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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
四章 過去編 たまゆらの記憶
19/92

3 髪を洗ってもらいました。

2016/11/14  1.2話部分を改稿いたしました。

1~4話にのびてしまいましたが、読んでいただけたら嬉しいです。

ああ、もう最悪だよ。

ツンドラを背負ったユリアスさんに木から降ろしてもらって、ホッとした途端腰から力が抜けた。

いわゆる腰が抜けた状態だ。


そして今、おんぶで部屋まで運んでもらっております。

お姫様だっこよりはいいけど、これはこれでいい年した女が、と思うと自分の残念さにため息がでる。

いっそ荷物的な扱いでよかったのに。


そうそう、未来のパターンは二つでなく三つでした。

怒られる、バカにされる以外に呆れられるというのもあったのですね……。




そういえば、私が目覚めてジェニーさんと一緒に寝た部屋は実はユリアスさんの部屋だったのだ。

私が熱を出していた時、大抵の時間二人のうちどちらかが付き添ってくれていて、場合によっては二人とも居たりで、客間ではスペース的に辛かったらしい。

私がベッドを占領している間ユリアスさんは二つある客間のうちの一つを使っていたそうだ。

もう一つは当然ジェニーさん。



それで今日から私は、ユリアスさんの部屋の隣のこぢんまりした客間に移ることになった。

ベッドのサイズも普通になったし、小市民としてはこれくらいの方が落ち着くので有難い。

壁や物伝いに歩くのも、この方が断然楽だった。


その部屋のベッドにポフンと座らされた私は、次の瞬間硬直した。

ユリアスさんが私の手を掴んだのだ。

僅かに引っ張り寄せ、強ばった指を一本ずつ開いていく。

「痛いところはない?」

やっとユリアスさんの意図がわかって肩の力が抜けた。


なんかね、目が見えないと他人の突然の動作にいちいちビビるんだよ。

できれば予告していただけるとありがたい。


ゆるゆると自分で両手の平を開けた。

見た目がどうかはわからないが、左手薬指の付け根と手首に近いところの二ヶ所が少しズキズキする。

左手を少し差し出すようにすると、ユリアスさんはそれを自分の手の平にのせ、もう片方の手の指で私が痛いと言った箇所を軽く押さえた。

「ここ、すりむいてる」


わかります、今押さえられたら痛みが倍増したよ。


包帯の下で涙目になった私に「ちょっと待ってて」と言い残して席を外したユリアスさんは、薬箱を持ってきたようだった。

「このくらいのキズなら僕でも治せるけど」

どうやらキズ口を消毒しているっぽい。

「あんまり魔法での治癒や回復に頼りすぎると、いざというときに効きが悪くなるんだ」


ああ、それはお母さんがよく言ってた。昔、親不知を抜いたあとどうにも痛くて何度も歯医者さんで痛み止めをせびってたら終いには、ちゃんと用法用量を守らないといざっていう時に効かなくて困るのはあなたですよ、と看護婦さんに怒られたらしい。

私の感想は、『お母さん、“せびる„ってどうよ……』でした。


薬を塗ってガーゼと包帯をしてくれたあとユリアスさんは、ついでだから目も包帯替えとこうか、と言った。

そして暫し考え、いやでも、と呟き、私に視線を移し、何か一人でぐるぐると考え込んでいらっしゃる。

ややあって、髪を洗おうか?、と言われた。


おお!お風呂!!


聞けば、湖で溺れたあとの泥やらなんやらでぐちょんぐちょんの私を、ジェニーさんが上から下までキレイにしてくださったらしい。


おおう、私のメンタルがまたダメージを……。


いやいや、次ジェニーさんに会ったら必ずやお礼を申し上げねば。


そしてそのあと私が高熱を出したので、身体は(もちろんジェニーさんに、ここ重要よ)拭いてもらっていたものの、髪はそれきり洗っていなかったのだそうだ。

そういわれれば髪が重たく感じるのは、伸びたからだけじゃなく、汚れてるからってのもあるのか?

不思議な事に急に頭が痒くなってきた気がする。

昨日私と寝て、ジェニーさんもしや臭かった??


ユリアスさんっ!お風呂、お風呂お願いします!!






そして今私は、異文化という言葉の意味を体感し、愕然としている。


タオルやシャンプーなどを持ち、ユリアスさんに手を引かれ、何故か家を出て着いた場所は……、川だった。

そうデスネ。お風呂の存在について訊こうと思ってたんデシタネ。


こっちの文化じゃ川で水浴びってのがデフォルトなのか?

そうなのか??

ならば私も覚悟を決めねばなるまい。『郷に行っては郷に従え』と言うではないか。


内心悲愴な決意を固める私とは裏腹に、ユリアスさんは淡々と準備を進めていた。


川の一ヶ所に、流れの中程まで届く木の板を張り出させてあるらしい。桟橋的な?

目元を覆っている包帯と薬のついたガーゼをはずされ、目は開けないで、と注意された。

ああ、なるほど。包帯のままで髪は洗えないよね。だから薬の交換のついでに洗髪になったわけだ。


風が目元の皮膚を撫でる久々の感覚を楽しみながら、ユリアスさんに誘導されるまま桟橋もどきの上に仰向けに横たわる。

ユリアスさんは躊躇なくバチャバチャと川の中へ入っていき、首から上が川の上につき出るように位置を調整された。頭がグラッと下がりそうになり、首に力を入れたら、大丈夫、とユリアスさんに言われ、気づいたら頭の下に何かがあって支えてくれていた。

何だろう?異世界の便利グッズ?


