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異世界黙示録  作者: 煌月 かなで
序章
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序章 六部 【魔法という名の力】

「あれ……いつの間に…………」


疲れからか、いつの間にか眠りについていたシャルルが目を覚ましたのは二人で笑いあってから少しの時間が経った頃。

空に見える太陽が設定通りに傾き始めていた。


「おはよう」


不意にかけられたその声に改めて一人では無いことを実感し、幸福を噛み締めながらながら体を起こす。


「私どのくらい寝てた?」


「二、三時間ってとこかな」


「そんなに!?もう…………今日のうちに色々説明しようと思ってたのに」


彼女は驚いた後がっくりと肩を落としため息をついた。

幼さの残るその反応は楽しみを取り上げられた子供を彷彿させる。


「いつでも話せるんだからそんなに急がなくてもいいだろ」


「そうなんだけど……じゃあ、せめて日が暮れる前に魔素、魔力とかの話はしておこうかな」


大事な話だから、と張り切る彼女。


「あー、もしかして魔素って緑色だったりする?」


魔素という言葉を聞き、何かに気づいたかのように問いかける。


「基本的には目に見えないけど確かに緑色の場合もあるね。どうして?」


聞き返された彼はどこか焦りながら後ろめたそうに視線を逸らした。

その顔には明らかな同様が見える。


「いや、じっくり見てたわけじゃないんだけどな?断じて邪な目的で見てた訳では無いんだが、寝てる君の体から緑色の気体みたいなのが出てたからさ」


「変態」


「申し訳ない」


冷ややかに蔑視され思わず頭を下げる。

そんな彼をみてシャルルは微かな笑いを頬に浮かべた。


「冗談だよ。それは伝導体アクアだね」


伝導体アクア?」


伝導体アクアは魔素っていう物質の二つある状態の一つで魔法や魔法武器を起動する時に必要なエネルギーみたいなものね。

伝導体アクアは空気中に浮かぶ純粋な魔素を人が体内で変換したもので、

この純粋な状態の魔素を浮遊体ミスト

浮遊体ミスト伝導体アクアに変換する個々の人間の能力値を魔力って言うの。

私は魔力が高いんだけど制御が下手くそでね……」


「なるほどな、魔法に魔法武器か。ワクワクする響きだな」


彼の記憶の中には魔法に類するものは思い当たらない。

魔法という言葉が無知な彼の好奇心をくすぐった。


「魔法武器の方はあれだけど魔法の方はノエルの思ってるようなものじゃないと思うよ。理解を助けるために魔法って言葉を借りただけだから」


「じゃあ、試しにみせてくれないか?」


その言葉に頷くと彼女の右手を蒼炎が包み込む。

その拳を振り下ろすとその炎が大剣を形作り実体化した。

その刀身は息を呑むほど美しい。


「これが戒具かいぐ。さっきの話だと魔法武器にあたる物ね。戒具にはそれぞれ能力が決まっていて伝導体アクアを流し込む事でその能力が発動するの」


その言葉と同時に彼女がノエルの視界から一瞬で姿を消すと次の刹那、背後から陽気に彼の肩を叩いた。


「これが私の戒具、クレイヴ・ソリーシュの権能【神速】。言葉通りただ速くなるだけのつまらないものよ」


その速度に呆気に取られたまま立ち尽すノエル。

だがあることに気がつくと動物的にシャルルに振り返る。


「それ俺でも使えるのか?」


「使えるかも。伝導体アクアには質があって人の数だけ質があるの。その質が戒具に合っていれば使えるよ。やってみて」


異様なまでの好奇心をみせる彼の様子に微笑ましさを覚え、手に持っていた大剣を地面に突き刺し彼に差し出した。


「あぁ、その前に魔素の変換ってどういうイメージなんだ?」


大剣を前に困惑するノエル。

魔素の変換の仕方がわからず手を拱いていた。


「うーん……元々備わってるものだからね……腕をどうやって動かすのか聞かなくてもわかるでしょ?それと同じ」


漠然とした質問に怪訝な顔をしながら必死に説明を試みるシャルルだったがどうやらそれは難しい様だった。

彼女が手の平をゆっくりとひらくとそこから碧色の気体が蝋燭の火のように儚く放出され揺らめく。

ノエルはその感覚的な指導に困惑しつつ自分の思ったままに意識を集中させる。


「ダメだ……」


どんなに意識しても力を込めても伝導体アクアが放出される兆しさえ見られない。


「驚いた……魔力がない人間なんて初めて見たよ」


「質どうこう以前の問題か。」


彼は不甲斐なさそうに自分の手を眺めているとその空気を切り替えようとシャルルが口を開いた。


「まぁそのうち勘も取り戻すでしょ。

とりあえず魔法にあたる物の説明もしておくね。

装術って呼ばれてるものなんだけど、

