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◆-5 「たんぽぽの巣」その3

巣の中では住人である奴の方に利があるだろう。



――そういう時は…――


マツリは前の世界での過去の経験から有効な策を思いついた。



まずは奴が逃げた方向とは逆側から、奴から見えないように中央の柱の頂上までジャンプした。


足場に積もった綿毛がこんもりとなっている場所を見つけると、フードを被りその中に埋まるように身を隠した。


待ち伏せである。



左手には青い結晶を握り、エネルギーのチャージも始めた。


この広間が奴の巣だとすれば、ここは寝床だ。最初奴がいた場所の周りだけ綿毛が少なかったのは、ここを中心にして動き回っているからだろう。

ならば、奴は必ずここに戻ってくるはず。


這いつくばり、まるで緑に光る毛布を被って隠れているかのような自分の姿を、滑稽こっけいに感じながらも、息をひそめて奴が戻るのを待った。



      ◆ ◆ ◆



待つこと20分少々…



奴は一向に現れる気配を見せない……



マツリは奴が姿を見せるまでは、じっとハンターのように待つつもりだった。



…………



ふと、ある考えがよぎった。




――もし奴があのまま別の部屋に行って、その部屋には「第2の巣」的なものがあったら……?

奴はそのままそこでゆったりと何日も過ごすんじゃ……


それよりも、どこかに奴の巨体が通れる出口があって、もう既に外に逃げ出していたら……?――


マツリは地面に這いつくばりながら顔の前の両手を強く握って焦りの表情を浮かべた。




まさにその時だった。



視界の右後ろから、ゆっくりと何かが伸びてきたのだ。



黄緑色のそれは、奴の根の先端だった。

ここで粘って正解だったようだ。



それはマツリが隠れていることに気づかず、探るようにうねうねと地面を這っている。


根はさらに先へと延び、綿毛に埋もれたマツリの右手に触れ、その上を這ってきた。



マツリの心に不安がよぎる。


――奴が来たのはいいけど、このまま私の体の上を通過されでもしたら潰されちゃう……!

その前に飛び起きて奴を羽交い絞めにするしかない……――


マツリは左手に握った結晶を指先で持ち、奴から見えないように、自分の右肩にゆっくりと近付けた。



だがその途端に、マツリの右手に乗っていた根はヒョイと斜め先の方に向かって動き、それに引き上げられるようにして奴の巨体が足場の上に現れた。

奴は安心しているのか、ゆっくりズルズルと音を立ててマツリの真横を通過してゆく。



取り敢えず潰される心配は無くなったと胸をなでおろした時、奴の背中の中心から尻尾のように伸びた一番長い根が、マツリの顔の横を通過した。



その瞬間、マツリの目に映ったものが事態を全く別な物へと変えた。




マツリとこの動く植物はとの出会いは必然だったのだ。


運命によってそう決められていたのかもしれない。



奴の尻尾の先は二股に分かれ、捻じれて互いに絡まっていた。

その捻じれの中に、見覚えのある物が挟まっていたのだ。



それはマツリの過去に深く関わる重要な物だった。


そして、マツリが「二度とそのような生き方はしない」と誓った過去の過ちそのものとも言えた。


マツリは何としてもそれを取り返さなければならない。



その物とは、マツリがこの世界に来た時に失ったと思っていた「赤い結晶-ガーネット」である。




きっと光たんぽぽは元はこんな生き物ではなかったのだろう。

この赤い結晶が挟まったことで、こんな姿に変わってしまったと考えるしかない。


赤い結晶にはその力がある。

生き物を「普通」ではなくさせる力が……。



「前」のマツリはこれを好んで使っていた。


それ故に世間から恐れられ、付けられたあだ名もあった……



これを取り戻し、そして……



そう決心し立ち上がろうとした時、またしても不運な事態が起こった。


奴の尻尾が通過した真下にあったマツリのバッグから、漏れ出したように赤い光が走り始めたのだ。

その光は強力で、カバンを覆い隠していた綿毛の緑を掻き消すほどだった。


マツリがしまったと思うのとほぼ同時に奴はカバンの光に気づき、驚いてギュゥッという声を上げ、巨体を滑らせるように柱の下へ逃げて行った。



また逃げられたが今度はうんざりしてはいられない。マツリはすぐさま飛び起きて奴を追った。


次回は、光たんぽぽとの決着とマツリに突き付けられる選択のお話です。

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