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NOA   作者: 深海 律
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episode1 第2章第2部 離別

連続します。

よろしくお願いいたします。

 地下26階を表すプレートが反射しているのを確認して額を拭う。

 外の極寒とも言える空気とは対照的な地下の空調管理に先ほどからネクタイも緩めてハンカチ代わりになっている現状。

 はっきり言っておかしい。

 この研究棟へ訪れた時、空調はいつも適温であったはずだ。

 しかし今は、正確には地下に降りてからと言うものかなり暑い。

 しかもこれは蒸し暑いと言う言葉そのままだ。

 何故だ?

 非常階段だからか?

 だが非常階段は基本的に暖房も冷房も効いていないはずだ。

 では、ただ単なる配線異常のせいか?

 1番有力な理由だがこれも微妙だと言う事は先ほどから何となく感じていた。

 理由は壁にはめ殺しになったあの窓だ。中で蒸気でも炊いたかのように曇っている事。

 途中のスプリンクラーが所々開いている事。

 そして、それがあのカメラが起動した地点くらいからなのだ。

 それまでは基礎電源でまかなえる程度の機能でしか動いていなかったと言うのに。

 やはりあのカメラの向こうには誰かいて・・・。

 いや、ならどうしてこんな事に?

 何の意味があって?

 意識だってこの気温と湿度の中では何時異常をきたすか分からない。

 手にした銃を握る手が汗で滑るのに眉を寄せながら1度立ち止まると振り返って後をついてくる2人に目をやる。

 この暑さと長時間の緊張のせいか、かなり足取りが危うい。

 しかし、こんな所で休憩してもさして体力の回復も見込めない。

 一体どうする?

 

 数歩先にカミシマが立ち止まって振り向いているのに気付いたヒカルが話し掛けてきた。

 「化け物、襲ってきませんね?アリスも暑くなってから音がしないって・・・」

 おかしいと感じた理由はこれだった。

 暑くなるまではあの音がたまにしては消えると言っていたアリスが静かになったのだ。

 ただ単に疲れたのかとも思っていたのだがどうやら違うらしいとヒカルが聞きどうなっているのかと言う事を話したのも覚えている。

 この空調異常が人為的に行われているのでは?

 と思った理由はあのカメラの向こうの誰かが、化け物が暑さに弱いうんぬんと言う事を知っており、救助は無理でも我々の安全の為にこのような処置を行ったと言う事だ。

 しかしそれはある意味危険な事も表す。

 ここからはあくまで想像であり、同時にあってほしくも無い現実でもあるのだが・・・。

 と言うのも、あの化け物の正体を知っている者がこの都市におり、なおかつ、これが一番重要なのだが突如現れた化け物はこの施設の何者かの仕業であるのではないかと言う事だ。

 今までの病室から飛び出してきたと思われる化け物。

 それが閉じ込められた状態であった事。

 それらが施設全体で起こっているのなら、間違いなくその誰かの手によるものであり、そうでなければ事がうまく行き過ぎていると言う事だ。

 ただこの場合、今は何故か安全を確保してくれているが、状況によっては化け物を仕向けてくるような事もあるのではないか?

 そうなった場合とてもじゃないが防衛は無理である。

 何せこの空調による処置もだが相手は(ここでは相手がいるものとして話をしているが)この施設機能その他においてを全管理下に置いている様だと言える。

 何時何が飛び出してくるんだ?

 そんな事も常に考えてしまう。

 ありがたいのは考えているうちにかなり下のフロアまで到達していたと言う事だけだろう。

 

