episode1 第1章 第3部 邂逅
読んでくださった方々、誠にありがとうございます。
3話目です。
筆が遅く、このペースですが、どうかお付き合い下さい。
ようやく、会話が出てきます。
「・・・来ないで!!!」
甲高い悲鳴!その声を掻き消すようにもう1度そいつは吼え、床にヒタリと降り立った。
全く気付かなかった。
こんな異常な状況なのに、何故と胸中で悔いたがもう遅い。
ここまでかと考えうつむき、それでも後ずさる足はまだ動きを止めていないのを絶望と希望の様な諦めきれない思いを抱えたまま、もう1度顔をあげる。
アイツは腕をゆらゆらさせて、まるで品定めでもするかの様に肩を揺らしている。
呑気な・・・!
見ているうちに段々腹が立ってきた。
まるでバカにされている気がしたのだ、こんな時に。
呑気なのは自分もかと、考えた。
咆哮が不意に炸裂した。
バカな事を考えていた最中であった。
しかし、それもここまでか、とアイツを上から下見る。
次の瞬間、アイツは構え踏み出していた。
少女と化け物の間にあった防火扉が開け放たれた。
目の前で巨大な鉄扉が開き、勢いのついたそれにアイツは打ち飛ばされた。
だが、その様を確認する間もなく開いた扉から男が飛び出してきた。
長身の白衣の男。
それはこの施設を常に歩き回り患者を見て回るーーー医師のそれである。
但し、今彼が手にしているのは医療器具などではなく、大型の銃であった。
手にした大型の銃を化け物に向け、何度も引き金を引く。
本当に、何度も何度も、だ。
そうしなければアイツには通用しない気がしたからだ。
但し、残弾数から、思った程は発砲していなかったらしいが。
アイツは最初の3発くらいで倒れ込み、4発目でほとんど動かなくなり、最後に何発か打ち込んだところでアイツは1度大きく痙攣して動かなくなった。
その様子を呆けた様な目で見つめていたら、息を切らした医師がこちらを向いた。
途端、体の力が一気に抜け、ヘナヘナと倒れそうになったが、若い医師が片手で受け止めた。
「大丈夫か?・・・君は「ヒカル・カヤマ」?無事だったか。」
少女―――ヒカルは改めて医師の顔を見た。
「あ、あの時の先生。」
「・・・カミシマだ。大丈夫か?」
「はい・・・。じゃなくて、アイツは何ですか!?人間を食べたり、襲ってきたり!」
一瞬耳を疑い胸中で反芻してみる。
人間を・・・捕食した?
「・・・人間を、食べた?あいつが?」
それは知らない。襲っている映像は見たが、人間を口にしている姿はモニターには映っていなかったのだ。
少なくとも自分は見ていない。しかし、パニックに陥っていたとしても彼女の話の内容からは、襲っているのと喰っているのを見間違えているわけではないと思われる。
それに考えてみれば・・・と、目の前の大きな血溜まりに横たわる巨体を見つめる。
これだけの巨体なのだ。
確かに栄養補給もせずに動くとは考えにくい。
この化け物がどういった生物なのか分からない現状では確かなことなど無いのだが・・・。
そこまで考えてたが一度思考の海に沈み込みそうになっている意識を浮上させ、未だ床に座り込んだままのヒカルを立たせて近くの長椅子に座らせて自分も座った。
同時に彼女の持つ拳銃に自分の銃に弾をこめつつちらりと視線を流しつつ口を開く。
「その銃は何処で?」
それまでうつろだった瞳がカミシマの問いかけにやっとしっかりし始め、視線を手元の拳銃にやると思い出した様に目の前に持っていき、ややあって銃を下ろしまだ少し弱々しい、だが聞き取れる声が慌しく響き始める。
「病室の壁に金庫みたいなのがあって、開いてたから中を見たら2つあって・・・あと弾も。私、これ見つける前にナースステーションに行ってて、途中の病室で・・・!」
まだ落ち着かない興奮を含んだ声が脈絡無く話し続ける。
しかし、目の前の医師が口を開いたので思わず押し黙った。
「落ち着くんだ。話は・・・少し落ち着いてから聞こう。そのほうが君にもいい。それに・・・。」
目の前で倒れている化け物に目をやる。
血溜まりが大きくなっている。
「こんなのを前にしたままでは、長々話をする気にもならない・・・」
そう言って若い医師は立ち上がった。
「落ち着ける場所を探そう。あと・・・それでは銃は撃てない」
言いつつヒカルの銃の一箇所をいじった。
「セーフティをかけたままでは弾は出ない」
言われて先ほど弾が出なかった事を思い出した。
同時にもう1つ思い出した。
「あ、あの・・・」
既に先に歩き出したカミシマは内心焦りはあるもののゆっくりと振り返る。
