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第一回:休日

 窓から朝日が入ってきて、眩しくて目が覚めた。

 いつもと変わらない休日の朝。昨晩は久しぶりに、遅い時間まで駅前で飲み歩いたおかげで頭が痛い。今日は特にやることがないから、昼まで寝ていたかったというのが本音。

 でも、起きてしまったら仕方がない。太陽と喧嘩する気も起きないから仕方なく起き上がることにした。

 ズキズキと痛む頭をさすりながらベッドから出て、だらしなくキッチンへと向かう。

 二日酔いのときはコーラ。スカッと爽やか――。両親が二日酔いのときに、決まって自宅の裏にある自動販売機まで買いに行かされてたから、そういうもんだと思っている。

 鈍い頭のまま俺は冷蔵庫を開けてコーラを……。

 ん? コーラが、無い……。

 あれ、いつ飲んだっけ? 

 いつ飲んだのかまったく記憶にない。昨晩帰ってきてからコーラを飲んで無いのは確かだった。飲んで帰ったときはポカリスエットと決まっている。別に両親がそうしていたわけではないけど、そう決めていた。だから、コーラは昨晩飲んでない。

 俺は念のためキッチンから部屋を覗いて、枕元にあるペットボトルを確認した。

 うん、枕元にはポカリスエットのペットボトルが……。

 あれ? ポカリのペットボトルもない……。

 ちょっと待て。ここ、俺の部屋だよな。

 キッチンといっても、流しとガス台と冷蔵庫が並んでいる申し訳程度のキッチンだが、見渡してみても俺の部屋のキッチンだった。

 部屋へ戻り、部屋の中を見渡す。

 テレビの位置、ベッドの位置、テーブルの位置、リモコンの位置、本棚の位置。

 別に変わったことは……。

 ん、なんだこれ。

 テーブルの上にあったのは最新刊が出ると必ず買っている漫画だった。でも。

 三十巻? は? なんで? つい先週二十八巻を買って読んだばかりなんだけど……。

 俺は混乱した。ここは確かに俺の部屋なのは間違いないのだけれど、何かが微妙に違う。違うというか少しずつ何かがずれている感覚に似ている。

 何だ、何が起こってるんだ?

 俺は、ベッドに戻り携帯を確認してみることにした。

 あれ、携帯は? 携帯どこやった?

 ベッドの下、ベッドと壁の間、テーブルの下、キッチン、俺は携帯を探して部屋の中を歩きまわった。でも、携帯が無い。今までどんなに酔っ払っても携帯を無くしたり落としたりすることなんかなかった。でも、部屋のどこを探しても携帯が無い。どこにも無い。

 起きてから何も飲んでいないことを思い出し、もう一度キッチンへ向かい冷蔵庫を開けてみた。

 嫌だな。

 そうなってたら嫌だなと思ったがそれは的中した。冷蔵庫には見覚えの無いタッパーが入っていた。俺はタッパーを取り出して、恐る恐る蓋を開けてみた。中身は茶色いドロッとした物体で、匂いを嗅いでみるとカレーの匂いがした。

 あ、カレーかこれ。

 思ったより冷静だった。カレーの匂いで人って冷静になれるもんなんだな。なんて少し思ったけど、最近カレーを作った記憶はない。そう思うとまた混乱してきた。それよりも、少し怖くなってきた。

 俺、記憶飛んでる? それも、結構な間の記憶が……。

 とりあえず水が飲みたい。喉が乾いた俺は流しの横にあるグラスを手に取り、蛇口をひねった。ちゃんと水が出てくれて少し安心した。俺はグラスの水を一気に飲み干してグラスを流しに置いた。ふうと一息ついたのも束の間、流しに置いたグラスを見て寒気がした。

 あ、グラスが違う……。

 いつも使っていた緑のグラスを探してみたが、どこにも無かった。

 気がついたら足が震えている。鳥肌が止まらない。

 確かに俺の部屋だ。俺の部屋には間違いがない。でも、俺じゃない誰かが住んでいる感じがする。でもそこまで違和感があるわけじゃない。思ったより冷静に分析はできているけれど、体は震えいている。たしかに恐怖を感じている。

 

 ガチャ。

 

