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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
四章 過去編 たまゆらの記憶
16/92

1 目覚めたら、視界が真っ暗でした。  

2016/11/07

前話 『タゲテスの毒3』を改稿しています。

オマケもつけましたので、まだの方はよろしければ前話から読み返していただければ嬉しいです。

付け足しただけなので、読まなくても問題はないと思います。

泡のような、小さな記憶の塊がひとつ、ふたつぶつかり弾ける。


鍵盤を叩く指


砂利道を走る馬車の振動


レジのドロアーが開く尖った音


初めて踊ったワルツのステップ


駅の雑踏とアナウンス



弾けて流れ、また生まれる。






永い夢を見ていたような気がした。


伸ばされた白い腕。


真っ暗な中で、幾つかの光景が頭をよぎり跡形もなく消える。



凄まじい不安を感じて思わず声を洩らした。


「あ、目が覚めた?」

少し掠れた、快活な声が聞こえた。

「う、あ……ここは?」

声をだそうとすると、喉が震える。

「ちょっとお水を飲もうね」

言葉の次に、唇を誰かの指がそっと撫でた。

ややあって、ストロー?吸いのみ?みたいな細いものが口元に当てられる。

少しずつ流し込まれる水分を、貪るように飲み込み、やっと人心地ついた。


大丈夫だからちょっと待っててね──、と言い置いて傍らの気配がパタパタ遠ざかった。

ドアの向こうで誰かを呼ぶ声が聞こえる。

私はモゾモゾと身体を動かしてみた。

肌への感触で布団の中にいることがわかった。

ここは病院なのかな。


視界が真っ暗なのが気になって、恐る恐る手を顔のほうへ持ち上げる。

そっと触れると、目の辺りに包帯が巻いてあることに気づいた。

途端に思い出す、水に濡れた記憶。霞む視界と突き刺す目の痛み。

どこかの池?湖?で溺れて助けてもらった。

今の人…はちょっと違った気がする。

私の目、どうなったんだろう。


「フェリシア?目が覚めたの?」

さっきとは違う耳障りのいい、男性の声が聞こえた。

「? あの、すみません。私、助けてもらったんでしょうか。ここはどこですか?家に電話したいんですけど」

お母さんに連絡しないと。とにかく早く連絡しないと心配をかける。

無意識に包帯をまさぐっていた手を、誰かにそっと押さえられた。


「落ち着いて」

と掠れた声が言った。少し話をしよう、と。


「まずはあなたの名前を聞こうか?あたしはジェニファー・アスコットよ」

ジェニファー!?

外人?──そういえば助けてくれた人も外人さんだった、ような。

外人のお医者さん??

それにしても二人とも日本語うまい。


掠れた声のジェニファーさんの方へ、見えない目を向けた。

「お医者様ですか?私は中村梨子といいます」

誰かが息をのむ音が聞こえた。

この部屋何人いるのかな?見えないのが不安で仕方ない。

「はい? ナ、ナキャウラリコ……?」

ジェニファーさん、名前の発音だけ変。他は流暢なのに。てゆうか名字なんだっけ?名前のインパクト強すぎて頭に残らなかった。


「ナ、カ、ム、ラ、です。中村梨子」

「……なかむら、が名前なの?」


ちょっと待って、何それ?これだけ日本語ペラペラの人が、日本人の名前わからないとか、どうよ!?


得体の知れない不安が襲ってくる。

「中村が名字で、名前が梨子です。ここは、どこですか?病院?家に電話させて下さい!」


──でんわって何?と聞き返されて、私は言葉を失った。『電話』が通じないとか。いったいこの人達何なの?

『日本』も『地球』も通じない。

『ラナリス王国』って何?

『魔法陣で転移』って私からかわれてんの?


