不協和音
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「酷い言い草だね。ミス・ノアイユ、ユウキがどうしようと君には関係ないだろう。たかが勤務上で仕方なくペアを組まされているだけだろうに」
「あなた、無能ってよく言われない? そいつは私のものなのよ。私のものに手を出そうとしておいて関係ないなんて、盗人猛々しいとはこの事ね」
うん。さっきいい感じにまとめてはみたけど、現実はそううまく運ばないよな。俺が心の中でいくらまとめても何の影響も与えないよな。
あれ、なんでだろう。鼻の奥がつんとしてきた。
「ま、まあまあ、その辺にしときましょうよ。ね? 姫さん」
しかし、俺はしっかり空気を読んで二人の間に入った。なぜなら俺は知っている。このままいけば入院継続決定。ついでに給料減額の危機だと。
「……お前、何を勝手に私の許可もなく立ち上がっているの。その上この盗人を庇うつもり? 覚悟はできているんでしょうね」
「飼い犬に手を噛まれるような主人の怒りほど取るに足らないものはないな。ああ、君はユウキを上手く支配できていないから必死なのか。その努力を馬鹿にしてはいけなかったね。すまなかった」
「弱い犬はよく吠える。自分は相手になりもしないのに、勘違いもいい加減にしなさい。己の卑しさを広めるだけよ」
なんでせっかく俺に向かった姫さんの関心を取り上げるんだよ。バカだ。こいつバカだ。頭空っぽの鶏にも負けるくらいのおバカさんだ。
「卑しい、か。君にそんな事を言う資格があるのかな?」
俺が脳内でつっこみを入れていると、ふとジンさんの雰囲気が変わった。俺と話していた時のエセ爽やかさが鳴りを潜め、厳しく相手を非難する。そんな冷たい印象だった。
嫌いだな、この感じ。
「あふれんばかりの才に溺れ、責務を放棄し、身勝手な願いに夢中になる。……挙句、その願いすらも叶えられない。断言しよう。君は傲慢で、力だけを手にした子どもだ。僕は心の底から、君のような女性を軽蔑する」
「………」
「おい!」
俺は一瞬で頭を熱くして怒鳴った。感情の命じるままに蹴りを繰り出し、ジンさんは大きく体勢を崩す。さっきとは立場を逆転させ、胸倉をつかんだ俺にも、ジンさんは泰然と微笑んでいた。
背後では姫さんの息を飲む音がする。ギリギリと嫌な音が頭に響く。いや、うん。これは俺悪くないよな。女の子には優しくってのを知らないのかね、こいつは。
「あんま姫さんを否定するのはやめてくれませんかね? あんたが姫さんの何を知ってて、どういう関係かなんて知らないけどな、それでも俺は、一方的に男が女の子をいじめるのは許せないんだよ」
「……随分と躾が行き届いた犬だな。僕には彼女のために、そんなにも怒る君の考えが分からないよ、ユウキ」
「お前……」
最悪だ。姫さんの知り合いのくせに、少しも姫さんの素晴らしさが理解できないなんて。この男、見る目がなさすぎる。
「っ、どきなさい。この盗人には私が」
「確かに! 姫さんはものすごくわがままで口が悪い!!」
ここは俺が姫さんの魅力を伝えねば。
くうっ。俺の使命感が燃え上がっているのを感じるぜ。
「俺が今まで出会ったどの女の子よりも手強くて、しょっちゅう踏んでくるような足癖の悪い女の子です。苦労が絶えないというのは姫さんと言っても過言ではないでしょう」
「そ、そうか」
なんか引き気味の反応だ。まあ、まだまだ序の口だからな。姫さんの魅力はここからだ。
