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◆-5 「たんぽぽの巣」その2

以前、山で見かけた「たんぽぽ」は普通の大きさだった。

ただし、風船を飛ばす不思議なたんぽぽだけあって、綿毛は風が吹かずともすごい勢いで空に昇って行ったが。

子供たちはバスケットを逆さまにしてその空飛ぶ綿毛をいっぱいに入れ、糸をつけてたこか風船のようにして家に持って帰っていた。


そのイメージがあって、先入観で光たんぽぽも同じような物だと思い込んでいたのだ。



だが、事態は更に予想だにしない方向へと向かう。


面をくらってしまいどうしていいか解らずにその場で立ち尽くしていたマツリの隙を突くように、光たんぽぽは根の部分を蛸の足か蛇の様にくねらせ、あっという間に足場の上から下に逃げたのだ。


飛び散った綿毛がまた積もるまでの数秒間、マツリは考えた。



――たんぽぽが走った…!? どうする…!? とにかく追いかけて捕まえなきゃ! …でもどうやって? 捕まえたその後はどうする?――


一遍に考えが浮かんできてまとまらない。取り敢えず追いかけ、見つけることが先決だ。こうしている間にもどこかへ隠れてしまったかもしれない。


マツリは光たんぽぽが逃げたへりまで行き、そこから床に向かって飛び降りた。着地してすぐさま辺りを見回す。



――…いない!どこ行った!?――


まさか奥の部屋に逃げ込まれたのではと思い、奥の部屋へと続く入り口に向かって走ろうとした時、視界の斜め上で大きな光が動いた。


マツリは気づいていない振りをしながら、できるだけ頭を動かさないようにして横目でゆっくりと光の方を見た。



――……いた!――


光たんぽぽは中央の柱の側面にへばり付いてこちらの様子を伺っている。



――さて、どうやって捕まえたものか…。青結晶ブルーサファイアのチャージは全部足に使ってしまったから足だけを使ってなんとかするしかない…。こいつが動かなければ再チャージする時間ができるんだけど…。


何とかするって言ったって、どうやればいいんだろう…。足で…蹴る…?


「奴」は攻撃してきたわけでもないのにこっちから手を出すなんてちょっと気が引ける……〈いや、足だけどね〉


それ以前に種はどこにあるんだろう…?確か大臣さんは綿毛に種はついてなくて、花が綿毛を散らせた後に、大きな種が残る…みたいな事いってたっけ。――



奴を見る限りは一向に散りそうもない。花は綿毛になれど、まだまだ現役活動中という感じだ。



――これは大臣さんの支持を仰がないと無理かな…どうしていいのか解らない…。でも通信機も無いし、一度城に戻るしかないのかな……――



その時、マツリにある考えが浮かんだ。


――……もしかして。モコモコみたく話せないかな…?――



マツリはたんぽぽの方を向き、思い切って話しかけた。




「た…たんぽぽさん、こんにちは…!」


まずは挨拶から入った。

光たんぽぽはそれに驚いたようで、その場で根をザワザワとうねらせたが逃げはしなかった。もしかしたら話を聞く気があるのかもしれない。



「あの……私の名前はマツリ!よろしくね!」



ダメだ……。自己紹介したものの次の言葉が出てこない。

奴はジッとマツリの方を見ている。


「あなたの…」



そう言いかけた時、奴はシュルリと柱の陰に入り、そのまま見えなくなった。

やはり巨体の割にすごくすばしっこい。


「あっ…!」



と言うのが精いっぱいで、隠れてしまった奴に対して、やり場のない虚しさが込み上げた。



こう逃げられては話もできない。いや、その前に話が通じているのだろうか。

というより、奴は話せるのだろうか…。



――こうなったらとにかくまず捕まえるしかない!話はそれからだ!――



      ◆ ◆ ◆



マツリはつい熱くなって奴との追いかけっこを受けて立つ事にした。〈別に奴は挑戦しているわけではないのだが。〉


その場でトンットンッと小さくステップした後、一気に奴がいた方向にダッシュした。

ダッシュといっても床に沿って高速で幅跳びの助走をしている感じだ。しかしその一歩は5mもの間隔だった。

瞬時に長い距離を詰めて奴が逃げた方に回り込む。



――いた!――



奴は暗がりに隠れるようにして、壁側に何本か進んだ別な柱にへばり付いていた。


しかもマツリが近づくと、やはりまた逃げる体制に入った。そして根を触手の様に使い、スリングの要領で別の柱に飛び移ったのだ。


マツリは急ブレーキをかけるように疾走を止めた。

ドキュキュッ!という音と共に衝撃波で綿毛が吹き飛ぶ。




このままではらちが明かない。


スピードで追いつこうとしても柱を移動されては追いつきづらい。

回り込もうとしてもきっと更に上に逃げられる。


奴はここの地形を自分の家の庭の様に知り尽くしているのだから。



――……自分の家…?


そうか、ここは奴の家、奴の巣なんだ!――


普通たんぽぽは動かないが、動物の様に動き回る光たんぽぽにとっては、この神殿はナワバリというわけだ。


奴が植物ではなく動物のように行動するならその習性を逆手に取るしかない。



マツリは少し考え、方針を変更することにした。


次回、◆-5 「たんぽぽの巣」その3に続きます。

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