episode1 第1章 第2部 遭遇
この作品をに目を向けて下さった方々、ありがとうございます。
深海 律と申します。
ようやく登場人物の名前が出てきます。
まだ主人公、名前が出てないですが、よろしくお願いいたします。
スリッパを小さくパタパタいわせながらナースステーションの方へ歩いていく。
よく響くなあ、いつもはまったく気にもしなかったのに・・・。
内心の不安を紛らわせるように胸中で呟きながらあたりをチラチラと見回す。
いつもは、大体の時はどの病室のドアも開いているのだが今は全て閉まっていた。
どういう訳かカーテンまでかかっていて中の様子もまったく分からない。
だが、今は気にしてもいられない。
この状況についての説明を受けるにしても、取り敢えずナースステーションに行かなくてはならない。
そこで、水漏れについて報告し、この状況についても確認すればいい。
まるでいい聞かせるように胸中で繰り返しながら足を早める。
でも、本当に広い病院だわ。
検査に行くなど、用事がある時はそうも思ったりした事もなかったが、いつもと違いこうしてただ歩いていると作りはどの階も同じだから分かるにしろかなりの距離がある。
そう思うのも当たり前で、何度も長い廊下を曲がってようやくナースステーションが見えてきた。
ブチッブチッ・・・
「・・・?」
何だろう?変な音がした。
その感想に、同時に否定した。
その音はもう随分前から゛していた゛のたから。
ブチッブチッ・・・
その間も響き続ける、何かが引き千切れる様なくぐもった音。
一体何処からしてるの?
不気味さから肩を縮こまらせたまま、あたりの様子をうかがう。
しばらくそうしていると、これは目の前の病室、ナースステーションに1番近い部屋のドアが開いておりそこからだという事が分かった。
何をしてるの?気味が悪い。
思わず、何故だか分からないが音をさせてはいけないと強く思い、スリッパをその場に脱いで近付いて行く。
その間、脈はどんどん激しくなり身体中で脈打つ様な感覚が襲い掛かる。
何があるの?病院の病室で。もしかしたら手術を受けた患者の処置とかに使ったテープが外れにくくて切っているのかもしれないし・・・。そうじゃないなら、医療器具のトラブルとか?
思い付く限りのそれらしい理由を浮かべながら、徐々に音のする病室に近付いて行く。
ブチッブチッ・・・
音がはっきりと聞こえる位置ーーーついに病室の入り口に辿り着いた。
先ほどから響き続けている音がさらに大きく聞こえて、気味の悪さでは既にない緊張が身を硬くする。
だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
さらに息を殺してついに中を入り口の端から隠れる様にして覗き込む。
・・・アッ・・・ヴヴ・・・。
「・・・!?」
思わず出そうになった声を呑み込み廊下に引っ込む。
病室は暗い。
ベッドが引っくり返っていて、人も倒れている。いや、人だったモノが。でもアレには・・・腕が、足が、首が・・・体のあちこちがなかった!いいや、そんな事よりもアイツは何!?
人間の皮を少しずつ破いて筋肉を剥出しにした様なモノ。
何だか苦しそうだったから人なのかもしれない。そう思いたかったが、一瞬しか見ていないから分からないけどアイツは何をしていたの?
後ろ姿しか見えなかったその動きが示す行動は見たことがあった。
手で何かを、おそらく口があると思われる場所に何かをくわえこんでいた。動物園で猿がする様に、人の千切れた腕か足かを・・・。
食べているの?
あと、少しずつ体が肥大して皮膚の下から更に筋肉質の皮膚が盛り上がってきている様な・・・これは。
それ以上考えたくないと頭を振った。
ビシャァァッ
「・・・ッ!?」
病室から今までにない音がした。
大きな音だ。
続け様に何か破ける音がして次の瞬間、病室から向かい側の病室の扉に叩きつけられ飛び散る赤・・・。
ここにいてはいけない!
アイツから離れなければ!
頭の中でわめきたてる声に叱咤され、後退り、動き始める。
それなのに、モタモタとした動きしか出来ない。
早く離れなければならないのに、いっこうに進まない焦り。それをもどかしさから苛立ち、それでも何とかアイツのいた病室から少し離れ、廊下を曲がった所でようやくペタリと座り込み息をゆっくり吸い込む。
同時にあたりの様子をうかがう為に耳を澄ませるが、相も変わらず響き続ける少し遠ざかったあの音しかしない。
モタモタしたせいで音かたたなかったのか、アイツが作業に夢中で気付かなかっただけなのかは分からないが、アイツには気付かれなかった様だ。
ならば今はとにかく自分の病室に戻らなければ。
もちろん音をたてない様に、ゆっくりと。
病室に戻る途中、近くの病室のドアに耳を当てて見たがあの不気味な音はしない。
アレはアイツだけなの?
ドアは開かないから息をひそめているの?