視線の先には、ウエストポーチからもう1丁の拳銃とマガジンを取り出しながら駆け寄って来るヒカルが映る。
「これ、2つもいらないから、先生持ってて下さい」
そのまま一丁の拳銃を押し付ける様に渡され、受け取り空のホルターに目をやる。
「そうだな、受け取っておこう。グリップを2つくれ」
ホルターに拳銃を納めつつ声をかけ、手を出すがヒカルは首をかしげている。
「・・・グリップ、って?」
その発言に「ああ、この患者は日本人だったな」と、思い「弾をくれ」短く言われてやっと分かったのか持っていたマガジンを2つ渡すと、カミシマも頷いて受け取りパックに収めて歩き出す。その後にヒカルもついて行った。
廊下を歩く患者がいる。
あの薄暗い廊下を思い浮かべつつ。
それは少女の様だった。
まだ10代前半の少女で肩まである金の髪を乱し青い瞳は疲れて濁っていた。
「ママ・・・」
消え入りそうな声が廊下に弱々しくこだましてきえた。
壁に手を押し当て体勢を立て直しつつ再び歩き出す。
鍵をかけるよう言われて急いで施錠して室内を見回す。
大き目の古めかしい革のソファが木製のテーブルを挟んで置かれ、奥に窓があり、ガスコンロや流し台がある台所スペースがあった。
ソファにカミシマが座る様示したので従って座る。
今まであった事は落ち着いて、と言われたが不安を紛らわすようにここに来るまでに話してしまったので何もはなすことが無い。
その事を考えてか、ヤカンに水を汲んでコンロに乗せるといった一連の動作の最中にもカミシマの表情は動かなかった。
ただ時おり唸ったり、眉間にしわを寄せたりしている。
とは言え、しばらくしてコーヒーカップを手にテーブルに座る際は思案している様子は無かった。
「君の言った事が本当なら、『何かが化け物になって、その際必要な栄養を人間を食べるという事で補っていた』ということになるな」
座ると同時に、独り言ともつかない口調で話し掛けられて驚いたヒカルが思わず尋ね返すと、まだ思案中だったのか、カミシマも頭を1度振って向き直った。
「すまないな、いきなり。しかし、君はその際、つまり異変が起きていたと思われる時間帯は眠っていた?」
頷いてコーヒーカップを手に取る。
「目が覚めたら何時もと違って静かで・・・。雨漏りがしてたから、看護士さんに伝えようとして廊下に出たら人がいなくて」
コーヒーを一口飲む。
途端口の中にありえないくらいの苦味が広がったが、とりあえず黙ってカミシマに視線を移した。
「異変が起きたのは今から1時間くらい前だ。建物の電気系統に異常が起きたのか、あちこちで使えない回線が出た。全部ではないようだがね」
その異常のせいで、製作中のレポートデータがおじゃんになったとは言わなかったが、少し眉間にしわが寄る。
「一部、ですか?」
「ああ、そうだ。大型の機械、エレベーターや電気を食うメカが主に異常の影響を受けているようだな。」
言葉を切るとそのままコーヒーをすする。
内心この医師はこのコーヒーを飲んでも平気なのか?などと考え視線を向けたままにしていると、再びカミシマが喋り出した。
「あまりにもおかしいので、屋上の監視棟に行って来たのだが・・・院内にあの化け物が、数は分からないが何匹も徘徊しているらしい。モニターで何人もの患者や看護士がやられていたよ。ただ、看護士が病室に鍵をかけて回っていたから、患者の多くは無事かもしれないな。静かにしているよう指示してあるかもしれない。」
ここでようやく何か分かったような気がして方の力が抜けるのを感じるヒカル
だから病室に鍵がかかっていたんだ・・・。
まだ人がいると思うと少しホッとしてしまい、だからうっかり苦いコーヒーを口にして眉をひそめた。
カミシマも気付き自分のコーヒーを見つめている。
「やはり・・・マズイか・・・。」
相変わらず表情の無かった顔に少し申し訳無さそうな表情が浮かんだ。
「え?あ、いや、熱かったなーっと思って・・・。」
「いや、気を使うことは無い。私はこれには慣れているからまあいいんだが・・・。どうも料理は苦手でな。人と同じ事をしてもとんでもない味になってしまうんだよ・・・。しかし、まさかインスタントコーヒーまでも・・・。」
インスタントコーヒーは料理が苦手とかいう問題では無いのでは、という突っ込みはともかく、この人にいたっての感想はとにかく完璧そうな人だったのだが、意外な弱点もあるものだと思いつつ、話を戻した。
「どの病室も鍵がかかっていました。でも、ナースステーションの近くの病室はドアが開いてたんです。」
「閉める前に襲われたのか・・・?」
言葉を口にしてフッと別の考えが浮かぶ。
鍵をかけたのはいいがその後はどうするんだ?