 そんな彼らの前の階段はそこで途切れていた。

 実際、階段が終っていたわけでは無い。

 壁には大きな亀裂。

 そして崩れて埋まった階段と無数の化け物の爪あと。

 要するに暴れた化け物によって通路が破壊され通行不能に陥っているのだ。

 後ろでかすかな「先生」という声がしてヒカルの方を向く。

 アリスが亀裂の方に視線を注いでいる事を伝えて銃を構える。

 理由は分かった。

 妙な匂いがする。

 化け物がいるのでは無いかとアリスを見る。

 しかしその反応は曖昧でよく分からず、結局塞がれた階段は諦め亀裂の隙間から隣接するフロアに降りて別の階段を探す事となった。

 勿論、ヒカルとアリスはこのジメジメと暑い階段フロアにでも待機していてもらって。

 だがこの暑さだ。

 亀裂から流れてくるヒンヤリと涼やかな空気に気付くとそちらに行きたいとアリスが視線を送ってきた。

 仕方が無い。

 確かに、こんな暑苦しい場所に長時間待機はかなりきついはずだ。

 亀裂の近くで涼みつつ、危険が迫ったら亀裂に避難すれば良さそうだ。

 3人は1度亀裂から涼やかな空気の中へと歩み出た。

 勿論十分な注意をして。

 薄暗いホールとさまざまな場所に繋がった廊下の様だ。

 入ってすぐは蛍光灯が照らす明るい階段室からいきなり暗い場所へ出たのでよく見えず立ち止まって目を凝らしていたがその内一番先頭に立っていたカミシマが後ずさった。

 続いてヒカルが口を押さえてカクンッと動きを止め最後にヒカルの後ろから顔を出したアリスのかん高い声が響き渡った。

 あたり一面、赤、赤、赤・・・。

 床を見ても天井を見ても壁を見てもあたり一面赤い絵の具を塗りたくったような赤で・・・。

 あの病室も酷かったがそんなものでは無い。

 なぜなら赤に交じって転がっているものの状態とその数も半端ではなかった。

 あの病室の遺体は殆ど食い散らかされており残った四肢がいくつか転がっていたと言う感じだったのだがこれは・・・。

 「一体・・・?」

 やっと出た言葉はこの低いカミシマのセリフだった。

 千切れて飛び散った人間だったもの。

 四肢だけては無い。

 飛び散った赤の合間に内臓。

 これは頭部だろうか?

 脳みそも目玉もグチャグチャになってつぶれている。

 これではまだ食べている途中?といった感じである。

 あまりの事に嘔吐も出来ずに固まってると傍らで震える腕が呼吸を荒くしている事に気付く。

 悲鳴はもう聞こえない。

 何時途切れたのかも分からなかった。

 振り向くと目を大きく、それこそ今度は目玉が落ちてしまうんじゃないかと言うくらい見開いて惨劇を見つめる彼女がいた。

 気付いて咄嗟に見ちゃダメ、と顔を覆おうとするがもはや意味は無く彼女の手がヒカルの腕からスルリと離れるのを見た。

 同時に再びかん高い悲鳴がしてカミシマが頭を抱えるアリスに近付く。

 刹那、腕を振って何かを叫んで近くの薄暗い廊下の方に走り出してしまったのだ!

 「いけない!」

 彼女の手を握ろうとするがカミシマの手をスルリと抜けて暗闇に消えると同時追う間もなく天井が崩れて来て凄まじい砂煙が舞い上がりあの咆哮が空気を振動させる。

 「先生!」

 ヒカルの声が土煙の向こうからする。

 「何処だ!」

 声には応じるが姿が見えない。

 一体何処に行ったんだ!?

 辺りを見回す。

 化け物の声がした。

 アイツがいる。

 ヒカルは?

 空を切る音は!?

 思考が途切れ途切れにしか回らない。

 涼やかな乾いた空気の中を大量に舞う砂煙に視界を遮られて何も見えない上に瓦礫の崩れる音が邪魔して声もまばらで・・・。

 その時!

 背後で何かを踏み潰す音がするや否や銃口を向けるカミシマ。

 同時に太い丸太の様な物が腕だと分かる前に火花が上がり野太いうめき声が耳をかすめ後ずさりもう一発!と引金にかかる指に力を込めようとしたその時、頭上の天井とその上に乗っていたと思われる機材ごと瓦礫が降り化け物を押しつぶしさらに大量の煙が視界を覆う。

 それを最後に辺りがシンッと静まり返った。

 瓦礫の下から太い腕が出ているのを確認出来るくらいになると視界はかなりよくなり辺りの様子もわかる様になった。

 念の為化け物の埋まった辺りに2、3発打ち込み辺りを眺める。

 ヒカルは何処に?

 「先生」

 かすかな声に辺りを見回しなおすと先ほどまで通路が繋がっていたはずの位置が瓦礫で塞がり、天井が崩れ落ちた際に上の階に置いてあったはずの物があちこちに転がっていた。

 その隙間から声は聞こえてくる。

 「そこにいるのか?怪我はないか!?」

 コンクリートの分厚い板を拳で打つと、大丈夫だと言う返答がすぐさま返ってきた。

 それでも辺りを確認して状況の悪さに思わず黙った。

 こんな巨大な瓦礫を動かす事は無理であると言うあたりまえの結論にぶつかったのだ。

 ではどうする?