 玄関で音がする。誰かがドアに鍵を挿している。

 

 ガチャ、ガチャ。

 

 鍵が回っている。誰かが俺の部屋のドアの鍵をあけている。合鍵を持っているやつはいない。前に付き合っていた彼女はここに引っ越してくる前に別れたから、鍵を持っているわけがない。

 誰だ、誰がいるんだ。

 俺はドアスコープから誰がドアの外に居るのかを確認することもできたけど、それよりもいまいるこの部屋が、少しでも自分の部屋ではないのではないのか? という疑念に駆られ少し罪悪感に襲われた。混乱もしているし、恐怖も感じている。

 ドアが開く前に、俺はとっさに部屋に戻りクローゼットの中に隠れた。

 クローゼットの中からは扉の隙間から部屋の中を見るができる。これまでクローゼットに入ったことなんてなかったから、クローゼットの中から部屋の中が見えるなんていままで気が付かなかった。

 

 ガチャ。

 バタン。

 ガチャリ。

 

 ドアを開け、ドアを閉めて、鍵をかける音が聞こえた。

 誰かがこの部屋に入ってきた。靴を脱いでいる音も聞こえてくる。

 隙間からはまだ何も見えない。玄関はクローゼットから見て左だから、誰かがここを横切るなら、左から横切る。

 玄関に上がった気配がした。ズボンの裾を擦って廊下を歩く音がする。音の感覚からすると恐らく、キッチンのところで止まっている。キッチンから部屋に入りクローゼットを横切るにはあと五、六歩といったところだ。

 

 ガチャ。

 

 冷蔵庫を開く音がした。続いてビニールの音が聞こえる。誰かは何か買い物をしてきて冷蔵庫に買ったものを入れているようだ。

 

 バタン。

 

 冷蔵庫を閉める音がした。蛇口を捻る音と水が流れる音。どうやらキッチンで何かをしているようだ。部屋になかなか入る気配がない。

 

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

 

 俺の心臓の音がうるさい。足はさっきよりも震えている。全身に鳥肌が出ていて、手で腕を撫でるとひどく表面がでこぼこしている。頭まで鳥肌が出ているのではないかと思うほどで、頭の毛が逆立っているような感覚がする。

 誰だ。誰がいるんだ。

 誰もいなければいい。という思いと、早くクローゼットを横切ってその姿が見たい。という思いが複雑に行き来している間に、俺の鼓動はさっきよりも早く打ち出した。呼吸も浅くなってきた。クローゼットにいるから空気が薄いのか、どうなっているのかわからない緊張で参ってしまっているのか、とにかく呼吸が浅い。

 部屋に入ってきた誰かがキッチンから動き出した気配がした。

 裾で床をする音が近づいてくる。気配がすぐそばまで近づいてきた。多分、クローゼットの扉の近くに、いや扉の前にいる気がする。だけど、隙間からは見えない。でも、人の気配はしっかりと感じる。

 突然、目の前を人が横切った。

 クローゼットのスグ近くを通ったから、まったく確認ができなかった。

 少し隙間に顔を近づけて、通り過ぎた先を見ようとしたが見えなかった。少ししゃがんだり、背伸びをしたりしてみたけど結果は同じだった。

 部屋の中にいる。誰だか知らないけれど、部屋の中にいる。

 俺は出来る限り息を殺して、気配を消すように、でも、クローゼットの外が気になる。俺はクローゼットの扉に顔を出来るだけ近づけて顔の横に両手をついてぴったりと顔を寄せた。

 目の前が真っ暗になった。部屋の様子がまったく見えない。

 やばい、目の前にいる。

 俺は誰かに視界を奪われて、膝がガクガク震えた。

 扉の外で音がする。扉に手をかけている音もする。

 部屋にいる誰かに、誰かがいることを気づかれている。

 どうする? 思い切って飛び出すか。でも、いきなり刺されたりとか殺されたりとかしないよな? どうする? どうする? どうする?

 クローゼットの扉が開く音と同時に、目の前がいきなり明るくなった。

 俺の目はいきなり光を取り込んだこで目の前の様子を正しく理解することができなかった。

 

「お前、え、何でここに……」

 扉を開けた誰かが、俺に声をかけた。

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