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◆-2 「光るのは期間限定」その2

マツリはすぐさま失敗したと思った。


私など大した者ではございません、というような、少し謙遜けんそんした言い方をしたかったのだが、言い直すのもそれはそれで恥ずかしい気がする…。


などと考えていると、突然、王子の顔が無表情になり、そのすぐ後にこわばった表情に変わり冷汗をかき始めた。

まるで、突然、間近に鳥の気配を感じた時の猫のように、目をまん丸くして勢いよく隣のピック夫人の顔を見た。

マツリの返答は王子に対して城の誰もがした事のない言い回しだったので、王子は困惑したようだ。



王子の威厳が瞬時に消え、母にすがる子供になった瞬間を見たマツリは、〈王子といえどもお子様なんだ…〉と思ったと同時に、王子とお子様をかけて「王子様おうこさま」という風にもじってみたが、こんなあだ名をつけては失礼だなと思いながらも、王子に対して少し親しみが湧くのを覚えた。


ピック夫人は別段、驚きもせずに慣れた様子で優しく王子に言った。


「マツリ殿は殿下にお会いできて少し緊張していらっしゃるのよ。」


王子はピック夫人の言葉を聞いてすぐに落ち着き、澄ました笑みを取り戻した。



「そうかそうか。だが安心せい。今日は余の方からおまえに頼みたい事があって呼び立てたのじゃ。おまえに是非とも余のもとに持って来て欲しい物があるのじゃ!どうじゃ?すぐに持って来てくれるか?」



――いや…何を持ってくればいいのかを先に言ってくれないと……――


マツリはそう思いつつも、この王子にツッコミを入れるときりがなさそうだと感じ、


「一体どんな物をお持ちすればよろしいのでしょう?」


と、メルヘンな物語のやり取りのような台詞を意識して言ってみた。



王子は上機嫌に答える。



「ん?そうか、それを言い忘れておったな!余が持って来て欲しい物とは、「ひかりたんぽぽの種」じゃ!」



――たんぽぽ……。――


この間、子供たちの風船の中に入ってたのも、たんぽぽだった。マツリがよほどたんぽぽに縁があるのか、それともこの世界は暮らしのスタイルで、たんぽぽをふんだんに使う習慣があるのか…。

…今まで過ごしてきた日々でそんな印象は特になかった気がするが。


「光たんぽぽとは一体どんなたんぽぽでしょうか?」



そうマツリが尋ねると、王子は得意げに話した。



「なんじゃ、おまえは光たんぽぽの事も知らんのか?異国から来たそうじゃがお前の国には春の国の光たんぽぽの噂は届いてはおらぬのか?」


どうやらそれは春の国の名物らしい。

王子が得意げに説明する。


「光たんぽぽは花が綿毛になったら緑色に光るたんぽぽじゃ!とても綺麗なのじゃ!余はその光が大好きなのじゃ!どうじゃ?すぐに余の為に持って来てくれるな?」



――急にテンションが上がりすぎじゃ……というか…どこで採ってくればいいかを先に……いや、よそう…――


マツリはこの国の王子との謁見えっけんはこういうものなのだと諦めて、メルヘン物語のやり取りに徹することにした。


「そのたんぽぽは一体どこに生えているのでしょうか?」



その質問に王子は、またも目を丸くして冷や汗をかきながらピック夫人の顔を見た。

ピック夫人が優しく返す。


碧石あおいし神殿ですよ。」



王子の得意げな表情が戻った。


「そう!せ…そ…神殿じゃ!」



その時、君主の威厳を保つため、大臣は助け舟を出そうとこの会話に割り込んできた。



「そこからは私めがお話ししましょう!」


大臣は背中に手を回し、物知り顔で流暢に語る。


「本来、たんぽぽの綿毛は光りませんが、碧石神殿の綿毛は三年に一度、三日間だけ明るい緑色の光を放ち輝くのです。三年前に王子にもその綿毛が贈られたのですが、三日経つと光が消えてしまったのです。王子はたいそう気を落とされました。」


王子は大臣の話すのを聞きながら、時折深くうなづき、期待に満ちた表情だ。


「しかも、この綿毛には種が付いておらず、綿毛を持ち帰って来ても光たんぽぽを育てることはできないのです。古い言い伝えでは、光たんぽぽの花が綿毛を散らせた後に、大きな種が一つだけ実るといいます。マツリ殿にはそれを持ち帰ってほしいのです。」



大臣が話し終えると王子は玉座から立ち上がり、両腕を広げるジェスチャーをした。



「この城の中庭の花壇一面、光たんぽぽの光で一杯にしたいのじゃ!」


そう言った王子の表情は純真無垢なものだった。


報酬の話は出ていないが、マツリは気にしなかった。

王子の純真な思いを叶えるために、自分は協力したいと思った。


こんな自分を、純粋に頼ってくれる人達のために、力を尽くそう。

それが自分が望む、この世界での生き方になればいい。

マツリは少しでも早く、その思いを実行に移したかった。



「分かりました。光たんぽぽの種、採ってきましょう。」


マツリは頼りがいのある、凛々しくも明るい表情で引き受けた。




無垢な望みが時には誰かを犠牲にする事があると、マツリは知っていた。


だからこそ、この世界では誰も悲しまないように、できる限り自分がその橋渡しをしたいと考えていた。



「 自分の力」はその為に使おう。決して「前」のような使い方はしたくない、と。



次回は碧石神殿への道中、マツリが思い出す過去の記憶です。

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