 何か無いかと辺りを見回す。

 すると、非常灯の灯りを鈍く反射する壁を見つけた。

 勿論それは壁に設置された見取り図だ。

 不意に手元の地図を広げながらヒカルに話し掛ける。

 自分1人ではどうにもならないと言う事を告げてこのフロアの中央で落ち合うと言う事と指示と道筋をメモする様に、手順等を伝えていく。

 ここで何か言うとさらにヒカルの不安を招く怖れがあるので出来るだけ余計な事は言わず事務的に。

 そこまで言うと彼女も指示の確認や質問に徹した返答のみを返し最終的に中央で落ち合う事で話はまとまった。

 「アリスは・・・」

 別れ際に呟くとそれをさえぎる様にカミシマの声がする。

 「賢い子だ。きっと大丈夫だ」

 今はヒカルの方を優先して対処しなければ・・・。

 そう思ったのは「きっと、アリスはここにも何度か来た事がある。おそらく患者の中でアリスが1番この施設に馴染みがある。道も下手をするとカミシマより知っているかもしれない・・・」という、限りなく希望的観測以外の何者でもないが今はこれにかけるしかない。

 ヒカルに一時別れを告げ歩き始めた。


 薄明かりの中、小さな影がチョコチョコと動いては止まるを繰り返している。

 ここは何処だろう?

 あの後メチャクチャに走り回ったせいで現在位置が全く分からなくなってしまったのだ。

 戻るに戻れなくなってしまったと途方に暮れて立ち止まり、結局少し歩いて座りこんでしまった。

 先生とあの女の人はどうなったんだろう?

 あの時後ろで大きな音がした気がする。

 もしかしたらまた化け物が・・・?

 そしてまたアイツが追いかけてきたら・・・?

 ソロリと辺りを首だけ動かして窺う。

 多分何もいない・・・。

 大丈夫、うまくいく。

 ここはあの研究所だから、どこか知っている所に出られれば何とかなる。

 ここに来て2年。

 3日に1度はこの研究所へ来ているのだから。

 今は何時もと違って電気が付いていないから雰囲気も少し違うけど何とかなる気がする。

 1度頷き立ち上がる。

 とにかく動かなくては何も始まらない。

 思い立ち立ち上がるとすぐさま手前の角を曲がる。

 相変わらず薄暗くて不気味な廊下がただ続いていると言った感じだが何時もの研究所だと思えばそう怖くは無い。

 何時の間にか白くなるほど握り締めていた手をほどき歩き出す。

 たまに足に当たる瓦礫を蹴飛ばしながら。

 それから当分進んで、何個目だろうか?

 やはり瓦礫を蹴飛ばしてしまった時だ。

 休憩用の長椅子の脇に置いてあったスチール製の灰皿に瓦礫の欠片が当たり、普段なら小気味のよいはずの音が短く響いたのだ。

 瞬時に身を硬くして辺りを窺う。

 大丈夫・・・。

 静に頷き歩き出そうとする。

 だがその思いとは逆に、あの嫌な音が頭の中を引っ掻き回した!

 あいつが来る!

 何でこんなに歩けば必ず蹴飛ばしてしまうほどあちこちに瓦礫のカケラが落ちてるの!?

 ヒステリックな調子で黙ったまま叫ぶ内なる声にもパニック状態の彼女には全く意味が無くその場を走り出す。

 とにかく音がしなくなる方向へ。

 しかし、次の角を曲がった途端カクンッと動きを止めた。

 目の前には壁がそびえ立ち、段ポールなどの荷物が置かれているだけの何処にも続いてはいない空間が目の前に現れる。

 袋小路に入ってしまったのだ。

 どうしよう!?

 内なる声がさらに彼女をパニックの真っ只中へ引きずり込んでいく。

 誰か何とかして!

 そう叫んだ悲鳴のような声も恐怖で胸中に留めてしまうほどに声も出ない。

 背後からあの音がジリジリと近付いて来る。

 行き止まりになった壁のすぐ側まで走りよって背を当てる。

 どうしよう・・・。

 今、誰も助けてくれる人はいない。

 先生もあの女の人も・・・。

 もう癇癪を起こしてしまいたい!

 そうかかとを壁に打ち付ける。

 カシャンッ

 耳に届いたのは乾いた、軽い金属音で何事かとそちらを見るとそこには・・・。

 高さは大体50cm位だろうか?