「ええ、そうですよ。あんたに言われるまでもなく姫さんにいいように使われることが多いし、他の事で頭一杯で俺は眼中に入ってない時とかたまにへこむけど、姫さんはそれだけじゃありません!!」
まず容姿だろ。これは余程の美的センス皆無の奴でもない限り文句のつけようのないくらい整っていると言っていい。ふわふわと腰の辺りまで伸ばされた黒髪に大きな釣り目。ほんのりと赤みをさした頬がなんとも言えず可愛らしい。腰はきゅっと締まってるし、特にスカートからチラ見えする太ももなんて……一度でいいから膝枕してほしいな。運がいいと踏まれている間に眺めることができるんだけど、これがかなりの眼福だ。いっつもツンツンして素直じゃないとこもいいよな。たまーにデレてくれると最高にドキドキする。初めてのデレを喰らった時の思い出だけで幸せだ。それ以降ほぼツンしか味わってないけど、いずれもう一度デレを拝みたいところだ。魔法もすごいし、傍にいるだけで勉強になる。あんまり派手なのは無理だけど、応用を効かせて生まれた技だってあるんだ。
「とにかく、姫さんは世界一かわいいんです!! あんたみたいに誰彼構わず甘い顔で惑わしたりしないだけで、その実態は負けず嫌いの甘え下手! すなわち、ツンデレですっ!! あんた、どうせ姫さんのデレを一度も見たことがないんでしょう!? ふんっ。デレも知らない奴にツンデレの姫さんを語る資格はないっ!!」
全く。姫さんはすっごく魅惑的なのに、それを傲慢だとか軽蔑するとか失礼な事ばっかり言わないで欲しい。
「というわけで、姫さんをこれ以上貶めるような発言はやめていただけませんかね? ジンさっぶぼえ!?」
な、なんで今姫さんの蹴りが……!
「三回回ってワンとでも鳴きなさい! そんな訳の分からないフォローは初めてよ。悪かったわね、わがままで!!」
「別にいいじゃないですか、わがまま! はっ、こういうのはどうですか? わがままは全部姫さんが甘えてくれている事にするんです!! 大丈夫、どっちにしろ俺は大好物ですから、わがまま!!」
「……どっちにせよ不快よ、馬鹿!!」
「ええええっ!?」
姫さんの顔は真っ赤に染まっていた。そこまで怒らなくてもいいのに。
しょうがないか、姫さんだし。
「……君がミス・ノアイユを心から好ましく思っているのだけはよく分かったよ。今日はそれが分かった事だけでも満足しておこうかな」
「どこをどう捉えたらそうなるわけ? 意味不明だわ」
「あ、分かりますか? 俺の底なしの愛」
「黙ってなさい。話が進まない」
姫さんは改めて俺を踏みつけ直すと、ジンさんに敵意をむき出しにしながらも向きなおった。
「とにかく、また私のものに手を出すようなそぶりをしたら許さないわよ。出て行きなさい。ついでにそこで丸くなっている局長の世話でもしていればいいわ。あなたの矜持にはお似合いの仕事でしょう?」
「君に言われるまでもないよ。見舞いは静かに、短くすませるものだからね。……うん、またね。ユウキ」
意外にもジンさんはあっさりと局長を引き連れ、引き下がって行った。嵐が去るとはこの事を言うに違いない。姫さんの怒りも幾分かジンさんが視界から消えた事で和らいだようだ。珍しくすぐに足の下から解放される。
「………」
「………」
「……何よ」
「え?」
「え、じゃないわよ。何黙って床に寝そべってるの。早くベットに戻りなさい。退院が遅くなるじゃない」
姫さんを気遣って無言でいたら、まさかの言葉をかけられた。なんだ。なんか姫さん、いつもより若干優しいぞ。