「リコちゃん、落ち着いて、一つずつ話を進めよう」

身体起こした方が楽かなー、といいながらジェニファーさんは、もう一人の人に「ほら、手伝って!」とぞんざいな口調で言った。

躊躇いがちな気配でもう一人が私の頭の方から近づき、肩の下に手を差し込んで上体を起こす。頭がぐらんぐらん揺れた。

もっと丁寧にやんなよ、と怒りながらジェニファーさんが、私の背中にクッションを幾つか宛がってくれた。

「ありが、とう、ございます」

我ながら息も絶えだえな有り様でお礼をいうと、ジェニファーさんは頭をそっと撫でてくれた。


お腹はすいてない?、と訊かれたけど、お腹がすいている感覚はあるものの、正直まったく食べる気がしない。

お腹がすくのと食欲って別だったんだな。

小さく首を振る私に、彼女は掠れた優しい声で、じゃあ食事は後で軽いものからはじめよう、と言った。


「まずは、心配してると思うから先に言っておくけど、目は大丈夫よ。時間はかかるけどちゃんと見えるようになるからね」


その言葉で、呑み込んでいた氷が喉の奥で溶けたように、スッとした。

ずっと怖くて訊けなくて後回しにしてた。

よかった──。


目が見えない不安は相当大きかったみたいで、私は開かない目に涙を感じた。

「ほらほら、泣かないの。薬が流れるからね」

そっと抱きしめて背中を擦ってくれるジェニファーさんにすがりついて、私は暫く嗚咽が止まらなかった。




私がようやく泣きやむとジェニファーさんは、薬を替えよう、と言った。

「薬を交換するから、そのまま聞いててねー」

器用に包帯を巻きとり、ガーゼのようなものを外すと目蓋の裏に光を感じた。

ああ、見えるんだ。

吐息が洩れた。


「もう一度言っとくね。あたしはジェニファー・アスコット。ジェニーって呼んでね。目だけの専門ってわけじゃないけど医療全般が専門で資格も持ってるから、安心して。こっちのもう一人はユリアスってゆーの。リコちゃんを助けた人ね」

私は慌てて気持ちだけ居住まいを正し、お礼を言った。

「もう何度も聞いたから、いい」

少し拗ねたような声。そういえばこの人、ユリアスさんさっきからずっと放置だった、申し訳ない。

次の瞬間、どすっと重い音と呻き声が聞こえた。

何?怖いんだけど。


「う……わ、鉄拳、制裁……久し、ぶりにくらった」

「黙れ!ふて腐れてんな、リコちゃんが怯えるでしょうが」

「……いや、むしろ今ので、絶対、師匠に怯えた、と思う」


……そっか、ふて腐れてたのか。

そして、鉄拳制裁とか二人とも怖いよ。暴力反対。




目は瞑ったままでいいよ、といいながら私の目蓋を指先で少し開け、何か液体を流し込む。

「次はちょっとヒヤッとするからね──」

いいながらジェニーさんは、何か冷たいものを塗りつけたガーゼを目に当て、くるくると包帯を巻き付けていった。

「ほら、ユーリちゃん。ちゃんと見とくんだよ。次からあんたがするんだからね」

「え!?」という声は、私ともう一人から同時に出た。



「ごめんね、もうこれ以上仕事ほっとけなくて」

と、優しい声は私に。

「今までずっと横で見てたんだから、できるよね!」

と、これはユリアスさんに。

なんかえらく扱いが違うのは気のせいか?

そういえばさっき師匠っていってたな。師匠と弟子の関係?

「あ、ずっと見てたっていっても着替えとかはあたしがしたから、見せてないから安心してね」

はいっ!って慌てて頷き、今頃やっと頭の違和感に気がついた。

なんか頭重い?

背中に何か当たる?

手を首の後ろに回してみたら、頭から尻尾がはえていた???


「あ、みつあみにしといたんだけど、そういうの苦手で、雑くてごめんね」

てへへ、と笑うジェニーさん。

それはいいけどそういう問題では……。


「わ…私いったいいつから寝てたんですか──っ!?」

私の髪の毛が背中の真ん中まで伸びている。

いつも肩につく前に切り揃えてたから、こんなに伸ばすには何年もかかるはずだ。

わたわたしている私に、ジェニーさんは、えっと多分1週間くらいじゃない?、と返した。

そこでユリアスさんに、5日だよ師匠相変わらず大雑把過ぎ、と突っ込まれ、そういうユーリちゃんは可愛くなくなったよ師匠いうな!とまた返す。


うーん、こういうのもいいコンビって言うのだろーか?