 幅は1mあるかないか位の通気口があり今蹴ったのはその蓋の金網のようだ。

 しかも蓋は既にへこんでおり引っ張れば取れそうだ。

 考える前に手が動き耳障りな音と供に蓋が床に転がる。

 よつんばで頭を突っ込み進み始める。

 数m進むのにそう時間もかからない。

 これなら逃げ切れるかもしれない。

 チラリと振り返ると、入り口付近で化け物が咆え、腕をねじ込んでいるが届かず、勿論入ってくる事も出来ない。

 その様子を確認するとさらに速度をあげて進み化け物の姿が見えなくなった辺りで1度止まった。

 この中でジッとしている事は出来ない。

 どうも数m先から下に続いているらしい梯子らしき物が見える。

 ここを通って行けば・・・?

 先に下の階で2人が来るのを待っていよう。

 1度頷き進み始める。


 これは、一体何だ?

 中央で合流しようとヒカルに告げて歩き出して数分。

 1分としないうちにあの化け物と遭遇しそれからまだそう立たぬうちにまた今度は廊下ごとに3体と遭遇。

 本当にあの蒸し暑い階段室の対応は適切だったのだと言う事を実感しつつ、やはりこの施設の者が黒幕であると言う事も実感してしまったのだった。


 今は崩れた廊下を迂回する為に入った1室。

 おそらく資料室兼オフィスだったのだろうか?

 とにかく様々な資料が並ぶ部屋へ入り込んでしまったようだ。

 室内を見て回っているうちにデスクの上下まで見て見たのだが特に何も無い。

 本当は弾薬か武器を調達したいのだが・・・。

 このままではこの先どれだけあの化け物の相手をしなければならないのか分からない状況であまりにも心許無いと思ったからだ。

 だが残念ながら、ここにはそう言った銃火器類といったものは一切置いておらず、代わりに大量の書類の山があるだけだ。

 ドカッとデスクの椅子に腰掛けてみる。

 かなり上等な革椅子である。

 重要ポストの個人オフィスだったのかもしれない。

 正直ここの人員の個人情報など触れさせてももらえないのでよく知らないが。

 この椅子も当たり前の事ながらただの椅子だな?と手で叩いてみる。

 なんとも虚しい。

 頭を振って辺りを見回すがやはり何も無いなと正面を向くとノートパソコンが置いてある事に気付く。

 机の黒と照明のついていない室内の闇に紛れて気づかなかったがそこにはたたまれたノートパソコンがそこにはあった。

 非常灯の緑と黒が混じって光を反射する様を見つつ開く。

 電源状況から見てどうせ付かないだろうと思いつつスイッチをオンにしてみる。

 すると・・・点いた!

 点いたではないか!

 これは何か出来ないのか?

 とカーソルを動かし始める。

 それから2、3分くらいした頃、パソコンの画面に妙な表示が現れたのだ。

 『PROJECT NOA』再生?

 何の事だろうか?

 起動開始の部分にクリックする。

 同時にディスクの起動する音がして画面が動き出した。

 そして、現れたファイルを目にすると動けなくなってしまった。

―――何だ?これは?

 意味のわからない単語や映像が連続して現れる。

 そこに添付されていた映像。

 『マザー』をもとに奇病特効薬の製造。

 製造計画?と言う短い計画文書。

 そしてここに来て目の前に現れた今資料たちから彼の脳裏には、さまざま場考えが形をなし始める。

 そう、『マザー』と言うのは彼女で、それではこの異常事態の原因はやはり・・・。

 あの化け物の死体が消えたのは?

 全部仕組まれていたと言うのか?

 では誰に?

 いや、この規模でこんな計画を実行できる人物は本来1人しか存在しはしない。

 何故こんな事に?


 「止めなくては」

こんな事は止めさせなければ。

 そして彼女と早く合流しなくては。

 何よりあの少女達を一刻も早く無事この街から出さなければ!

 内の声が騒ぐ。

 同時にもう1つの声が弱々しく言う。

 だが本当にあの人が黒幕だと言うのか?

 違うかもしれない。

 いやしかし・・・。

 そこでパソコンを閉じて椅子からずり落ちる様に床に座り込みデスクを背に頭を振る。

 他にいない。

 いや、まだ今は分からない。

 そう思っていたい。

 しかし、実際に今起きているこの事態は・・・。

 「・・・聞けばいい」

 消え入りそうな声でそう無理矢理呟いた。

 そうだ真実を聞きに行けばいい。

 とにかく今は中央フロアでヒカルと合流してアリスを見つけて・・・。

 それからだ。のろりと立ち上がるとそのまま部屋を出た。

長々と、ありがとうございます。

まだ、続きますのでよろしくお願いいたします。

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