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正義の虜!  作者: 羽美
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福永の乱・前篇

 いかに非常事態っぽい雰囲気であれ、俺までその空気に付き合って必要以上に頑張ったり、硬くなることはないはずだ。たとえ姫さんが燃えていても、俺は俺を貫いた方がペアとしてバランスがいいと思う。うんうん。結論に辿り着けたところで、さっそく抗議だ。

「局長~、俺らもう帰っていいですか? 帰っていいですよね? ほら見てくださいよ姫さんのおっかない顔。そのうち書類燃やしてなかったことにしそうな顔してるでしょう?」

「お前を燃やしてあげましょうか口だけ猿。働け、そして食事を作れ」

「やさぐれてる! 姫さんやさぐれてるよ‼ 俺はもう書類終わってますって。さっきハンコくれたのに離してくれない局長に文句言ってくださいー」

 やっぱり職場の労働環境改善は必須だ。代休くれなきゃぐれて無断欠勤してやるからな。

 最近は局長が俺と姫さんを常に一緒に行動させるから、先に帰って家事できないのがちょっと困るんだよなー。嬉しいけど。

「……。……。………」

 姫さんの悩ましげな顔を眺めるしかすることがない。暇だ。

「……君はたくましいな」

「そりゃあそうでしょ。こんな機関でひたすら戦ってばかりいるのに弱かったら死んじゃうし。あ、姫さん。そこの計算ミスってる」

「ここ?」

「そうですそうです」

 俺は局長の酷く痛ましそうな視線とため息は無視した。山積みだしね、局長の机の書類。

 一度手伝ったら無限ループに突入間違いなし。そんなバカみたいなこと誰がするか。

 書類に追われる時だけは素直な姫さんを愛でていられるから帰ってないだけだっつーの。

 それか、今ここにあの人が来てくれたら別だけど。でもそんな都合よく現われるわけないよな。

「………」

 だけど邪心というのは案外バカにならないもので、俺は不意に気づく。聞き覚えのある靴音が響くのを。そして振り返ったと同時に、心が叫ぶ。

 美女、万歳。

「勇樹。そんなにカレンにばかり夢中でいたら慣れない局長がかわいそうだよ?」

 いつも通り凛とした声が耳をくすぐった。俺もいつも通りにこりと微笑み、おどけてそっと距離を詰める。

「心外だなあ。まるで俺が酷い男みたいに言いますね。美女とおっさんがいたら誰だって美女を見るでしょう? 自然の摂理ってやつですよ。真奈美さん」

「……ふふ、ぶれないね。いっそ尊敬するよ。その女好きは」

あーあ。また相手にされてない。分かり切ってはいるけどさ。

秘かに面白くないと思う俺に反し、真奈美さんは書類を片手に気持ち良く笑った。見た目はクール系美人でとっつきにくそうなのに、相変わらず中身はとてもサバサバした明るい人だ。ちなみに以前デートに誘ってあっさり断られた仲だ。あんまり爽やかに振られたから逆に仲良くなって、今は友達くらいにはランクアップしている可能性は高い。できればもう少し上のランクに行ってみたいものだ。

「局長。我々の部署が本日の分も含め、ここ数か月間のエルドラド国信者によるテロ活動の発生件数をまとめた資料です。ぜひ戦線に出ているみなさんの意見をお聞きしたいそうですよ」

「ああ、ありがとう。……これはちょっと深刻だね」

「え、そんなにまずいんですか?」

 俺は勝手に真奈美さんが手渡した資料を覗き込んだ。細かい字の羅列に、そこまで苦手でもないのに酔いそうになる。

「ていうか、世界各国のデータをまとめてますよね、これ。よくやるぜ」

「ミールは世界的な組織だっていうのもあるけど、特にここ一か月は異常なんだ。ほら、ここ見て。亜須華国内部だけでもいつもの数倍はテロが多発してる。明らかにおかしいだろ?」

「うわーマジかよ。他国と比べても断トツってやばいじゃん」

「その通りだ。ミール本部のある亜須華国内部でのテロの頻発には必ず何か理由がある。一つ一つは大したことがなく済んではいるが、これは早急に対処すべき案件だな」

「そっすよねー。働くしかありませんよねー」

 俺は二人の言葉に肩を落とした。つまりしばらく残業は続くってことだろこれ。ボーナスもらえねえかな。姫さんなんかたった一つの事件の後処理でもグロッキーだし、こんなあからさまにでかい山だとどうなるか分かったもんじゃないぞ。

