episode2「灯台もとくらし」
お久しぶりです。
話は少し進みます。
よろしくお願いいたします!
「・・・。」
最初″その惨状″を目にしたヒカルは何が起きているのか分からなかった。
それは今も同じだが。
ノアが地図に記した場所は廃工場か何かとされていたエリアでヒカルも知っていた。
五百年前に爆破騒ぎがあったのよね?
「だから施設が出来たのはその後、よね?」
よくもまあ、あのぶっ飛んだ工場跡地を整備出来たものだと思った。
まあ、物資は確かに豊富だったかもしれないが。
ただし、今その施設はあちこちが崩れ炎があがっている。
しかも化け物の大行進付きだ。
「何なの?」
思わず呟いた。
屋根の上、通路に煙突の上にまでありとあらゆる場所に群がっていた。
「緑が多いのはいい事かもしれないけど。」
この″ミドリ″はないわよね?
口にした言葉に自嘲の色を混じらせて担いだマシンガンを抱え直す。
「何がどうなってこうなったのかは分からないけど、またしょうもない事よね?」
本当にいい加減にしてほしいとその場を離れるのであった。
「どれだけ、いるの!」
正面、左右、上下とありとあらゆる方向から襲い来る化け物。
施設の敷地に一歩踏み込んだ途端、集り飛びかかって来たのだ。
最初、施設を目視して気配を探ると地下にノアと似たような気配が複数集まっているのを察知して眉を潜めた。
同時にそれがノアの言っていた″兄弟″だと思い施設への侵入を開始した。
した途端の大歓迎である。
正直、嬉しくて涙が出そうだ。
出ないけど、ね?
左右に構えたマシンガンに吹き飛ばされて行く化け物が後ろに連なる。
正面で砕けた化け物の顔の破片が顔に当たる。
今のはレプリカ。
今のはオリジナル。
あのぬめる体液の有無でどちらか分かると先生が言ってたかしら?
確か初めて会った頃化け物が飛び出してきた病室でふんずけ、転倒しかけたのだと昨日の事の様に思い出す。
何も分からない。
手にした銃の扱いも分からず、初めて遭遇した化け物に成すすべもなかった。
「これは、成長と言うのかしら?」
今のヒカルは武器なら何だって使える。
たとえ武器でなくともそれっぽい物でも戦う事が出来る。
これが喜ぶべき事かは別として。
いつの間にこうなったのかは忘れてしまった。
右手に大型のバトルナイフ。
左手にマグナム。
気付いたら両利きになっていた。
グギャアッ
潰れた様な気持ち悪い叫びが響き続けている事に、もう何も感じてはいない。
気持ちは良くないんだけどね?
正面から飛んできた化け物の脳天に弾丸を叩き付け、減速した瞬間にナイフでコアを切り付ける。
崩れる化け物が視界から消えきらないうちに、次が腕を振り上げる様がかすめて連続してナイフを返しながらコアを狙う。
「しつこい。」
散々だと毒づきながら滑り込んできた化け物を足で蹴りつけてひっくり返し弾丸を叩き込む。
一体何があったのか?
こんな所からノアは来たのだろうか?
「それは無いでしょうね?」
聞いた話では驚くほど静かな場所だったと言っていたから。
では何故、こんな事になっているのか?
ノアがこの施設を出てまだ、精々三日だろう。
その間にこの施設で一体何があったと言うのか?
ガアァッ
「・・・!」
角を飛び出してきた化け物を無言で切り飛ばす。
「まあこの先に、彼の兄弟達か誰かいる事を祈ろうかしら?」
不意に一度止んだ化け物の襲撃に足を止め、目の前の扉に目をやるのであった。
「ここに彼の兄弟が、ね?」
素直に入れてくれるかしら?
たいして期待もせずに歩き出すのであった。
あらやだ、無用心。
眉を潜めもせずにヒカルは内心呆れたような感想を漏らした。
頑丈な分厚い鉄の扉は一度引っ掛かりはしたが開き彼女を室内に受け入れ、ヒカルも踏み入れて閉じ自動で「カチリッ」と施錠された。
一体どういう事だろうか?と首をかしげ周りに視線を巡らせる。
非常灯の寒々とした明かりに照された、外とたいして変わらぬ筈の空気が酷く冷たく感じた。
「人のみに反応して開くんだよ。」
「!?」
突然響いた声に平常は保てど内心では久しぶりに慌てたヒカル。
「まだ無事な職員がいた・・・、と言う訳ではないようだな。」
静かな室内に響く声の主は死角の暗がりから現れた。
「一体、何の用かな?お嬢さん。」
褪せたブラウンの髪を撫で付けた灰色のタレ目の男がフラフラとすぐ近くまで歩み寄り、音もなく止まったと思ったらそんな言葉を口にした。
まるで唄う道化の様に。
その様はこんな場所では気味悪く映り、ヒカルは思わず片方だけ眉をつり上げる。
だが、男はそんな彼女の様子を気にもせずに続けた。
「外の化け物から逃げてきたのかい?それとも君も″同志″なのかね?それにしては若いが?」
品定めでもするような嫌な視線をヒカルに向けながら遠巻きに歩く。
この怪しい男は何かを知っているだろうか?