「患者を守るのが目的で鍵をかけたのならどうして看護士がいないんだ?」
人がいないのはおかしいと常に思っていたヒカルもここで職員の存在が消えている事に、アッと小さくつぶやき思い出すように下を向く。
「そう言えば、誰もいませんでした。先生は知らないんですか?」
「見ていない。というか、何が起こったかはモニターを通して見てはいるが音声は無いし、実際病棟に降りて会ったのは君だけた。それに・・・。」
ガシャンッと言う音が突然廊下の方からしたので2人とも顔を見合わせた。
あの咆える声はしなかったが・・・。
2人とも銃に手を伸ばし、カミシマがドアに張り付く。
その後からきたヒカルを後ろに控えさせた。
「音が、何も聞こえてこないな・・・。」
あの巨体だ。
足音もでかいはずだが・・・。
その考えを次に耳に入ってきたヒカルの声が否定した。
「私を襲ったヤツは天井に張り付いていたけど音もしなかったし、襲う前に鳴いた以外は息する音もしなかったですよ・・・?」
「何だって?」
それでは、今この瞬間も・・・?
考えている側からドアのガラスに大きな影が映りこんだ。
ああ、これはいけない・・・。
内心一番あってはいけない事が目の前で起こりつつあるのを実感する。
それでもまだ何も起こっていない以上、息を殺し、じっとしている2人。
さあ、いつくるんだ・・・?
のどが鳴る。
考えて、次の瞬間!
影が消え、空気を掻く音がした瞬間、ヒカルごと後ろに下がり伏せたのだ。
刹那・・・!
ガッシャンッ・・・ガラスの破片が室内に飛び散り、アイツがドアのあった壁をドアごとぶち抜いて入って来たのだ。
破片の雨が止まぬ内にショットガンを構え引き金を引く。
背中に受けた衝撃によろけつつ振り向く化け物に再び散弾を浴びせる。
やがて耳を押さえていたヒカルが硬く閉じていた瞳を開くと、アイツが砕けたテーブルの上に仰向けに倒れていた。
目の前には背を向けて息を整えているカミシマがいた。
ゆっくり手を耳から放して立ち上がる。
「死んだんですかね・・・?」
「おそらく・・・な。とにかく、何処にこれがいたのか、何処から来たか見ておこう。」
まだ荒い息を整えながら、手は弾の装填を始めていた。
その短い間に外を見ると何もいないようだった。
特に変わった感じもしない。
ただ、あるひとつを覗いては。
「先生・・・」
押し殺したような声に驚いて装填したばかりのショットガンを構えつつヒカルの見ている方向を覗いて見る。
その先に見えるのは病室の並ぶ廊下だ
。少し前まで患者や医師や看護士が行き交っていた廊下だ。
その途中に、先ほどまでは閉まっていた病室のドアが開いているのが見える。
これは果たして、開いていると言えるのかどうか、疑問だが・・・。
近くまで行ってみると、そのドアはやはり施錠されいたはずのドアだった。
しかし、今は開いている。
内側からこじ開けられた様に・・・。
しばらくの間2人とも何が起こったか分からずその場から動けずにいた。
だが、何時までもそのままでいる訳にもいかないとばかりにヒカルが、意を決したように1歩踏み出す。
それに気付いてカミシマが腕をつかみ先行し始める。
徐々に大破したドアが事細かに見えてくる。
中からこじ開けられたと言うか・・・。
とにかく、中から鉄製の扉がねじ切られていた。
そして漂う、血の臭い。
室内を覗くとヒカルが口を押さえ座り込んでしまう。
「・・・今のヤツはここから出てきたのか・・・?」
真っ赤に染まった床、壁、ベッドからずり落ちたシーツ、カーテン・・・。
全てがどす黒い赤に支配されていた。
そして転がるは、少し前まではナースコールを押して看護士を呼んだり、隣のベッドの患者に話し掛けたりしていたであろう患者達の千切られた腕や体の一部。
濡れた傷口から滴る血はどれもまだ渇ききっていない。
なのにどうしてこんな臭いがするの?