「お前、今私を貶めた?」

「え?いやあ、まさか」

「……その顔が腹立たしいわ。跪きなさい」

「はべしっ!!」

 いつのまにか書類を片付けていた姫さんが、俺の頭を全力で踏みつけた。視界は床色一色だ。何も見えない。あと痛い。

 なんか局長が咎めてくれてるけど、当然無視だ。流石姫さん。局長弱い。

「カレン、あまりいじめてやるものじゃないよ。かわいそうじゃないか」

「モリカワさんはこのクズの御仕方を分かっていらっしゃらないからそう思われるんです。犬には悪事を働くたびに躾をするものでしょう? この能無しの駄犬にはお似合いの姿だわ。邪魔なさらないで」

「うーん。じゃあその完成した書類は、一体誰の手を借りて完成させたのかな?」

「……とにかく、私は嫌なだけです。エルドラド絡みの事件を軽く扱うかのような愚かな態度が!」

 おお、解放された。真奈美さんパワーだ。

「ありがと、姫さん」

「ふん。今日のところはこれくらいで許してあげることにもっと感謝なさい」

「真奈美さんも……」

「おーっと、勇樹。私を口説いてうやむやにするのはなしだよ。君が存外優秀な男だというのは私もカレンも知っているんだ。逃げるな」

「ちぇっ。食えない人ですね、真奈美さんは」

「それは光栄」

 早く帰りたかったのに、すっかり真奈美さんに退路を塞がれてしまった。あーあ。これってつまり、

「……事態を探るには、これまでの傾向から一つでも多くの情報を得る必要がある。勇樹、カレン。特に悪魔テロとの衝突の多い君たちと森川君とで協力して事件にあたってくれないか」

 こういうことだよな。

「ええ。奴らを見つけ次第皆殺しにするわ」

「いやだから今回の任務は情報を掴むことを最優先に」

「私の前に立つことを後悔させてやる!」

「違う! ああ、なぜ他のメンバーは皆別件に入っているんだ!!」

「………」

 姫さんは実戦に燃えている。あーあ、なんで嫌な予感は当たるんだろう。

「勇樹?どうしたそんな顔をして」

「すぐにわかりますよ。真奈美さんにも」

 俺はへらりと力なく真奈美さんに微笑んだ。



 亜須華国南部最大都市福永では、人々が一堂に集められ、その時を待っていた。中央に立つ二つの影が、いかにも楽しげに揺れている。

「実に良い時に動いてくれたものだ。ミールよ……。あいつらの命を捧げれば、我々は更なる高みへといける! そうでしょう!?」

「おお。本部の奴らを殺れるんなら、てめえの望む地位くらいやるよ。あの女もそんくらいの武功がありゃあ文句は言わねえだろ」

「っああ……! なんとありがたい御言葉!!」

 堕ちた羽に包まれた剣の紋章を白く刻んだ黒いマントが、喜びに打ち震えた。下卑た顔でその男は笑う。終結した人々が虚ろに立ち尽くす中、一人で笑い続ける姿はあまりにも奇怪で、異質だった。

「……言っとくけど、しくったら俺はお前を殺すぜ」

「承知の上ですとも。貴方様は誰よりも残忍な方ですから」

 その言葉に、銀髪を揺らしてもう一人の男も口角を上げた。首下で鈍く光る黒い紋章が脈打つように照り輝き、ただただ邪悪さを身に着ける。黒マントと色違いであるだけの紋章が、なぜこうも違った印象を与えるのか。それだけ銀髪の男が恐ろしい人物とでもいうのだろうか。少なくとも同じ紋章を身に着けているはずの男は、冷や汗を流し恐怖で息を飲んだ。その様子を、銀髪の男は喜色に満ちた顔で眺め、嘲笑う。

「……っどうか気を静めてはいただけませんか。私が余裕を持っていられるのは、貴方様が授けてくださった策が破られるはずがないと知っているからです。決して、貴方様を恐れぬ事はありません」