目だけ動かしてその姿を追いながら考える。
「何者かね?何の用があってここへ?」
やや笑い交じりな声が視界の外。
背後から響く。
「昔話を、聞きに来たのだけど?」
「何?」
間髪入れずに響いた返事に男も噛み気味に反応した。
さて、これはどうなんだろうかと考えながら、今度はゆっくりと男の方を向いた。
「君は″同志″か?」
「どう思う?」
わざわざ思わせ振りな言い回しをしながら背を向け、数歩歩き再び男を見る。
「・・・。」
何故だろうか?
興奮しているのか目が爛々と輝きヒカルを見つめている。
だがそれもわずかな間ですぐに横を向き何やら考え始めた。
「どうしたの?」
「いや、そうだな。君が誰か聞いても?」
「悪いわね。そういうのは無理なの。」
「ほう?それは随分と都合がいいな?こちらに情報の提示を望むならまずは自分の事を話すべきだと思うのだがね?」
まったく、言っている事はひどく真っ当だ。
同時に彼らがそんな真っ当な事を口にするだけの事を普段からしているのかと言う事を考えると眉をひそめたくなる。
勿論ノアの扱い等についての話だ。
だが今はそんな事を口にする気もなくどうしたものかとヒカルは思考をを巡らせる。
「ここを少し見せてもらっても?」
「何?」
男は目を見開いて固まった表情を張り付けた顔をこちらに向け、さらに一度喉を鳴らした
それは驚くだろう。
とても”やましい物”が山ほどあるはずだから。
ヒカルとしてはあの会話の流れは積んでいる気がしたのでとりあえず別の話題に切り替えたかったのでなんでもよかったのだが。
しかし男は彼女の意とは別の方向に動いた。
「君は”ここ”に興味があるのかね?」
ああ、これはいけないわ。危ない人ね。
目の前のまさに変態的に態度の変わった男に内心冷ややかに引きながら考える。
同時にこの状態で話を合わせて情報を引き出せないだろうかとも思案する。
「ええ、実はここの元職員と面識があったから来たのよ。特に昔話の当たりは興味も強くてね?」
「ほほう・・・。」
男はどうやらかなりイってしまっている思考の持ち主ではあるのだろう。
改めて思うが口にはぜずにヒカルは次の言葉を待った。
「どこまで聞いているんだね?」
今しがたでっち上げた”元職員”からという意味だろう。
内心こんなにすんなり信じてここは大丈夫なのだろうかという考えも浮かんだがとりあえず無視してノアの事には触れない程度の会話のうちさらに無難そうな話と、昔話を聞いてみたいという旨を強調して会話を進めた。
結果、男の機嫌は随分よくなり最終的には”奥の部屋”への移動が始まるのであった。
「・・・。」
やはり彼らはいかれているとしか思えなかった。
「素晴らしいだろう?彼らが目覚めれば、化け物どもは我々に近付いてくる事はもうない。」
彼ら―――目の前に並ぶ濃い緑色の液体の入った筒状のガラスケースの中で眠る少年少女達。
おそらく彼らがノアの兄弟達。
その中で思い出されるのははるか昔にカミシマ先生とともにDrクラウスを追い詰めた最後のあの広い部屋に並んでいた同型のケースの列。
ああ、やっぱりトラウマになってるわね。
アリスが殺された場所に酷似した場所は苦手意識が働いて、自然と足が後ろに向かってしまう。
「・・・この人たちが目覚めると化け物が来なくなるの?」
何かしゃべらなくては、と無理やりオウム返しの様に声を発する。
「ああ、彼ら”NOAタイプ”は化け物を寄せ付けなくする波長を出していてね?そう、目を覚ませばね。」
何てネーミングなのかしら?
胸中を苦々しい思いに染めながら、それでも考えた。
”目覚めれば”化け物よけになる少年少女達。
それが特有の波長の使用によって?
何かきいた事のある事と気になる事のオンパレードの様な気がする。
同時にある考えも浮かんだ。
この施設が化け物の襲撃を受けているのはノアがいなくなったからではないのか?
この少年少女達はいるが目覚めなければ意味がないならおそらくは・・・。
「君は随分と昔話にこだわっていたようだが、そんなに知りたいのかね?」
思考の海に沈んでいた意識を相変わらずの調子で喋る男の声が現実へと引き戻す。
「え、ええ。酷く印象に残ったの。」
”始まりがすべてを変える”や”定められた地に『波長』を合わせるなら世界は復活する”問う言葉だと、そのまま伝えていいのか考えもしたが最終的に伝えると男は嬉々としてガラスケースの間をステップでも踏むかのような足取りで回りながら歌うかのようにしゃべり始めた。
ああ、うんざりよ。
狂ってしまったかのように男は延々と喋り続けている。
最初は知りたい情報をペラペラと喋る男の話に耳を傾けていた。
だが、その情報量はたかが知れておりその後は延々と繰り返しているだけであった。
その情報が望むものであったから、眉はしかめてもそこまでどうとも思ってはいないけど・・・。
情報は最初にノアの話を聞いたときに感じた直感の通りであった。
そのほかにも有益な情報なら、ここ以外にも”NOAタイプ”と呼ばれる少年少女を育成する施設は複数存在するという事などがある。
だが一番の収穫はやはり昔話の内容だろうか?