そこまで考えて病室に呼び掛けてみようかとも思ったが、大声を出してアイツが来たらと思うと、とても出来ず静かにもとの病室に滑り込んだ。
病室に入るなり中から鍵をかけ、その場に座り込みようやく大きく深呼吸をした。
随分長いことこの病室を離れていた気がしたので、一体どれくらい経ったのかと時計を見るがまだ30分も経っていなかった。
無限に続くかと思った・・・。
安堵した様に体に込められていた力を抜き首や腕を回すとゴキゴキと鳴った。
よほど緊張していたのだと、自分の伸ばされた腕を見る。
同時にあの千切れて転がった腕を思い出し動きを止める。
ここを出ないと!
頭にまず浮かんだのはそのひと言。
だが、他に考える事はない。
まだ動きが鈍いが直ぐ動き始めた。
まずは病室内のスチールの入れもの前まで行き、中身を引っ張り出した。
くすんだ赤色の革製の上着に白いタンクトップ、ブラウンの膝丈まであるショートパンツ、黒いベルト、黒のニーソックスにウエストポーチが出てきた。
それらを順番に身につけるとウエストポーチの中と付属で同じベルトについているサイドパックの中を改めた。
財布、スマートフォン、ハンカチ3枚に輪ゴム、ヘアピン、ソーイングセット、ガムにポケットティッシュ2つに絆創膏が入っていた。
あとは、おわつにしようと思って空港で買ったお菓子等だ。
これが一体どんな役にたつのだろうとも考えたが、何も無いよりましと元通りに納めながら、この病室にも何か使える物はないだろうかと室内を見回す。
「何、あの・・・」
その扉は、いや扉と言っても蓋と言った方がしっくりしそうな小さな、とにかくその扉はベッドの横にあるサイドテーブルの下の壁にあった。
何か可部が厚いと思っていたけど・・・。
今まで気になっていた疑問がひょんな所で解明したのであった。
ボタン式の金庫、と言うのがその扉を間近で見た感想だった。
ただ、厳重に見えるこの金庫は今、開いていた。
一見厳重な金庫なのだが蓋の開いたここには一体何が入っているのかと、取っ手の部分を引っ張り中を覗く。
「何で・・・!?」
ここは、病院よね?
実際声が出ていたら、上ずった声が出ていたに違いない。
「何で、拳銃!?」
鈍く黒光りする銃が2丁と弾丸だろう、マガジンが6つ入っていた。
思わずジト目になりながら、銃を手に取ってみる。
手にズシリとした硬く、冷たい感触を感じで息を飲む。
それから少しいじり、弾丸が装填されていると分かると1度出入口をみる。
「あの化け物・・・これなら倒せるかも。」
もしかしたら倒せはしないかもしれないけど、逃げる時見つかってもこれがあれば・・・。
思い立つやいなや2丁とも取りだし、1丁とマガジンをウエストポーチに突っ込み、手にしていた最初の1丁をしっかり握り立ち上がった。
薄暗い廊下を照らすのは非常口を示す緑の光りとあちこちに灯る今にも消えてしまいそうな頼りない光しかない。
「あと少しか。全く、何かにつけてハイテク、最新型とわめく割には非常時には弱いときた。」
1人呟きつつ、廊下の闇の中を白衣の男が歩いている。
50代半ばくらいなのだろうか?
くたびれたネクタイを既に何度目かと緩め髪をかきあげる。
動作に応じて金の髪が指の隙間からはみだし、無形を作り揺れた。
同時に煩しそうに頭を振り、イライラした青い瞳を廊下の向こうに向けた。
かすかに光りが強い。
手にした拳銃が鈍く反射したのが視界の端で見えたのを確認すると、再び歩き出した。
あの化け物のいた病室とは反対側の廊下に少女はいた。
そこはエレベーターホールで、自動販売機が2台と長椅子が3つ、この時期にはいささか不自然な数の観葉植物がいくつも置かれた簡単な休憩所の様な場所になっていた。
そこで少し前から少女は肩を落としたり、ため息をついたりしていた。
「照明は点いてるのに・・・。」
何度も目の前のエレベーターのボタンを押してみたが反応がない。
ランプは光りが灯っているのに電気が通っていないなんて・・・。
さすがにこれ以上は、と1度数歩離れて窓の外に視線を向ける。
窓の外に広がるのは、このところ見続けたもので遥か下に深い森が、遠目には山々が見える代わり映えしないものであった。
その風景を地上7階の病院で現在最上階に立つ彼女は肩を落とすのであった。
「・・・。」
しばらく窓の外にやっていた視線を不意足元に移す。
何だろう?
相変わらず耳が痛くなるほどの静けさだったが、「何か」が背後で動いた気がしたのだ。
一拍おいて、ゆっくり振りかえると・・・。
「・・・。」
何もない廊下が広がっている様に思えた。
が、すぐにそれは違うと頭の中で叫んだ。
ホールを照らす蛍光灯がパラパラと目の前に降ってくる。
上を見るべきか否か・・・、と考えると同時に銃を構え上を向くと「アイツ」がいた。
ーーー!