「俺に命令するな。今からでも俺が直々に手綱を握ってやってもいいんだぜ?」

「ひいっ! そ、そんな……あぐはっ!?」

 銀髪の男は、自らのこぶしを受けて上がった悲鳴を楽しんだ。人々は動かない。虚ろな瞳で、静かに成り行きを見守っている。

 続けて何度か腹を殴った後、銀髪の男は優しく声をかけてやった。それは男にとって、無力なネズミを弄ぶ猫のように悪意のない好意だったからだ。

「忘れてんじゃねえぞ。てめえは俺にとっては代わりのきく虫けらだ。つうかさっきから頭が高いんじゃねえの? こんなオモチャを手に入れて王様気分か? ……ほら、俺がなんだか言ってみろ」

「ぐっ……ごぼっげぼっ!! ……我らが、祖国。エルドラドの……軍幹部」

「はい、せーいかい。良かったなあ? 俺が優しくて。じゃあもう一度だけ教えてやろう。しくったらお前を殺す」

 すぐさま黒マントの男は地面に頭をこすりつけた。今まで隣に立っていられたのが信じられない。何故自分は勘違いをしてしまったのかと激しく自分を責め立てているように見えた。

「わ、私のような弱卒者が貴方様の素晴らしい計画を無にせぬよう全力を費やさせていただきます! どうか、どうか見守っていてください!!」

「たりめえだろ。……で、どいつがくるんだよ。水帝か? それとも、いきなり奴が出てくんなら面白えのによお」

「い、いいえ。奴らではありません」

 銀髪の男は、興味深そうに視線を向けた。促されるまま紡がれた言葉に、大きく口が裂ける。

「……なあるほど。あの二人が来たか。戦った事のない奴は大歓迎だぜ。あっはははははははっ! 楽しくなってきたじゃねえか!!」

「っど、どちらへ……?」

「ああ? 見物だよ、見物。まっ、せいぜい頑張れよー」

 高笑いをしながら、銀髪の男は去って行く。後に残された黒マントの男は必死に震えを止め、よろよろと立ちあがった。

「くそっ! 絶対絶対、計画を成功させてやる!!」

 ギラギラと血走った眼は、夢見る乙女のように空想を泳いでいた。

 恐ろしい実力者が練った計画が破られるはずがない。先程向けられた怒りは当然の報いであり、自分は期待に応えられる。だから今ここで生きているのだ。脳内を次々と駆け巡る思考が、男に少しずつ平静を取り戻させた。手近に立つ人間を二、三人思うがまま殴り、その感情の昂ぶるままに叫ぶ。

「見ていろ、ミールの哀れな飼い犬どもよ!! 我が功の為に死ぬがよい!! 殺してやる!!」

 全てはミールが悪いのだ。絶対的な力に打ち負かされるがよい。着々と準備を進める男の顔は歪んでいた。「最上の魔女」が何だ。エルドラドの力こそ最強だと、早く教えてやらなくては。

 その揺るぎない勝利の後継だけが、男の心を激しく燃え上がらせていた。



「うわー」

福永は、辛気臭くてじめっと陰湿な事件を追う俺に気おくれを感じさせるくらい暗かった。人はまばら。市街地の店の多くがシャッターを下ろし、開いた店には犯罪者に向ける目をプレゼント中の警備員付きときた。

 俺なら早速お暇したい雰囲気だ。こんなになるまでミールにほっとかれてる時点でおかしいし、気味が悪い。しかもこの空気に触発された姫さんが睨み返すもんだから余計に性質が悪い。目が合ったら敵と思え、とかどこの時代のヤンキーだ。

「何を考えているのかおおよそ検討はつくが……君がその外見で言うのは少し無理があるよ」

「俺の心根とファッションセンスが古臭いみたいに言わないでくださいよ。亜須華人の金髪がみーんなあそこまで柄悪くなるわけないじゃないですか。ね、姫さん」

「どうでもいいわ」

「ひでえ!!」

 姫さんが獲物を狙いすました狩人のように周りを探っていく。いつもならセットでついてくる暴言は遥か彼方。寂しいぜ、まったく。すぐにまた俺のことを頭から追い出しちゃってさ。

