)


「アラロアロロアロアリアレアレ」

(そうだな……、ひとまず居城ができるまではこの幼稚園を中心に我ら悪魔軍団の拡大、そう領域の拡大をしていこうと思うのだが)


「……アリアリアリアリロロアロアロ。アレ」

(……そうですなぁ。手始めに、この国を落としますかな。なあに、サタン様と我ら七十二柱の力があれば容易いものでございましょう。ですが一点気がかりが)


「アロロアロレアロレアレレ」

(英雄エイリーンか。問題ない。彼女のことは幼い頃から監視してきた。今なお何らの力も感じぬ。この世ではただの小娘よ)


「レ、レロアロアロ」

(し、しかし、先程からこちらの様子を窺っておるようですが)


「なにぃ?」


 佐多のお兄さんが思わず圧縮言語を用いるのを忘れてシュバリと振り返ると、視線の先に物凄く睨みを利かせた遠藤がいた。もうそれは汚物を見る様な表情どころか、ピーマンを細かく刻んで風味をこれでもかと消したうえでハンバーグに混ぜ込んだのにも関わらずアッサリと気付いて露骨に嫌な表情を浮かべる我が子の『食べたくない』という台詞に、これまでの努力や工夫といった苦労が完全否定されて下手すると殺意すら抱くほどの愛情に溢れた母親のような恐ろしい視線であった。


「さ、さたんさま……」


「グシオンちゃん。アガレスちゃん。それにみんなも……地道にいこう地道に。とりあえず、この幼稚園に隣接している民家の侵略から、ということで」


「いぎなし……」


 こうして佐多のお兄さんこと『悪魔王サタン』の手によって、封じられしソロモン七十二柱の幼稚園児たちによる『三丁目魔界化計画』がコッソリ始まったのであった。


 砂場に建造された魔王城は、突如現れた野良猫に蹂躙されボロボロに崩された。

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