室内をもう一度見ようとして息を吸い、再び廊下に這い出し嘔吐してしまった。
そんなヒカルの背をさすってやりながらカミシマもこの胸の悪くなるようなむせ返りそうな臭いに眩暈を覚えながら室内を観察した。
とは言え、とにかくヤツに喰われたバラバラ死体と血染めの寝具、そして酷い臭いがするくらいしか分からないが。
「この臭い・・・何なんですか?死体ってそんなに早く腐るんですか・・・?」
「・・・いや。」
勿論、やつらが現れてまだ1時間程度しか経過していないのだからこんなに早く腐ったりするはずはない。
何より今は冬だ。
暖房は効いているが、それでもこんな匂いがするほど早く腐るはずは無い。
では、この酷い匂いは一体?
戸口の辺りにヒカルを座らせ室内に足を踏み入れる。
この惨劇の他は何も無い、と思った。
部屋の中ほどに到着するまでは。
「・・・!」
「先生・・・?」
何を踏んだのか、足を滑らせてよろめくカミシマにヒカルが細い悲鳴のような声で呼びかける。
突然の事でさすがに脈は高まっているがその場で踏みとどまり転倒を免れたカミシマは振り返って大丈夫だと手を振る。
直後、よろつかせた物を改めて見つめた。
「・・・君は化け物がいた病室で臭いは気にならなかったのか?」
「・・・え?いえ、何も。」
とっさだったが質問に答えると、少し落ち着いて来たのか、足取りは重いがカミシマの元へ歩いていく。
すると、彼の足元に何かがわずかな光に反射していた。
「何ですか?これ。」
「臭いの素だな。かなりぬめりがあるな・・・。あの化け物の体液か何かか?」
「でも、さっき先生が倒した時、こんな匂いはしなかったと思うんですが。」
確かに、と頷いてもう一度部屋を眺めた。
何も無い部屋。
メチャクチャだが病室用ベッド、カーテン、血が飛び散って外が見えない窓・・・。
何もかもが真っ赤だがそれ以外は通常の病室だ。
窓辺まで歩いていってカーテンを全て開けてみる。
どれだけの血液が飛び散ったのか?
どの窓ガラスも血がベットリ付いている。
傍らにヒカルが歩み寄ってきて窓辺を見て回り始めた。
どうしたのだ?この娘は?
「何かあったのか?」
「今の時期って・・・窓は何処も開けたりしませんよね?」
ポソリッと呟いて振り返った。
「冬だからな。」
「鍵、かかって・・・ましたよね?どの部屋も、普通。」
当たり前だ。
この土地は夏はいいが、冬は恐ろしく寒い。
それに野鳥がいつ飛び込んでくるかも分からないのだ。
冷暖房が効いているのだから、開ける事も無く年中特別な事が無ければ施錠されたままの窓がほとんどだろう。
「そうだな、窓を開けでもしなければ今の時期、鍵は閉まりっぱなしだろうな。それが何か?」
「・・・どうして?どうしてこの部屋、窓閉まってるんですか?」
何を言っているのかと窓を見つつフッとヒカルに向き直る。
ああ、そうか。そうなのだ・・・!