「姫さーん。リラックスしていきましょうよ。リラックス。すぐばてますよー」

「…………」

「姫さんってば。聞いてくださいって、」

「うるさい」

 伸ばした手を軽く払われる。完全に拒絶されてるよな、これ。思った通りの展開過ぎるだろ。真奈美さんも不思議そうに話しかけてるけど、これに至っては完全無視だし。

 ややこしくなってきたな。ほんと困った姫さんだ。

「すみません、真奈美さん。まあいつものことなんで気にしないでください」

 とりあえず俺は小声で真奈美さんにフォローを入れておいた。察しのいい真奈美さんはなんとなく思うところがあったのか、同じく声を潜めて尋ねてくる。

「もしかして、フローレンでのことが?」

「そうです。任務はこなしているし、下手なこと言って刺激するのもあれなんでほっとかれてるんですけどね。俺としては面倒極まりない任務だったわけです」

 テロと姫さんはものすごく相性が悪いのだ。特に、国家を揺るがしかねない一大事件になればなるほど、ビジネス意識は弾けとんで全力で叩き潰しに行ってしまう。

 しかも実力は伴っているから実績はピカ一。よって任務が途絶えない。

「おいこら、何お高く澄ましてんだ」

「……は?」

「は?じゃねえ。お前らこの辺の人間じゃねえだろ。安全なところに留まってる奴らが観光気取りか? 都がそんなに偉いかよ!? なめてんじゃねえぞブス!!」

 不意に柄の悪い男が姫さんの行く手をふさいだ。恰好からしてホームレスか。見る目ないなこいつ。そこら辺歩いてる奴らを狙ったほうがまだ望みはありそうなのに。姫さんいかにも凶悪そうな顔してんじゃん。めっちゃかわいいじゃん。原型すらなくしたいのか、こいつ。

「毎日毎日毎日!! 訳の分からん奴が来ちゃあ俺の家荒らして集会やってるしよお。そういうのを取り締まれなくて何が世界平和だ。都の連中は本当に役立たずで反吐が出らあ!!」

「訳の分からない奴? それはどういうことだ。最近の話なのか?」

「おうともさ! ここ一か月、俺の家はあいつらの根城よ。やれ悪魔最強だ。幹部を落とすだ。うるさくってかなわねえ」

 俺は軽く衝撃を覚えた。すぐに真奈美さんと顔を見合わせ、うなずき合う。

「そ、それは大変だな。あんた」

 いきなり欲しい情報と巡り合うなんてどこのゲームだと言いたい感じだが、今重要なのはそれじゃない。ていうかゲームならもっと別の奴を情報提供者に選ばせるわ。長老かセクシーお姉さん出せ、セクシーお姉さん。

「よろしければ詳しくお話を伺っても? 何かお力になれるかもしれませんわ」

「……っお、おお。姉ちゃんが聞いてくれんのか」

 ほらな。セクシーな美女は物事を円滑に進めてくれる。よし、あのホームレス(仮)は真奈美さんに任せておけば大丈夫だ。俺は俺の、真奈美さんからのラブメッセージを果たすとしようかな。

 え、そんなの違うって。そもそも聞いてない? 当たり前だろ。愛の告白はたいてい密やかに行われるものなんだからさ。

「姫さん。抑えてください! あいつ使えそうなんで!!」

「わかってるわよ。ただあの不遜な態度を改めさせるだけ。そのくらいいいでしょう」

「姫さんの責めに耐えられるのは俺くらいのもんですから! いちいちああいうの気にしてたらこの町じゃあ意味ないですよ。どこにでもああいうのは一定数いるんです。一般人に手を出したらダメだって!!」

 そう。愛と信頼に基づいた俺の仕事は、もはや魔法攻撃を行っていないのが奇跡レベルで怒っている姫さんの相手をすることだ。このプライドが山より高い姫さんが留まるために、俺は全力をもって戦わねばならない。

 大丈夫大丈夫。俺はできる。意外と頭の中で自分なりに分別を保とうとするタイプの姫さんなら、きっと思い留まってくれる!