「ジェニーさん!」

「ん?」

「ユリアスさん!!」

「な、何?」

「しょぉぉじきに答えて下さい!」

私はものすっごく真面目に尋ねた。ここが何処か、って話以外で一番気になってる事だ。

「私って何歳に見えますか?」


「んん?十代の後半くらいかな?なんで?」

不審げに答えてくれたのはジェニーさん。

「……18歳くらい」

具体的な数字で答えてくれたのはユリアスさん。


さあ考えろ梨子。私の中では成人式を迎えた記憶がある。見た目は20歳を超えていない。てことは、少なくともいつの間にか何年も過ぎてたって事はないはず。

あ──、自分で顔確認できないってまだるっこしい。


私はみつあみを前へ持ってきてブンブン振ってみた。

引っ張られて痛い。

ウィッグって事もなさそうだし、そんなもの被らされる意味も解らん。


どうやらここは日本じゃなくて。それどころか地球ですらないっぽい。ラナリス王国って何それ?

しかも私はここ最近の記憶がなくて、更に目が見えず身動きがとれない。


ほら、人間困ったときはお互い様っていうでしょ?

私は今、人生最大のピンチを迎えている。

ホントに厚かましいとは思うんだけど、もう何もかもが私の許容範囲を超えてる、っていうか。


私は静かにパニクっていた。

そして、自分で判断することを放棄した。


私は決めたのだ。この、見ず知らずの私を助けて、治療して、保護してくれている優しい人たちに、全てを丸投げしてしまおうと。

ほんと、申し訳ないです。









「異世界……。そんな話聞いたこともないわー」

と、ジェニーさん。


そうか、ないのか。小説のように、何十年に一度異世界人が落ちてくるとか、まぁ、あるわけないか──。

「ユーリちゃん、あんた知ってる?」

「僕もそんなの聞いた事ないよ」


困ったな、信用してもらえないとなると、ますますただの胡散臭いやつだよ。

ショボンとした私を見て、ジェニーさんが慌てて言った。

「信用してない訳じゃないよ?話を聞く限りでは、こことは全然違うシステムの世界みたいだよね?」


そう、話を聞いて驚いたのはこっちも同じ。


まさか普通に魔法が存在する世界だなんて……。

私の目の治療も半分以上魔法のお世話になってたなんて──。


言葉もない私に、ジェニーさんは言った。

「あたし、帰るのは明日にするわ。このままじゃ気になるし。そんでユーリちゃん、あんたには話があります!」


リコちゃんはこっちの習慣とか訊きたい事があるなら考えといて──、と言い残しユリアスさんを引きずって出ていった。

なんで引きずってるとわかったかと言えば、ユリアスさんの、何すんのさししょぉぉ!って叫びがズルズルという音とともに遠ざかっていったからだ。



ありがとう、ジェニーさん!ここが異世界とわかった以上、同じ女性に聞いておきたいことは山ほどあります。

ええ、ほんとに山ほど。

取りあえずはトイレの使い方などから。


だから早く帰ってきてくださーい。







その夜、私はジェニーさんと一緒に寝た。

ベッドは広かったので、二人でも余裕だった。

寝ころんでずっと話をした。

私の目のこと。熱がずっと下がらなくて、ユリアスさんと交代で看病してくれたこと。


ユリアスさんは、元弟子なんだって。

最初の頃、師匠って呼ばれるのが嫌で、でも何度言ってもやめないから嫌がらせに“ユーリちゃん„って呼び始めたら定着してしまった事。


仲良さそうなエピソードに何でか胸がツキンと痛んだ。

ホントに何でだ?


私の話もした。

一日中、夜中でも開いてる何でも売ってるコンビニの話をしたらビックリされた。ふふふ、それは私の職場です。

本業は大学生だけど。

幼稚園の先生目指して勉強中だった。

移動は自動車、電車、遠くなら飛行機。近所なら自転車が便利。

こっちなら馬車が一般的。貴族が乗る馬車から、庶民用の乗り合い馬車。この辺りは田舎だから荷馬車が多い。

遠くへの移動は魔法陣を使う。但し結構お高いので、庶民向けではないんだって。

でもここへはユリアスさんの魔法陣を使ったから、楽チン楽チンだったそうだ。

喋りながら二回欠伸して、気がついたら朝だった。

一体いつ寝てしまったのやら。



昨晩と同じパン粥っぽいものに、今朝はカットしたフルーツも付いてきた。



パン粥はほんのり甘くミルクを混ぜたっぽい味で、卵がはいっていてとても美味しかった。


これをユリアスさんが作ったとか、ジェニーさんきっと私をからかってるんですよね。

ジェニーさん?返事してくださーい。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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