「姫さん、そんなに俺がいなくて寂しかったんですか!?」
「……お前がいないと、私の仕事が進まないだけよ」
敢えて否定もせず、姫さんは俺から顔を背ける。
だけどそれは、姫さんとのつきあいの長い俺にとって、とても嬉しい言葉だった。
「姫さんっ」
「抱きつくな!!」
ちなみに嬉しさのあまり抱きついた俺が姫さんの足元に再び沈むことになったのは、また別の話である。
この時俺は、完全に失念していたのだ。嵐は去ったのだとばかり思い込んで、それはそれは大切な事を見逃していた。
そう。ジンさんは、「またね」と俺に告げていたのである。
俺の職場復帰日・夜。処は某居酒屋。
「女性が人前でそのような姿をさらすのはあまりにも卑しい行為だな。これ以上恥を上塗りしてしまう前にやめたらどうだい? ミス・ノアイユ」
「敗北を恐れ、逃亡を促す臆病者は違うとでも? 随分と殊勝な心がけじゃない。おかしくってますます手が動くわ。流石は泥棒。卑しさは底知れないのね」
なぜか、姫さんとジンさんが、並々とジョッキにつがれた酒を飲みまくっていた。もう十五杯は飲んでいる。いつ倒れるかひやひやしてる奴や冷やかす奴で居酒屋はカオスに陥っていると言ってもいい。戦闘局だけじゃなく、事務課やオランヌの警務部の連中も集まってるせいもあるか。普段全く交流のない人間と会うんだから多少は気分が高揚するよな。うん、俺はちっとも楽しくねえ。
『今夜は君の復帰祝いだ、勇樹。それと、ジンとの親睦会だな。福永の件ではまだまだ不明瞭な事も多いし、しばらくは後処理で協力しあっていくから、皆仲良くするように』
そう局長が言ったのはついさっきの事だ。今日は朝から会議室に詰め込まれ、福永での事を根掘り葉掘り尋問されるはめになった。俺しか知らない情報とかを期待されていたらしく、会議室でさっそくジンさんの顔を拝むことになったのには思わず顔がひきつった。まあ、福永で実際に戦った者同士の情報共有は重要で、あの場にいたのは俺と姫さん、ジンさんだったわけで……。つまり姫さんとジンさんがまたしても一室に押し込められたってことで……。
「………」
あまり思い出さない方がいいかもしれない。そのくらい顔を合わせた姫さんとジンさんの険悪さは酷かった。口を開けば牽制に悪口、嫌味のオンパレードだ。いっそ仲がいいんじゃないだろうか、この二人。嵐は去ってなどいなかった。小休憩を挟んでいただけだった。こんな事実知りたくなかったよ。
『カレン、ジン。二人とももう少し、互いに寛容になるべきなんじゃないのかい!?』
そう悲痛の叫びを上げた局長はとても哀れだった。いつもの事だけどな。仕事だから、いや、意地か? とにかくなんとか姫さんとジンさんが飲み会に参加することになったところで、まあ当然人は変わらないわけで。
「あら……顔がほんのりと赤く染まっているわよ? 自分から持ちかけておいて情けないわね」
「ははは。どうやら酔いが回って正常な判断ができなくなっているらしい。とんだあてずっぽうだよ。ミス・ノアイユ」
この調子だ。しかし大盛況でもある。美少女と美丈夫のバトルって珍しいし目に華やかだよな。誰も後のこととか考えて止める気配ゼロだよなあ。
「……なーんで姫さん、あそこまでジンさんに突っかかるんですかねえ。ね、真奈美さん」
俺はこの惨状に目を瞑ることにした。うん、俺知―らね。どうせ止めてもとまんないもんなんか無視だ、無視。
「はは。私は逆のような気もするけどね。トホーフトはとても優秀な人物だと聞いているし、余程カレンと相性が悪いんだろう」