「……だって」

 と、突然姫さんが俺の腕を掴んだ。

「役立たずなんかじゃ、ないわ」

「姫さん……」

『私には、これしかないの』

 痛いくらいに強く握る指は、震えていた。何言ってんだ、この人は本当に。

 何をそんな、らしくない顔で言うんだよ。

「ひ、」

「何だって! それは本当なのか!?」

 俺と姫さんの意識を一瞬で向けさせるくらいの大声が、耳を貫いた。数秒遅れてようやく、それが真奈美さんの声だということに気づく。

 ホームレス(仮)も目を回したような感じだった。だけど真奈美さんの声に威圧されたみたいになんとか答えている。

「ほ、本当だ。昨夜も言ってたんだよ。明日にはいよいよエルドラドから使者が来る。この飢えた街を捧げて……ぐあぁあっ!?」

「ち、ちょっとあなた!」

「駄目だ、真奈美さん! 近づくなっ!!」

 俺は突如苦しみだしたこの男から真奈美さんを引き離した。次の瞬間には目の前にあった身体は地面に倒れ伏し、もやのような黒塊が辺りに満ちる。それは空中で球体に変化し、気味の悪いオーラを放っていた。

 姫さんはすぐさま結界を張った。俺も戦闘に備えるべく腰の獲物を引き抜き構え、真奈美さんをかばう。いくらミールの隊員とはいえ、真奈美さんは非戦闘員だ。残念ながらこの謎物体の相手は荷が重過ぎるというものだろう。

「ミールの手の者よ。貴様達の福永来訪を、心より感謝しよう」

 黒塊が心底嬉しそうに笑った。見た目は口っぽい部分が裂けているみたいな感じだ。とりあえず気色悪い。しかもこいつはどう考えても男だ。野郎には興味ないっつうの。とっとと失せやがれ真っ黒プチモンスター。

「……皆の者喜べ! 我々は今日、この時!! ミール幹部二名の命をもってエルドラドと一つになるのだ!! 傲慢なる組織に死の鉄槌を!!」

 俺のテンションをよそに黒塊は叫ぶ。その声に呼応して次々にシャッターが開いた。中からは黒マントを纏った集団がぞろぞろと集まってくる。どんだけいるんだよ。多すぎて福永が夜の海みたいになってんじゃねえか。

「こういう歓迎って萎えるんですけどねー。あんた女に嫌われるタイプだろ。ねえ、姫さん?」

「潰す。本体さっさと引きずり出して潰す」

「情熱的い! なんでそんなに熱烈なの姫さん!? おいてめえ、もてないくせに俺の姫さんの視線を奪った罪、そう簡単に贖えると思うなよ!!」

「勇樹、カレン! 相手を挑発してどうするんだ。ただでさえ戦力差が酷いんだぞ!?」

「そ、そうだぞ貴様! しかも何故俺に本体がいるとわかった!?」

 クソ野郎。真奈美さんに便乗しやがった。しかもこいつすっげえ小物っぽいぞ。腹立つな。まあ、こいつは今は置いとこう。

「大丈夫ですよ、真奈美さん。俺たちはこう見えてもミールの戦闘員ですよ? ちょっとやそっとで驚かされませんって。それよりも」

「モリカワさん。福永から一番近い支部に応援を頼んでください。そこのクズが運びます」

「姫さん、それ名前みたいに呼ぶのはやめて! 運ぶけど!! そういうことなんでお願いします、真奈美さん。風送り!!」

「え、ちょっと!」

 俺は真奈美さんに魔法をかけた。勢いよく集まった風が身体を包み、徐々に足が空へと浮かんでいく。

「……勇樹、大丈夫なのか」

「くそっ! 攻撃しろ!! 全員で攻撃して奴らの首を獲れ!!」

 反論を諦めた様子の真奈美さんが、心苦しそうに俺達を見つめた。敵の怒号なんてつまんないBGMのせいだ。かわいそうに。全部姫さんの結界に防がれてるくせに、無駄に威勢だけはいい奴らだな。

「当然っすよ。あんな顔も出せないチビ煙にも、あいつの手下にも俺達は負けません」

 大丈夫。後でびっくりしてよ真奈美さん。とびきり驚かせてみせるからさ。

「姫さんと俺は、最強ですから」

 そうして、福永の乱は幕を開けた。



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