”定められた地”は先生の探した土地だったし、そこで『波長』を私が放出するなどの行動にも当てはまる。
しかも、だ。
「・・・始まりの地がすべてを変える。」
この話の始まりとはすなわち、この現象の最初があった始まりの地。
始まりの地とは・・・。
「・・・。」
思い出したくないと言うのが正直なところではあった。
でもまさか、あの巨大施設そのものが先生が生涯をかけても見つけられなかった場所だったとは。
最悪の灯台もとくらしである。
同時に自己嫌悪にもさらされる。
実は再度あの施設の調査については上がっていたのだ。
しかし、アリスの死んだあの施設への立ち入りを私が拒否した事により実現せず。
この時ほど私は過去に後悔をした事はなかった。
ドシンッという大きな音が半地下に位置するこの施設の天井を大きく揺らした。
「くそ!化け物どもめ!」
男は夢から覚めたかのようにいきり立ち、デスクの上の銃をすくい取り出口をにらみつけるとヒカルの腕をつかんだ。
「何するの?」
この手の状況には慣れっこなヒカルのゆったりとした反応に、やや苛立った男はわめき散らした。
「この子供達は人間を守り、救いへと導く存在だぞ!覚醒前は奴らの標的になる!このままでは今までの努力も水の泡になってしまう!彼らを失えば、いなくなった”ノア初号体”の変りもない!例え初号体を見つけてもすぐ死んでしまうのだから意味はないんだ!そうなれば・・・!」
「ちょっと!?」
この時初めてヒカルは声を荒げた。
今聞こえた、信じられない言葉に反応して。
「ノア?その・・・その子もここの子供みたいな人よね?若い人じゃないの?死ぬって、何?」
咄嗟に彼との関係をはぐらかす発言をしたためおかしな言い回しになったと思い、不審がられていないだろうかと男を注意深く見つめるが男も興奮状態のようで気にもしていない様子だったので安堵した。
同時にヒカルの質問にはしっかり反応もしてくれたが。
「死ぬに決まっているだろう?寿命設定がなされているプロトタイプなのだから。様々な実験にも使用したのだから、おかしな事にならないように。なったとしても長く持たないように、心臓の上あたり刻印された数字の年数以上は生きられないようにデザインされているんだ!」
男は当然だという風に鼻息荒くまくしたてる。
何て事を・・・。
男がわめき疲れて荒い息をしている横でヒカルは呆然と自分の銃に視線を落とした。
彼は今いくつなの?
刻印の数字は『19』とあった。
彼はそれ以上は、最初に自分がこの体になった年までしか生きられない。
成人もできないというのか?
「しかも、あいつだけは”他と違う波長”を発していたからな。危険個体の指定も受けていた。」
男の嫌味ったらしい口調が耳をかすめたがヒカルの意識ははっきりしないままであった。
何がと言うわけでもないが、長きを生き苦しむ自分と短く残り少ない生を生きるノア。
あまりにも皮肉なこの状態にたまらない気がしていたのだ。
ままならないものね?
19才のヒカルはカミシマに死を望んだというのにはるかに長い生を歩んでいる。
一方、おそらく死にたくないであろうノアは自分がその長い生を始めた年までしか生きられないとわ・・・。
ガンっガシャンっバキンッ
「・・・!」
耳をつんざくかのような音と煙が背後から、ガラスケースのあった育成スペースから迫ってきたのでゆるりと振り向く。
「あ、ああ、何て事だ!?」
隣の男は埃と崩れた天井のたてる土煙の止まぬ育成スペースに走りこんでいった。
あとから聞こえるのは生存者のいなかったであろう事を知った男の細い咆哮。
そして、遅れて響くつぶれたような悲鳴だった。
なんてひどい日なんだろう?
あれだけいた化け物の姿も今はまばらになった施設”跡”を眺める。
生存者皆無で黒煙を上げる施設はこの時代にある他のどの建物より酷い有様に思えた。
「・・・自業自得、なのよね。」
少なくともあの科学者の様な男は。
ノアの兄弟達はどうにもならなかったけど・・・。
「私は、また先生を看取らなくちゃならないのかしら?」
正直薄情な話だ。
ノアが不憫とかではなく、自分が嫌だからと言う事なのだから。
しかし、どうする事もできそうになかった。
今は”あの施設”へ向かわなくていけない。
かつてヒカルが今のヒカルになった悲しみの始まりに。
そう考え、アジトに向けてバイクを飛ばすのであった。
暗いですね。
そう言う物語を作ったのですが。
どう向かい合って行くのでしょうか?