現実逃避する俺を咎めもせず、真奈美さんは苦笑いしながらカクテルを差し出してくれた。勿論俺はありがたく頂いて一息に飲みこむ。亜須華国の成人年齢が十五で本当に良かった。酒でも飲まないとやってらんないぜ。
「若いってのにイケる口だな、相変わらず」
「真奈美さんに褒めてもらえるなんて光栄です」
俺と真奈美さんは顔を見合わせ、クスクスと笑いあった。何これ、超平和。超かっこいい。この大人な感じが真奈美さんだよな。あと四年もすれば俺もこんな色っぽい大人になれるんだろうか。そしたら姫さん含め数多の女の子をメロメロにするのも夢じゃないぞ。
「うっ、ううっ。ジンはまともだと思っていたのに、カレンをあそこまで敵視していたなんてっ! 私は一体どうすればいいと言うんだっ!?」
「局長殿、どうか落ち着いてください!」
なんか、背後から聞き覚えのある声が。
「いや、しかしねっ」
「………」
大人にも色々あるんだなあ。いや、まあうん。これは人によるよな。三十路は涙もろくなる法則なんか存在しないよな。
これは個人の問題、のはずだ。そうに決まってる。
「相当ストレスを抱えているようだな。君達、戦闘局の局長は」
「あはは……」
そればっかりは乾いた笑いしかできない。思わず遠い目をしてしまいそうだった。少しだけ同情してしまうんだが、そう感じると同時にどっと疲れるのはなんでだろう。きっと俺にも多少は良心が残ってたんだな。決してストレスで胃が痛いとか、そういうのでは全くないからな。
「まあ、あれですよ。酒を飲めば仲が深まるだろうっていうおっさんの単純な思考が外れたのがショックで仕方ないんですよ。明日にはもとに戻っていますって!……多分」
「そうだな。君の言う通りだといいんだが。なんせ君でも困っている様子だからな。しばらくは回復は望めないかもしれない」
「えー。それって俺のことを局長より高く評価してくれてるってことですよね? 真奈美さんにそんな風に言ってもらえるなんて照れるなあ」
「ううううっ! 勇樹いっ!! 君は分かってくれるかい!?」
「……いやあ。本当に俺、今夜は真奈美さんしか見えないかも」
見えない、聞こえないぞ。俺を呼ぶ局長なんか知らないぞ。隣で慰めてた人はどうしたんだよ。あ、ぐったりしてる! 局長と同じくらい死にかけてる!! やべえよ。マジ怖い。
「っ真奈美さん」
あなたしか目に入りませんよ、真奈美さん。お願いだから俺を助けてください。
俺は一心に真奈美さんを見つめた。どんな女の子を見つめる時より真剣だった。
「……勇樹」
真奈美さんは艶やかに微笑んだ。そして優しく、女神のように慈悲深い仕草で肩に手をかけた。そう、局長の肩に。
「ま、真奈美さん?」
「上司の悩みを聞いてやるのも部下の大事な役目だ。頑張れ。……局長殿、そういう訳ですから、後の事は勇樹にお任せください」
な、なんてことだ。
真奈美さんに、真奈美さんに見捨てられるなんて。もう打つ手がない!
「も、森川君……。本当か? 勇樹。本当にあの二人を止めてくれるのか!?」
「いやいや局長、姫さん一人だけでも止めるのが大変なのに大酒かっくらったジンさんも一緒に止めるとかそれどんな罰ゲーム、ってちょっと!? 離してくださいよ!!」
「頼む、頼むからなんとかしてくれ! ううっ、うっ、私がふがいないばっかりにこの有様だがっ! どうか頼むよっ、勇樹いいいぃっ!!」
案の定俺は局長の餌食と成り果てた。こええよ。泣き上戸はこれだから嫌なんだ。つうかおっさんの泣き顔ドアップって何。俺何かした?