「今日は暖かいけど、お湯の方がよければお湯にしようか?」

ユリアスさんに訊かれ、とんでもない、と首を振った。

そんなお手間はかけさせられません、水で充分ですとも。


ユリアスさんの手つきは丁寧で、ここが外だとか髪を流しているのが水だとかいうのを考えなければ、まるで美容院で洗ってもらっているようだった。

あとは顔にタオルでものせてもらって、痒いとこはないですか?とか聞いてもらえたら完璧なのになー、などと考えていたら、ユリアスさんがポツリと口を開いた。


「君、本当にフェリシアではないの?」



æ æ æ



目が見えないくせにウロウロしたあげく、木に登って降りられなくなったマヌケな娘は僕の背中でため息をついている。

自分でも、なんでこんな事になったのかわからないらしい。


師匠は、大丈夫、って言ったけどやっぱり頭でも打ってるんじゃないかな。


部屋へ連れ帰って擦り傷の手当てをしたあと、ついでだから目の包帯も替えようと思ってふと気がついた。

ずっと髪を洗っていないので、すっかり艶がなくなってもったりとしている。包帯を外すついでに髪を洗おうか。

いやでも、部屋でこの長い髪を洗うのは難しいな。

髪だけ川で洗って、身体は部屋で拭くのでがまんしてもらうか。

とりあえず娘に訊いてみた。

「髪を洗おうか?」


娘は最初、間違いなく喜んだ。次に何かに気づいたように、ハッと驚きの表情を見せ、顔をしかめた。そして必死な顔になった。


目の表情がないくせにこれだけ感情豊かなのは、一種の才能なのかな。

絶対隠し事ができないタイプだ。


今日洗うなら急がないと、日が暮れてきたら肌寒くなる。


手早く必要なものを集め、娘の手を引いて川へ向かった。


森の中を走るこの川はもう少し上流の方で二つに分かれていて、小さなほうが僕の家の近くを流れている。大きめの方は緩やかにカーブしてカーサ村の方へ向かい、村人の生活用水として活躍している。


実はこの小さな川は僕が作った。

元々の川はカーサ村の方へ向かうものだけだったのだけれど、少し遠くて不便だったので、僕が家の周りに張っている結界の内側に入るように調節しながら土を削り、川の流れの一部をこちらへ誘導したんだ。念のためカーサ村の村長には伝えたけれど、元々の水量が豊富な川だったので問題はなかった。


結界の内側の川には中央まで届く板を渡し、使いやすく工夫した。洗濯もここでするし、夏場は水浴びもする。使いやすいに越したことはない。


川へ連れてきてみると、相変わらず娘の表情は面白いように変わった。

包帯を外したので、変わり具合がよりいっそう鮮明だ。

目を開けないよう注意して、木の板に横になるよう誘導した。

ズボンを膝まで捲りあげて川に入ると、今日は陽射しが暖かかったからか水が冷たくて気持ちいい。

娘の頭を板から飛び出るように調節し、頭の下に風魔法の応用で空気の塊を作って支えにした。

頭が落ちると思ったのか、首筋に力が入ったようだったので、大丈夫、と伝えると不思議そうな顔をした。


水よりもお湯の方がいいかと思い訊いてみたら、水でいいと言う。

小さめの桶で水を掬い、流して洗ってすすいだ。

何度かそうしているうちに、娘のいう世界には魔法が無いのだと思い至った。もしかしたらお湯は要らないのではなく、遠慮したのか?

手元の桶に目をやった。中の水をお湯にするなんて、手間という程のこともないのに。


一度で汚れが落ちなかったので、二度三度洗うと髪が光を浴びてキラキラと輝き出した。

この、蜂蜜のような黄金の輝き。


目を閉じて、満足げに口元を弛ませる娘を見た。

その瞳がラベンダー色なのを知っている。


けれど、貴族のお姫様として育った娘が平気で川の水で髪を洗う、なんて聞いた事がない。

同時に昼間、皿を持ち上げてドヤ顔でスープを飲んでいた姿を思い出した。

あり得ない。



ふと、言葉があふれでた。



「君、本当にフェリシアではないの?」



娘はキョトンとしたふうだった。


「へ!?どなたですか?」


仰向けに、無防備に寝ころんだまま、答える娘は嘘をついているようには見えなかった。


「ああ、勘違いかな?ごめん、気にしないで」


自分でも不自然と思わないでもないけど、この話はここで終わらせよう。

この娘は、少なくとも自分がフェリシアだとは思っていない。


調べたほうがいいかもしれない。フェリシアの事を。



髪を洗い終わってタオルで拭くと、さっきまでが嘘のように艶やかになった。

ついでに乾かしてしまおうと、髪の中に指を差し込み風を纏わせたら、うわっ!と吃驚した声をあげ頭が逃げた。

顔が紅い…?

さっきまで散々触ってたんだけど、急になんなの?


不審に思って、乾かさないの?と訊いてみると、髪が痛みやすいのでいつもタオルドライだけだったという。


それは髪が短かった時の話だよね?

その長い髪は、ある程度迄だけでも乾かした方がいいと思うんだけど、僕は彼女の侍従でもないし、本人がいいと言うならまあいいか。


その場で目に薬を差し、塗り薬をつけたガーゼを当て、包帯を巻く。

来たときと同じように手を引いて家に戻った。


夕食のあと、彼女の部屋に水を運び、お湯にした。見えなくても、火の気のない部屋で水があっという間にお湯にかわるのは彼女にとっては凄いことだったらしい。

興奮する彼女に、湯が冷める前に体を拭くように言って部屋を出た。

まさか僕が手伝うわけにもいかないし、手探りでどうにかなるだろう。


翌日、彼女は何回かわからない程のくしゃみを連発していた。


絶対、髪を乾かさなかったせいだと思う。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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