episode2「鍵人(かぎびと)」
遅くなってすみません!
久々の投稿です。
目の前で眠るカミシマ先生は、少し若いと思った。
改めて見れば、だが。
しかし、それを除けば全てが若い頃の、ヒカルが初めて会った先生そのものなのである。
本当に、時間が巻き戻ったようね?
思わず手を伸ばす。
手はそのまま見た目より遥かに柔らかい髪の毛に触れる。
あ、やっぱり柔らかくてサラサラなのにしっかりした手触りだわ。
在りし日の記憶と同じ感触。
だか、それとは決定的に違うものを先程見つけた。
ちょうど心臓の真上の辺りに『それ』はあった。
ゴシック体で書かれた数字の刻印。
その数は『19』。
どういう意味だろうか?
彼が目を覚ましたら聞いてみなくては。
まあ、聞きたい事があるから今の住まいにまで運んできたのだから。
貴方は『誰』?
何故あんな場所にいたの?
『スティーブ・カミシマ』と言う名前を知っている?
そのタトゥー、数は何?
貴方の中から・・・。
「・・・。」
聞きたい事は次から次へと湧いてくる。
でも、やはり何故カミシマ先生と同じ姿なのか?
そして何故『NOA』の因子の気配がするのか?
この二点が気になって仕方がない。
あり得ない事なのだから。
それは、かつて私が初めて遭遇した『人工NOA』に酷似した気配。
自然ではない感じの気配。
彼もあの『人工NOA』と同じ、アリスと同様の状態なのだろうか?
″あの日″救えなかった幼さを残した残像が視界をかすめた気がした。
しかし、やはり違う。
彼はあの子とは違うと。
まるで言い聞かせる様に頭を振るのだった。
「・・・ん。」
肌寒さが感じられない?室内か。
まぶたを開くと見慣れない天井が視界に広がる。
どうやら″あの施設″に連れ戻された訳ではない様だと安堵しながら、ゆっくりと体を起こす。
「・・・どこだ?」
本当に見覚えのない、打ちっぱなしのコンクリートの部屋。
頭上で室内を照らしている照明器具の灯りも随分と弱々しい気がした。
お陰で室内は薄暗く感じる。
「目は覚めた?」
「・・・!」
背後から突然声がした事に肩をビクリッ、と揺らして振り向く。
そこには二十代前後の黒髪の女性が手にくすんだ灰色のトレーを持ってこちらに歩いて来るところだった。
「あ、・・・助けてくれた、人?」
あの化け物に追われる俺を助けてくれた人だと気付き、肩の力を抜く。
「動ける?」
「え、あ、・・・はい。」
何故だろう。まともな返事が出来ない。
「どうしたの?」
「な、なん・・・でも。」
やはり会話にならない。
そこまで考えて「ああ、そうか。今までまともに会話する相手がいなかったんだ」と胸中で呟く。
今まで周りにいたのは嫌な白衣の男女達だけ。
彼らは常に俺を調べて、見張っていた。
話しかけても反応はしないくせに、言いたい事は勝手に喋っていく。
彼らの中で俺は人ではなく、モノだった様だ。
「すみません、俺、余り人と話をした事がないので・・・。」
軽くパニックを起こした俺。
でもこの女の人は黙って俺を見たまま座ったままだ。
それから俺をじっと見つめていて・・・。
こんな時どうしたらいいのか分からず黙って見返し、もじもじしてしまう。
とにかく名前をと口を開く。
「あ、あの、俺、は・・・。俺、『NOA』って言います。」
私の助けた先生と瓜二つの少年は、人とあまり話した事がないと言ってしばらくもじもじしていた。
まあ、こんなご時世だから居住区から出た事がないか、周りに生存者がいなかったのか・・・。
そんな事を考えていたら彼が再び口を開いた。
でもその時響いたのは信じられない言葉だった。
話題は自己紹介だった。
だけどそこで彼が名乗った名前は・・・。
「・・・何ですって?貴方、『NOA』って・・・。」
それは化け物の名前だ。
一度視線を落し、再び少年ーーーNOAに話し掛ける。
「君は何者?その名前の意味を知っているの?」
この後、運命と言うものがあるなら、この事だと私は知る事になる。
彼は全ての『鍵』であると。
この子はダレ?
答えはもう少しですね。
よろしくお願いいたします!