「ってああ! 真奈美さん!! 酷いですよ、俺を売るなんて!!」
いつのまにか距離を取っていた真奈美さんに、俺は悲痛の声で訴える。何でちゃっかり帰り支度を整えているんですか、真奈美さん。
「すまないな。実はまだ片付けていない書類が残っているから、元々すぐにデスクに戻るつもりだったんだ。それに、この仕打ちに関してはまあ、君が悪い」
「な、何がですかあ!?」
既に出入り口のすぐ傍まで迫っていた真奈美さんは、俺の言葉にくるりと振り返った。真奈美さんにしては珍しく、唇をとがらせ、ふてくされているような表情だった。
「……大怪我を負って、私を心配させた」
「っそれは」
俺は少し驚いて、何も言えなくなってしまった。その理由は、ごちゃごちゃとしてよくわからない。とにかく焦った。それだけははっきりしていた。
言葉を詰まらせた俺を尻目に、真奈美さんは去って行く。
「せいぜい後悔しな。女泣かせの勇樹くん」
その背中が寂しげに映ったのは、俺の気のせいだろうか。
「真奈美さん……」
そこでようやく、俺は思い至った。非戦闘員の真奈美さんに、戦場はどう映ったのだろうか。出血多量で意識を失ったかっこ悪い俺を、真奈美さんも見ていたのではないだろうかと。
「すんません、局長っ! 姫さんは後でちゃんと責任持って連れ帰るんで!!」
俺は無理やり局長の腕をひっぺがし、外へと飛び出した。居酒屋の中の喧騒から一転して、夜の街はそこはかとなく寂しい。肌を撫でる夜風が、ぬるりと熱を奪っていく。
「真奈美さんっ!」
それらしき人影を見かけて叫んでみるが、その背はぴくりとも動かなかった。だんだんと俺の足から力が抜けていく。それでも必死で追いかけた。今追いかけなければ男が廃る。それくらいの気持ちだった。
「勇樹?」
驚いた様子で真奈美さんが立ち止まる。まさか追いかけてくるとは思ってなかったみたいだ。俺は大きく深呼吸をして息を整える。何も考えずに走っていたらしい。気配を探れば一発だったのに、これじゃただのバカだ。体力の無駄使いだ。
「……今夜の月は、青かったのか」
ぼそりとつぶやいた真奈美さんの声につられて、俺は空を仰いだ。生憎と今日は曇り空だ。月なんか見えない。
だけど、俺には聞き覚えのある言葉だったから。
「真奈美さんと見る月は、いつでも綺麗だから」
「その返しは、あまり的を得ていないぞ。そんな事を言うためにわざわざ店を抜け出したのか?」
「違いますよ。ただ、言わなくちゃいけないことがあったので」
わざとからかう真奈美さんに、俺ははっきりと答えた。だけど真奈美さんは首を振る。重い空気は嫌いだ、とからりと気持ちのよい笑顔を浮かべて。
「勇樹が今、私を追いかけてきただけで十分気持ちは伝わったからいいよ。十分だ」
「でも」
「私がいいと言ったらいいんだ。どうしても続きが言いたかったら今夜は諦めて明日以降に挑戦しなよ。せっかくのいい気分に水をさしてくれるな」
有無を言わさぬ、というか今夜は真奈美さんに従っておかないと許してくれそうにもない雰囲気だったから、俺は慌てて口をつぐんだ。そんな俺の様子に満足そうに真奈美さんは笑う。
「ちゃんと反省しているようでなにより」
「あ~、もう。真奈美さんには敵わないなあ」
「当然だ。君のようなお子様にはまだまだ負けないに決まっているだろう」
俺の行動は全て計算の内だったということなんだろうか。このまま何も言わせてもらえなかったら真奈美さんと会う度に思い出しちまうんだけど、それが狙いだったんだな。うん、流石は真奈美さんだ。
「謝ったところで、簡単には許せないしな」
「ええ!? それは手厳しすぎますよ、真奈美さん!!」
その後も真奈美さんに良いように言いくるめられた俺は、本部の近くまで真奈美さんを送り届けた後、すごすごと姫さんとジンさんがバトルを繰り広げている居酒屋に帰還させられたのだった。
うん。まあでも、真奈美さんだけじゃなく、多分他にも心配かけた人は大勢いるって気づかせたかったんだよな。
「ああ! どこ行ってたのよ、馬鹿!! 私の許可なくいなくなるなんて許さないわよ!! 今すぐ私に跪きなさいっ!!」
酔っぱらった姫さんがそう言い放って倒れたのを受け止めつつ、俺は真奈美さんの声なき忠告を深く心に刻んだのだった。