目が合った途端に神経をつんざく様な咆哮が響いた。
Gでもかかりそうな咆哮に耳をふさぐ事も出来ず、手も小刻みに震える。
手の震えに比例して銃がカタカタと鳴っているが、とにかく撃たなくてはと引き金を引くが弾は出ない。
何かの間違いだという思いと、これからどうなってしまいのかという思いが同時に押し寄せてきた。
再び吼える「アイツ」。
このままでは、と目を見開き口が悲鳴を紡ぐ開き出す。
その時・・・。
彼は今、非常階段にいた。
スティーブ・カミシマは可笑しな事になった病院の様子を探ろうと、屋上にある監視室にやってきたのだ。
だが、異変事態は既にあちこちで起こっていた事を見せつけられ頭を抱えていた。
モニターの様々な視点に現れる「何か」が、職員に襲いかかり、看護師が無事な病室に鍵をかけて回る様子が映り次の瞬間首が飛んで転がる。
その筋を目にして思わず口を押えよろめきそうになるのをこらえ何とか飲み込むと部屋の隅で震えている管理人に武器がないかを聞こうとしたが、もはや何も聞こえていない様子を見て辺りを見回し、壁に取り付けられた灰色の箱を視界に入れる。
その時、視線がよそに向いたのに気付いたのか喚きだす管理人の男がうるさいと思ったが無視して灰色の箱ーーーキーボックスに大股で近寄り鍵をとり、Uターンして今度は武器ボックスの前へ立つ。
この施設は山奥にある、まさに陸の孤島で周辺の密林からは小型から大型ありとあらゆる獣がおり、たまに敷地内で暴れたりするのだ。
もちろんそれは危険以外の何物でもないので、すぐさま対応する事になっている。
その為、医療施設でありながら院内の至る所に銃器等が配備されている。
それこそ各病室にもだ。
地上のみならず、大型の鳥類等もご丁寧に窓ごとぶち抜いて室内に乱入してくるのだから。
さすがにあまり大きい口径の物は無理でも9㎜口径のハンドガンを何丁かずつ配備していたと思う。
だからこの監視室にももちろん武器ーーー大型銃器が配備されていた。
レミントンとは別型だとか何とか言っていたショットガンだ。
銃器には詳しくは無いが、この施設への配属が決まった際に訓練は受けてきた。
ただし、私が受けたのはたまに出てきて暴れる熊などの野生動物相手のものなのだが・・・。
はっきり言って不本意だと胸中で呟きながらも、今はそんな事は言ってられないと気を引き閉める様に頷く。
院内は化け物だらけで、今この瞬間も患者の身が危機的状態に晒されているのだから。
力を込めて武器ボックスの蓋を引き、様々な装備品の中からいくつかを取り出すと慣れないながらもサイドパックにホルター、ユーリティベルトに弾薬用ポーチなどを着けていき、ショットガンを手にした。
後は背後で震えている管理人に声をかけて・・・。
「ヒアッ・・・!?」
男の低い声には不似合いなひきつった悲鳴が思考中の頭を現実に戻した。
冷静になれ、と頭の中で喚く声が聞こえる。
だが、管理人のもとへ足を踏み出した瞬間に彼の見つめるまどが室内に向かって弾け飛び、悲鳴の主が吹き飛ばされた。
「ーーー・・・!」
咄嗟に声が出ず、管理人の吹き飛ばされた方の逆の壊れた窓枠に
視線が惹き付けられる。
のそり、と腕を垂らした、あの「何か」が立っていた。
ヒュッと喉が鳴り、同時に引き金を引く。
耳をつんざく様な音がして化け物のいる辺り一面に散弾の痕がつく。
連続して浴びせられる弾丸はその何発目かで化け物の目を傷つけたらしく、片手で流れる血を拭いつつ痛みに声を上げてメチャクチャに太い腕を振り回し始めた。
身長は2mくらいはあるであろう「何か」の豪腕から放たれる力は見た目通りの威力だったらしく、室内の全壊も数分くらいのものだろう。
考えるや否や、ここを離れなければと入ってきた扉に視線を向けるが、あちらは通行不可能。
だが、背後には非常階段へと続く扉がある!
脱出路が決まると、今だ痛みに狂った様に暴れる化け物から目を離さず、すぐさま吹き飛ばされて力なく転がったままになっている管理人に走り寄る。
先程の状態だと、どう見ても即死だと思うが、と素早く脈を確認するがやはり反応は無い。
苦虫を噛んだような顔になりつつ、管理人のベルトに細い鎖で繋がれている鍵束に気付き迷わず引きちぎり立ち上がると勢いそのままに非常階段へと続く鉄扉をくぐり、叩き付けて閉めて走り出した。
とにかく下の階を見てみないと!
目の前の7階へと続くひとつ目の扉を開け、チラリッと振り向き足を止める。
背後には化け物が追いかけてくる気配は無い。
今のうちと再び階下へ続く方の向き、踏み出そうとした。
「・・・!?」
階下ーーー今、正に向かおうとしていた方向から「何か」の吼える声がした!
視界にある7階鉄扉のすぐ側だ!
瞬時にショットガンを構え踏み出した。
ようやく、次で会話が出始めます。
歩みがかなり遅いのですが、よろしくお願いいたします。