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◆-5 「たんぽぽの巣」その1

通路に入ってみると頭上の丸岩は石の柱と壁に支えられていて、簡単には崩れそうも無かったので安心した。


そのまま進んで緑色に輝いていた入り口まで来ると、神殿の中が見えた。



マツリはバッグから、くすんだ金色の何かを取り出した。


それは人差し指と同じくらいの大きさの棒状のもので、ミニ音楽プレーヤーか小型のボイスレコーダーの様な形をしている。

先端には透明に輝く黄色い結晶がついていて、仄かに光を発している。

それをスイッチを押しながら神殿の部屋の何か所かに向け、少し眺めてからまたバッグに閉まった。


ここは大きな空間になっていて柱と壁しかない単純な造りだ。

半径1.5mの太い柱が何十本と立ち並び、壁は切り出した石を煉瓦の様に綺麗に積み上げて作られている。


大広間とでも言おうか、部屋の奥行きは直径50mもある。その先には別な部屋への入り口が見える。

柱は壁から、円筒状になった部屋の中心に向かって並んでいる。


この辺りだと位置的には崖の表面よりも奥になる。どうやら碧色神殿は崖の内側をくり抜いて作られているようだ。



床には満遍まんべんなく綿毛がつもり、部屋全体を照らしている。


マツリはバッグから500mmのペットボトルと同じくらいのサイズの透明なカプセルを取り出し、床に落ちている綿毛を掻き集め、束にしてその中に入れた。

シュウッという空気が抜ける音と共に、綿毛は圧縮されてカプセルに溜まる。


その工程を何度か繰り返し、カプセル一杯になるまで綿毛を詰めてから、またバッグに戻した。



しかし、床に落ちているたんぽぽは相当な量だが、不思議とそれを飛ばしているはずの肝心の花がどこにも見当たらない。



…まさか上から降ってきているのだろうか。



「柱の上に登るしかないか…」



マツリは青白く光った結晶をポケットから取り出し、スカートを少しめくり、左足の太ももの側面にかざした。

今まで隠れて見えていなかったが、そこにはシルバーのリング状のアクセサリーが着けてあった。


そのリングに付いている丸いボタンのような部品に結晶をあてると、サイリウムの様な光が灯り、明るい蛍光色の光のラインがそこからつま先まで、走った。

右の足も同じようにラインが輝いている。


次にマツリは屈んで短距離走のスタートラインにつくようなポースを取り、そのまま柱の上を見上げてから、力を込めて地面を蹴った。



ドンッ!!という大きな音が響き綿毛の光が風圧で四方に吹き飛ぶ。マツリの体は15mはある柱の天辺てっぺんを飛び越えてからそのままふわりと頂上に着地した。



柱の頂上は正方形の板状になっていて、そこにも積もっていた綿毛が風圧で舞い広がり、雪が降るように下に落ちてゆく。



バッグから先ほど綿毛を入れたカプセルを取り出し握ると、カチッと音が鳴りカプセルの形が懐中電灯の様になった。

綿毛の光はさほど強力ではないが、収束したようにライトとなって伸びている。

どうやらこれはマツリの世界の道具で、即席ライトらしい。


そのライトで辺りを照らしてみると、他の柱までは距離が離れていてこの綿毛のライトではよく見えなかったが、柱の上に積もっている綿毛が目印となって、柱の位置は判った。


柱の高さはバラバラではあるが、広間の中心に密集して並んでいる部分があって、そこは足場になりそうな大きな面を形成していた。



マツリはしゃがんだ姿勢から足に力を込め、前方に見える中央の足場に向かって跳んだ。

下から柱の上に跳んだ時とは違い、力を込めずに蹴り出された体は中央までの約20mの距離を、トーンという軽やかな音と共に弧を描きながら舞った。



中央の足場にフワリと降り立つと、積もっている綿毛は端の部分だけで、足場の中心部分は暗く闇に包まれ様子が解らなかったが、広い足場の中央に浮いているかのように見える球体状の綿毛の塊があった。


それはマツリの身長以上の大きさで、闇に浮かぶ緑色の巨大なイルミネーションの様だった。


マツリがさっきの即席ライトで中央の暗闇を照らしてみると、その綿毛の球体は木の幹らしき物の上についている。浮いているように見えたのはそのためだったようだ。




だが、その塊はなんと、ライトで照らされた事に気づいたかの様にゆっくりと動き出したのだ。


幹の部分が起き上がるように上に伸び、光の球体はマツリの方を向き、花が咲く様に開いた。



というより、それは花だった。

開いた綿毛の光でその物体の全体が照らされると、木の幹に見えたのは黄緑色の花の茎で、ライオンの鬣の様に開いた綿毛が取り囲んでいる中心は、花の蕾の様で目はついていないが、先端が割れていてニンマリと笑みを浮かべた顔に見える。


背中に付いている二枚の大きな葉は、翼のように見える。



「これは…たんぽぽだ…! まさかこれが光たんぽぽの花!?」


花の部分は綿毛になっているが、葉の形と茎の色はマツリの知るたんぽぽそのものだ。



ただし、このたんぽぽの大きさは首をもたげている状態で見ても3m以上だ。



マツリはこの事態を予測していなかった。まさかたんぽぽが巨大だとは。しかも動物の様に動いている……。

これまでこの世界で色々な変わった生き物を見てきたが、これほど巨大な生き物は見た事がなかった。


◆-5 「たんぽぽの巣」その2に続きます。

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