それが日常
「こちら第八部隊! 敵は未だ攻勢です。救援を頼みます‼」
「了解。そのまま耐えていてくれ」
俺は一旦通信を切り、隣で腕を組むお姫様の様子を窺った。豊かな黒髪が風に揺れ、猫のような釣り目が鋭く空を睨んでいる。
今日も絶好調だな。どこぞの見知らぬ敵さんもご愁傷様ってやつだ。
「ちょっと、何じろじろと見てるのよ。そんなに跪きたいの? 物好きなクズね」
「いやいや、まさか。俺の姫さんは今日もかわいいなって思ってただけですよ。任務終わったらデートしません?」
「脳みそぶちまけて生ゴミとして捨てて欲しいのね」
「え~」
訂正。いつにも増して毒舌だ。心なしか肌を突き破りそうな勢いで魔力が暴れたがっているのを感じる。ヤバい。
ゾクゾクする。最高だ。
「まあ生ゴミ云々は置いといてよ。姫さん。第八部隊が救援要請してるけど、すぐ行ける?」
「当然でしょう? 私を誰だと思ってるの」
姫さんが右手をかざすと、足元に大きな魔方陣が出現した。淡い白光が身体を照らし、姫さんの綺麗な顔がもっと綺麗に見えてしまう。
「私はミール構成員にして最上の魔女、カレン・ド・ノアイユよ」
「はいはーい。俺はそんな姫さんの唯一にして最高のコンビ、斎藤勇樹! ってうお⁉ ちょっとちょっと、空中で足蹴にしないでくださいよ‼ 落ちるって‼」
「落ちなさいよ。いいから私に跪きなさい‼」
光が止んで俺たちが出現した場所、戦場。の真上。ちなみに頭の上には靴。
「おおっ、見ろ! カレン様だ。カレン様達がいらしゃったぞおおおぉ‼」
「我らがカレン様万歳‼ もう安心だ。者ども全軍前進っ‼」
なんかすごく盛り上がっている。さすがは姫さんだ。大の男を踏んで登場したにも関わらずそいつに意識を向けさせないなんてどんだけ人気があるんだろう。
まあ、俺のことなんかわりとどうでもいい。
だけど、これだけは言わせてくれ。
「姫さんは俺のものだかんな、このモブども‼」
これだけは、これだけは譲れない。譲らない
「違うわよ。失礼なゴミね」。
たとえ姫さんが否定したとしてもこれは純然たる事実……
「お前が、私のものなのよ。わかった? このろくでなし」
ではありませんでした。すみません。
「ふははははは! そう。俺だけが姫さんのもの‼ 最大武功奪ってやるから覚悟しろよお前らあああああっ‼」
腰に差した剣を一振りして戦場をこじ開ける。堅牢を誇る魔壁の城も、誰も、俺達の邪魔なんかできない。
「我々は世界平和の使徒、ミール‼ 魔王に堕ちた哀れな国よ。平和のための礎となれ‼ 風の刃ああああぁぁああ‼」
そう。これは至極単純な話。
俺と姫さんが力を合わせて世界を守る。それだけの物語だ。