第9話 フリーマーケットという名の魔道具蚤の市
地上に氾濫した魔道具はこうやって天界に回収されております。
『そろもん』では定期的にフリーマーケットが開催される。園児の各家庭から『不要な物』という名目でマウントを取り合っていただき、それなりの代物が並ぶため園の近隣に住まれている皆様には概ね好評。
園児の自主性、創造性を育てるという大義名分の下で行われてはいるものの、その実、仕入れ値のかからない売上高の全てが園の収益となるという副次的な効果も有り先生方もなかなかに本意気であった。
波留は各家庭がゴリラの如きマウントを誇示する行為(商品)が一定のレベルに保たれていることを確認する役目を担っている。と、いうのも過去にブランド物の鞄や、明らかに新品であるドレスを持ち込んだ心優しいご家庭があったからだ。
一体どこの世界に幼稚園のフリーマーケットでパーティドレスを販売するというのであろうか。結局売れ残りは園長先生の奥様が自宅用で利用するという悪魔的所業によりゴミと化す最悪の事態は免れた。
ともあれ、それ以降は過度に高価な品物は避けるように、とのお達しがあったわけである。
教室の中には園児サイズの小さな机が四つ毎の塊となって持ち寄った商品を展示している。キャイキャイ楽しそうに『お店屋さんごっこ』に興じる園児たちの姿を、にこやかな表情で波留は見て回る。
ひとつのテーブルに目を落とすと、真っ赤な宝石がコロンと置かれていた。ルビー……ということは流石にないであろう。そんなに高価なものを裸で持たせるとは考えにくい。波留は園児に尋ねた。
「この綺麗な石は何かな~?」
「『あすてりおす』っていういしです」
「ふーん『あすてりおす』……(聞いたことないわね。じゃあ大丈夫かしら)そう、綺麗な石だねー」
「ええとね『魔術を行使する際に触媒として利用する』ためのものだよ~」
「へー、そっか~(ああ、ゲームか何かの話ね。たぶん駄菓子屋さんで買ってもらったのね)……よし、問題なしっと」
波留が隣のテーブルに目を移すと、そこにはアンティークドールであろうか、随分と古めかしい洋人形がいくつか並んでおり、そこに肩を並べるように子供たちが作った土の人形がちょこんと腰かけていた。
「これはママが持っていたお人形さんかな?」
波留は女の子たちのグループに話しかける。洋人形の目が動いた気がしないでもないが、恐らく気のせいであろう。そんなことは常識的に考えてありえない。
「えっとねー、ママのママの、うんと前のママのおにんぎょうっていってた」
「それはまた随分と年季の入った……これ『いらないもの』ってママに言われたの?」
「んとね、『中世において行われた魔女狩りを免れた我が母が焼かれた仲間たちの霊を鎮めるために作られた呪いの慰み人形』だっていってた。わたしにはよくわかんない」
「あーそういうことかぁ(なんだかよく聞き取れなかったけれど、まぁいいでしょ)、それで、隣の可愛いお人形さんは? みんなで作ったのかな?」
女の子たちはニッコリと表情筋全体を使った笑顔をみせながら頷いてみせ、その中の一体を波留に手渡してこういった。
「ごーれむにんぎょう。っていってママにつくりかたをおしえてもらったのー」
「『ごーれむ』ちゃんか~、凄いねぇみんな。今にも動き出しそうだよ~先生びっくりしちゃった!」
「はるせんせー、このおにんぎょうさんね『Emeth』って、まほうのことばをつかうとうごくんだよ~」
「(え、えめ? なに? またゲームのお話かな)そうなんだ~、でもお客さんが怖がっちゃうから魔法を使うのは止めておこうね」
「はーい」
……
なお、この闇のマーケット。オープンと同時に魔道具の関連を天界からの使いが洩れなく買い占めるため、いわく付きの代物が一般のご家庭に出回ることは、まずないのであった。