こっちは伝導体を直接つかって肉体を強化する技の総称ね。

一般的なので言うと、

攻撃する時、その表面に伝導体を高速で伝播させることで物理攻撃の破壊力を上げる【境刃ランツェ

伝導体を体内に留めることで肉体の強度を飛躍的に上昇させる【留盾シルト

脳と感覚器官を繋ぐ神経を伝導体によって補助することで五感を強化する【感醒シャルフ

この三つが基本的な装術だね。」


シャルルは説明をしながら手持ち無沙汰にぷらぷらと手首を柔軟させると次の瞬間その拳で森の大木を貫いた。

まるで中身が詰まっていないかのように容易く打ち抜かれたその大木から手を引き抜くとそこには拳台の風穴がぼっかりと空いていた。


「魔法……ではないな」


あまりの威力にゴクリとつばを飲む。

これから彼女を怒らせるような事は絶対にやめよう。


「だから言ったでしょ」


「戒具と装術か……まるで何かと戦ってるみたいな力だよな」


「みたいじゃなくて、戦ってるんだよ。ナイトメアと……あなたも見たよね?」


ナイトメア。

聞き覚えのある単語に思考を巡らせる。

そして気絶間際に見た神と見間違える程の圧力を放つ狂気を思い出し、全身を不快な感覚が駆け巡る。


「まさか……あの化物と戦ってんのか?」


「そのまさかが私の所属してる組織、狩人ヴィルベルの仕事。」


「じゃあ、もしかして……君はあれを倒しにあそこへ?」


目の前の華奢な少女があれを倒すとは想像もできない、しかし戒具や装術を見せられた後だけあって納得するのに時間はかからなかった。


「そうだよ。それと……君君って私にはシャルルって名前があるんだけど?」


「シャルルって呼びづらいんだよな……シャルでいいか?」


「好きに呼んでどうぞ」


投げやりな返事をする彼女、しかしその表情はどこか喜びの色を含んでいる。



「それでナイトメアってなんなんだ?」


夢喰ガードナーっていう殺人組織が生み出してるっていう話しか今のところはわかってない。それの解明も狩人の仕事の一つなのよ。」


あんな化物が人工的に生み出されているという事実は悪い冗談にしか聞こえなかった。

全身から引いていく血の気をなんとか留めて冷静になるとあることに気がつく。


「……待て……シャル。お前組織に所属してるのか?なのに一人ぼっちって事は…………」


同情のこもった彼の視線を受け、シャルルが鋭い視線を返す。


「妙な勘ぐりはやめて?組織って言っても仕事は個人に割り当てられるし、集まる機会もないしでほぼ形だけなの。決してハブられてるとかそういうわけじゃないから!」


いつになく彼女は強めの口調でノエルに釘をさすように言葉を浴びせた。


「そ、それなら納得だな」


「なんだか釈然としない納得のされ方……」


初めて不機嫌そうな顔をみせた彼女をみてノエルの額を冷や汗がなぞる。

言葉で気圧されたのもあるが何より横目にチラつく風穴の空いた大木が不安を煽った。

ああなるのは御免だ、そう思い咄嗟に話題を逸らす。


「怪物退治か……それならさっきのビーフシチュー創る要領で兵器とか無敵の武器とか創ればいいんじゃないか?」


彼が話題を変えたことに怪訝な顔をしつつも今回は見逃してやると彼女は浅くため息をつく。


「残念だけどそう簡単にはいかないよ。

夢の中で再現できるのはあくまで普遍的に存在するものだけ、超常的な能力を持ったものは創り出せないの。

用途が破壊や殺しに極めて限定されるものも塔側のセキュリティに引っかかる。これには人間に敵対する生命体も含まれるね」


「生きてるもんまで創れんのか」


「創ろうと思えば人間も創れるよ。現実的とは言えないけど」


彼女曰く、夢で創造できる物質は

この塔のデータベースに依存している。

例えばビーフシチューを創ろうと思った時、まず塔の中でビーフシチューという食べ物が検索され、極めて普遍的な形のビーフシチューがベースとして提示される。

そこに入ってるものや味などの詳細な情報を加えていき完成したものを最終的に具体化するのだという。

それ故、この世に存在しないものを一から創り出すことはできない。

人間に関しては単純に加える情報量が多すぎるという問題がある。

二十歳の男性を一人創り出すだけにしてもその人間の二十年分の記憶を零から加えていかなくてはならない。

人格形成を無視すれば簡単に創り出せるがそれはもはや人間と呼べるものではないだろう。

要するに現実的とは言えない程の途方もない手間がかかるということらしい。


そんな説明をすべて聞き終えた頃には既に日は沈みかけ、橙色に変わった光が辺りを不安定に照らしてした。


「色々わかって助かったよ、ありがとう」


「気にしないで、そういう約束でしょ。時間も時間だしそろそろ家に戻ろうか」



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