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異世界黙示録  作者: 煌月 かなで
序章
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序章 五部 【理想の世界と独りの少女】

食事を終えた二人はコテージの外、湖の畔の開けた場所で優しい木漏れ日を浴びながら横たわっていた。

二人の視線の先には澄んだ色の空。

飲み込まれるような薄く、深い青がどこまでも広がっていた。

体を心地よい風がなぞり眠気を誘う。

その神秘的な雰囲気に溶かされていくような感覚。

そんな微睡みの中でシャルルは目を閉じたまま儚げにその唇を揺らした。


「ノエルはさ…………ここが私が創った世界だって言ったら信じるかな?」


そんな事を真剣に口にする彼女。

それはとても大逸れた馬鹿げた発言だ。

少し前のノエルならそう言っていただろう。

しかし、彼は短期間に自身の理解を超えるものを見すぎた。

その慣れがもはや異常を認識する感覚を麻痺させていた。

そんな自分に呆れ果て、鼻で笑いながら言う。


「今ならなんでも信じられるよ」


「そっか…………そうだね」


そう微笑み、しばらく沈黙した後で

彼女は子供を寝かしつける母親の様に優しく、艶やかな声音でこの世界について、まるで自分語りの様に口開いた。



世界を無数に創り出す事ができる塔が建設(でき)た日のこと。



塔に住む人間一人につき一つの世界が与えられること。



そしてこの場所が()と呼ばれるその創り出された世界の中であること。



信じられないような話しが長い時間をかけて次々とその口から語られる。

その内容を相槌を打ちながら聞くノエル。

しかし彼の意識は内容よりもシャルル本人に強く向けられていた。


この世界のことをどこか寂しそうに、どこか嬉しそうに語る彼女。


ノエルはその話を聞いて、彼女のその姿を見て初めて理解した。


終始楽しそうに話す彼女の心を。

最初にあった時提示してきた交換条件の真意を。

彼女は最初から正直者だった。



────話し相手になってほしい



もっと大きな条件を押し付けられる状況で彼女はそう言った。


自分の意のままに操れる世界が手に入る。

一人で全てが完結する理想の世界。

裏を返せばこの塔に住む人間にとって、人とのの関わりはもはや不必要なものだ。

彼女はこの一人には広すぎる、眩しすぎる世界で人の温もりを求めていたのだろう。


「それは寂しくもなるよな……」


考えていたことが思わず口から溢れ出る。

その呟きを聞いた彼女は驚いたように語口を止め、その後クスリと笑った。


「私ね、今すごく嬉しいんだ。」


「あぁ、知ってる」


「会ったばかりなのに君はなんでもお見通しなんだね。」


必死に笑顔をつくり気丈に振る舞う彼女、しかしその声は泣きそうに震えている。

そんなシャルルの様子をみて、どうして良いかわからないノエルだったが思った事をそのまま口に出してみる事にした。


「…………我慢しないで泣きたい時は泣くもんだ」


ノエルのその言葉で彼女の中の感情を堰き止めていたものが崩れ落ちた。

涙がホロホロと頬を滑り落ち、溢れて止まらない感情が子供のような纏まりのない言葉となって紡がれる。


「私ね、寂しかった……寂しかったよ……ここにきてからずっと普通に話せる人が欲しいと思ってた。話し相手になってくれれば誰でもいいって思ってたの……」


でも


──出会えたのがあなたで良かった。


ノエルは泣きじゃくる彼女の気持ちを全てを聞き遂げるとその頭を横から優しく撫でる。


「俺にできることならこれから何でもやってくつもりだよ」


元はと言えば彼の命はシャルルに拾われたもの。

ノエルは彼女のために命を捧げる決意をしていた。

そんな決意を再確認し、一息つくと彼女の無防備なこめかみを軽く拳骨で小突く。



「俺は嬉しいけどな、気を許すのが早すぎだ。もっと人を疑った方がいいぞシャルルは」


「痛ぁ…………命の恩人になんて事を……」


紅く瞼を腫らし、瞳に涙の輝きを残す彼女はその雫を手で払い落とすと冗談っぽくそう言った。


「それを言われちゃ敵わないよ」


視線と視線が結ばれ、二人は暫く見つめ合う。

何度目かの静寂。

それを破ったのは二人の笑い声だ。

鼻笑から哄笑へ

それは二人が歩み寄り、互いを信頼した瞬間だった。

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