episode2 「鉛空(なまりぞら)」
すみません!
遅くなりました!
過去のお話です。
「一体どういう事だ?あれは先生が独自に作り出したものだったはずだが?」
誰もがそう思う事。
しかし、目の前のそれはそうではないと主張している。
「でも、人工的な合成は成されていないみたいなんです。」
目の前で大の字に倒れた異形。
これが人工的な存在ではないだと?
そんな馬鹿なと再び頭を振るが、現実は動かない。
実際にあの施設で見たモノとそっくりだが微妙に違う化け物が目の前に倒れている。
勿論その違いは微々たるもので、やや色が濃いとか小柄だとかいった程度だが。
「施設から出てきた訳でもない?なら、一体何処から来たんだ?」
いや、何処から来たかより、まだ何処から現れるかの方が気になるが。
しかし、私が思案するより確かな疑問を暫く黙っていたヒカルが口にする。
「私達の病気、『NOA因子』はそもそも何処から来たんですか?」
そうだ、この因子は一体?確か、最初に発症した患者は・・・イタリア人の女子大生だった筈。
しかし情報はない。
何せ医師を含むチームは担当患者以外の情報にアクセス出来ない仕組みになっていたのだ。
何故こんなシステムが出来たのか?
詳細は一切不明だし、それが先生の単独か今プロジェクトを取り仕切る大本の指示かは分からない。
ただ、全てが不明。
関係者以外は閲覧不要となっていた。
閲覧禁止ではなく不要である。
何故おかしいと思わなかったのかと、あの頃の自分をひっぱたいてやりたいと思いながらも現場に思考を戻すカミシマ。
「ヒカル、奴らの気配はしないか?」
今はこれが一番大切な事だ。
至る所に要るなら慎重に進むべきだ。
度々走行中に突撃されてはかなわない。
改めてヒカルの方を向くと視線が合い、首を振って来る。
今のところは大丈夫なのだろう。
「ならば、車へ。近くの街へ急ごう。」
あの施設だか、どこから来たのかは分からないが、化け物の事を伝えて避難させなければ。
「空が、暗いですね。」
二十分くらい車を走らせた頃、助手席のヒカルが眉を寄せて呟いた。
確かに、曇っているのか空は灰色だった。
「ラジオも入らないな。天気予報もここ数日確認していないからな・・・。」
今となってはもう意味のない件のレポート作成に忙しくテレビも新聞も確認してない。
最後は一体いつだったか?
て探るように記憶を辿るがうまく頭が回らない。
こんな状態なのだから仕方ない事かもしれないが。
ならばとわざとらしく眉間にシワをよせ、今は運転中と言い聞かせる様にハンドルを握る手に力を入れ直す。
しかし、本当に天気が悪い。
更に十分ほどしてようやくアスファルトの道路に出ることが出来たので、少しホッとした。
何せこの車は四駆だか道がひどすぎた。
尻が痛くてたまらない。
だがそれもここまでだと、他の走行車の確認をしてアスファルトの道路に出た。
やはり揺れも殆どないので楽だ。
この道なりに後十分も行けば小さいが街に着く。
そこで一度休憩し、それから情報を集めなくては。
暗く重い色合いの空の下のドライブは大して気分はよくない。
胸中で呟くがどうする事も出来ないので、静かなヒカルに視線を向ける。
起きているのか眠っているのか不明だが目を閉じている。
疲れている筈だ。
街までそっとしておこうと前方に蜃気楼の様に揺らめく街に視線を移す。
後わずかだ。
これで日常に戻る事が出来るだろうか?
否。
ヒカルにはもう無理だろうし、自分だって無理だ。
ではこの先どうするか?
「先生‼」
「⁉」
思案する頭にヒカルの声が叩き付けられ、慌ててブレーキを踏む。
「どうした⁉」
彼女の方へ向き、思わず声を荒らげる。
同時にヒカルが凄い勢いてアサルトライフルを掴み車外へ飛び出し、前方に走り出す。
化け物か⁉
カミシマもマグナムを手に後を追う。
「・・・何だ、これは?」
アスファルトに赤黒いシミが広がり辺りに何かが散らばっている。
これは見た事があると、ヒカルに視線を向けると彼女は辺りを警戒する様に視線を巡らせていた。
いるのだろうか?
目の前の施設でも幾度と目にした″残骸″が
散らばっているのが見え、一瞬身を固くするが慎重に踏み出していく。
ああ、やはりか。
赤黒い中に転がるのは腕だ。
千切れた人間の腕だったんだ。
いや″千切れている筈 だが・・・。
「焼き切れている、んじゃないですよね?」
まるで粒子がほどけたような奇妙な切り口だ。
あの化け物がかじりついた訳ではないのか?
更に近くで確認しようと踏み出した。
刹那。
どちらが早いか⁉ヒカルの声か、奴の咆哮かと振り向くと施設で遭遇した奴よりも暗い緑色の化け物が突進してきている様が視界に入る。
ダダダダダダダダダダダダダッ
先に発砲したのはヒカルだった。
カミシマも一瞬遅れで重い引き金を引く。
そんな弾幕の中を奴は当分耐えて倒れたのであった。
化物はあまり知能は高くないのかも知れない。
目の前で大の字に倒れた化け物を見下ろしながらカミシマは考える。
施設にいた奴はまだこちらにバレないようにするとか、攻撃を避ける等の行動をとっていた。
だが今目の前に倒れた化け物は何も考えていないのか、状況がわからないのか。
とにかく突っ込んできた。
それだけだった。
だか同時にその耐久性は施設の化け物の比ではないほど高い。
こんな奴がまだあちこちにいるのだろうか?
街は民家が数件に主要施設しかない、サービスエリアの様な田舎町であった。
勿論、住民の人数もそれに見会う程度しかいない。
結論から言うと住民は全滅だった。
最初にに見つけた遺体と同様の状態であちらこちらで見つかった。
探索中、二体の化け物にも遭遇したがその後は全くもって静かなものだ。
問題は化け物がいたのは施設に近いここいらだけなのか、と言う事だ。
まあ、この一帯だけだとしても大事だと思うが。
「いっそ、ホワイトハウスにでも乗り込んで非常事態宣言でも出してもらうか?」
普段からジョーク等言わないというのに。
しかも出たのはブラックジョークか?たまらない。
内心悪態をつきながらヒカルを振り返る。
出来ないか?
そうなると彼女の事が公になってしまう。
そうなればどんな扱いを受けるだろうか?
考えたくもない、と頭を振り声をかけるとヒカルは駆け寄ってきた。
「国境沿いにある支部に向かう。」
あの施設の前身となった施設だ。
今はあまりにも情報が無さすぎる。
彼女を治すにしても、化け物に対処するにしても。
だから一度、本丸に足を踏み入れるしかない。
だがそこで見たのは、望みからは程遠いものだった。
回想(?)、第一弾でした。