◇~序文 「彼女の名前は」~
Mr.テラーが綴る物語の序文です。この序文は取材記録パートとして、ドキュメンタリー風に彼の記者としての素の文体で書いてあります。
このシーンの世界は限りなく現代に近い世界で、彼のいる場所は日本という設定です。
彼女が何者なのか、それは僕には分からない。おそらく彼女自身もまだそれを探しているのではないだろうか。
普段の彼女は感情をあまり顔に出さない。取材を始めて気づいたが、彼女は常に周りに対して警戒をしている。
それも怯えているのではなく、ある種の「見定め」をしている感じだ。
彼女の見た目からすると僕とは一回り半ほどの年齢差があるだろう。身長からするとおそらく10代半ば、高校生くらいだろうか。
顔立ちは高校生にしては少し幼くみえるが、話す言葉も日本語だし、制服を着て学校に通っていてもおかしくはない。
だが話してみると少なくとも僕の持つ10代の少女の雰囲気とは違い、世界を見限ったような口ぶりで、口調は淡々としていて冷静で、時折、卑屈なすねた言動をとる。
僕の取材中に不意にあどけない表情をみせる事はあるものの、それを僕に見られるのは嫌いなようだ。
すぐに「しまった」という表情に変わり、普段の冷めた目つきに戻る。
といっても、これはあくまでも僕が受けた印象であって、彼女は「冷めた目つき」をしているつもりはないのだろうし、「世界を見限っている」つもりもないだろうから、こういう言い方をされるのも喜びはしないだろう。
この部分は折を見て柔らかい表現にしておくとしよう。
しかし、「破滅の元凶」、「死神ウイルス」などと彼女について言われている世間での批評は、些か言い過ぎに思える。
彼女も心を持った列記とした人間なのだ。
どこか冷めてはいるが、人間離れした悪評がふさわしい少女には見えない。
記録映像で見られる通り、確かに彼女は一見不審な恰好をしている。
他人との関わりを避けるためかいつも同じ恰好で、上はダブついたフードで極力肌の露出を避けているように見える。
そのわりにはスカートは短い気もするが、それは彼女が元いた世界ではフォーマルな服装なのだという。
髪型はショートで色も暗く、耳や首元の装身具が時々キラッと光るが、フードを被っていればそれほど目立つことはない。
彼女は恰好についてあまり突っ込んだ質問をされるのも嫌いらしいが、僕の不躾な質問に対してすぐに不機嫌そうになったり感情を態度や顔に出してしまうというような、僕のイメージする10代の少女らしい一面も持っている事を付け加えておこう。
だが僕は現象の原因と対策を探る立場上、彼女を強く庇う事はできないし、かといって激しく貶すわけにも行かない。
接してみた率直な印象と、彼女が話してくれた体験とをその時の感情そのままに書き記したい。
彼女についての判断はこれを読んでいるあなた自身がしてほしい。
彼女もそれを承知で取材を受けてくれた。
申し遅れたが、僕はハンドルネーム「Mr.テラー」。テラーの意味は語り手であるストーリーテラーからとったものだ。
我ながら安直だとは思うが、主役は僕の方ではなく「彼女とその物語」なのだから僕の名前などはどうでもいいのだ。
携帯電話やパソコンの無線通信環境を始め、全ての無線回線がシャットダウンされ、旧式の回線のみでしか情報を得られない中、この文書がどれほどの人の目に留まるかは解らないが。
こうして今、取材できているのも偶然の賜物で、僕は初めて彼女の噂を聞きつけてから3週間も探し回ったものの、足取りは全く掴めなかった。
あのまま闇雲に探していても僕には決して見つけ出すことはできなかっただろう。
彼女との出会いについてはそのうちに改めてエピソードとして綴らせてもらうとして、かく言う僕自身、実際に彼女に会うまでは世間の批評を真に受け、場合によっては自分の命を失うかもしれない危険があることを覚悟していた。
しかし、今この世界に起きている現象の謎を解くにはリスクを冒してでも直接本人から話を聞く必要があったのだ。
だから彼女と対面した時、その予想外なキャラクターに少し肩透かしを食らった気がした。
それにしても僕は彼女に会えた事に興奮し通しで、いても立ってもいられず、まずは彼女の外見的印象をかいつまんで書いたため、この序文に出てきたワードでいくつか説明を要する部分があると思うが、それはこの後の本編である彼女のこれまでの体験を読んでもらえば解っていただけると思う。
僕はこれまでの数回にわたる取材で彼女の熾烈な人生の物語を聞かせてもらったが、彼女の生き方と苦悩、そして葛藤を伝えるには欠かせないエピソードがある。
その中でも事の始まりが垣間見えるものを、あくまでも「物語」としての文体に変えて書き記しておこう。
そしてここで伝えよう。
彼女には「破滅の元凶」でもなく、「死神ウイルス」でもない
「ヒカミ マツリ」という名前がある事を。
次回の本編は書き方が物語調に変わります。ファンタジー世界の物語なのでもう少し入って来やすい文体を目指した…つもりです。。