「窓は割れてないのに・・・。鍵も開いてないし、なのに化け物は中からドアをこじ開けて出てくるなんて・・・。どうやって・・・その、この病室に入って来たんです?」
窓から視線をカミシマに向け、半ばパニックに陥っているのかヒステリックとも言える声を出す。
その声は次第に小さくなると、今度は何かを考え、つぶやく様に続けた。
「先生、さっき言ってましたよね?看護婦さん達が鍵をかけて回ってたって。」
「ああ、そうだが・・・。」
ヒカルが辺りを窺いながらカミシマを見上げた。
嫌な事が脳裏をかすめる。
化け物をここに閉じ込めるために患者ごと外から鍵をかけたんじゃないのか?
同時に否定する。
そんな事は有るはず無い。
第一、あれだけ暴れるのだから窓を破って外へ出ることも出来るし患者だって襲われたら悲鳴ぐらい出すだろうに・・・。
そうすればいくら眠っていたとはいえヒカルも気付くだろう。
「いや、だが・・・。」
監視棟のモニターに患者も化け物も映っていない。
そう言えば・・・監視棟へ向かう際、廊下で患者を見たか?
見ていない。
この時間ならまだベッドにいるだろうから。
なら何を見た?
そうだ。
隣の研究所のスタッフがやたらいた気がする。
どうしてだ?
いつもいるにしても多すぎる気がする。
走り回る看護士は室内に何かしゃべっていたか?
少なくとも、モニターではそんな様子は見受けられなかった気がする。
とにかく次々と、ただひたすら鍵をかけて回っていた気がする。
「患者は今もあの化け物と一緒に病室に?」
「今も、閉まってる部屋じゃ・・・。ううん、そんな。第一静か過ぎるでしょ・・・?先生?」
「いや、しかし・・・、音も無く動くなら同様に人間を食べる事も出来るかもしれない・・・。」
言葉にしたが、考えて気分が悪くなりかぶりを振るカミシマ。
「先生・・・?」
口元を押さえて黙り込んだカミシマの顔を覗き込むヒカルに気付き、激しく瞬きをして彼女の顔をとらえる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。」
「顔色、悪いですよ。」
「そうか、いや、この光景はさすがに何というかな。」
患者に心配された事に妙な感じもしたがこの際、患者も医者も無いと思い眉を寄せる。
「他に大丈夫な人、いないんですかね?」
「分からないな。先ほども言ったが、異変が起こってからは監視棟の・・・ヤツにやられてしまったが、管理社員と君以外には会っていない。」
その返事を聞くと「そうですか」と、沈んだ声で返事して戸口に向かって歩いていく。
カミシマも彼女の横につきつつ、戸口に辿り着くともう一度廊下を見回して出てくる。
「とりあえずここは危険らしい。5階の第2監視棟へ行こう。ここから出るにしてもあそこから出口のロックを外さなければならない。」
「・・・ママ・・・。」
乱れた金の髪が額にかかってきたので振り払い階段を登る少女。
病室に行けば看病の為この病院の患者家族寮に泊り込んでくれている母がいる。
6階の第三廊下の一番奥の部屋にいて、待っていてくれる。
「・・・!」
またあの化け物が下の階で咆える声がしたので、短い悲鳴を飲み込んで座り込む。
今日は悪い日だ。
そう思う。
朝、病室を訪れた母との会話の最中、何時もの「研究所」の人が来た。
いつも連れて行かれる地下にある気味の悪い部屋。
あの部屋の事は誰にも言わないように言われているから・・・勿論ママも知らない。
だから「検査だよ」って「研究所」の人も言って私を連れて行く。
ママは待ってる。
きっとあの化け物に見つからないように。
でも、どうして誰もいないんだろう?まさか・・・。
「皆・・・化け物に食べられちゃった・・・?」
嫌な事を口にしたと思い少女は口を手で押さえた。
瞳に涙が溜まり、溢れていく。
泣き喚きたいが化け物に見つかってしまうかもしれないと口を押さえて階段を上がる。
階段正面のペールグリーンの廊下に白い文字で大きく「6」と書かれているのが見えて少し早足になる。
廊下に出ると、恐る恐る病室の方へ進んで行く。
読んでくださった方々、ありがとうございます。
最後らへん、新しい子が動き始めました。
引き続き、次回もよろしくお願いいたします。