悪役令嬢カナリア
あれ、こいつ悪役令嬢だよな。なんか普通に挨拶してきてるし、しかも所作が礼儀正しいし。でも、それもそうだよな。最初からひん曲がったやつなんて居るはずもないしな。
「えっと、お父様。此方の方が私の婚約者という事ですか?」
「いや、そうではない。まだ候補だ。もしも2人が嫌だと言うのなら強制するつもりはないよ」
「そうですか、でもいつかは私は嫁に出されるのでしょう。ならば、早いか遅いかの違いです」
「お前が結婚したくないというのなら嫁に出すつもりはないよ」
「そんな事をしたら姉上に申し立てがつきません」
「別にそんなことを気にする必要はないのだぞ。お前はお前で姉は姉だ」
「そういう訳にはいきません」
ああ、なるほど。だいたいの予測はついた。あとはお父様に確認するだけだな。
「お父様、カナリア様の姉君は有名なのですか?」
「ああ、そうだ。今、王立学園に通っていて、白氷の魔女と呼ばれている。帝級の水魔法を操る魔法使いだ。この国では1.2を争う魔法使いと言われている」
やはりか、姉と自身を比較して勝てる部分が無く劣等感だけが残ったのか。それで、初めて好きになった男を取られそうになって嫌がらせを始めたと。可愛らしいと思うけどな。まあ、やってる事がやりすぎだったのだろう。まあ、それはここでの話ではないし、もしかしたらないかもしれない話なのだから気にする必要もないか。
「お父様、カナリア様自身の魔法は?」
「未だ一度も成功していないそうだ」
1度もという事は俺がここに呼ばれたのは婚約話だけじゃなさそうだな。
「そうだ。カエサル君は一度で魔法を成功させたようじゃないか」
「確かにそうですけど」
「私の娘に教えてはくれないか?」
やっぱりか、そんな感じの流れになりそうな気はしていたが本当にそうだとは。まあ、いいか。特に隠すような事でもないし。
「うまく教えられるかわかりません」
「別に構わんよ。少しでもできる可能性があるのならそこにかけてみたくなるものだ」
「えっと、はい分かりました。僕の出来得る限りの事をさせていただきます」
「頼んだよ。ああ、それと魔力量は足りているから心配しないでくれ」
「分かりました。では、どこで教えればよろしいでしょうか?」
「ここでやればいいじゃないか?」
「僕のしているイメージを教えるには屋外でやるのが都合が良いのですが駄目でしょうか?」
「うむ、そこまで言うのなら庭を使うといい。他に必要なものはあるか?」
「鍋を一つ頂けますか?」
「どのくらいの大きさのものだ?」
「小さなもので構いません」
「分かった。侍女に持って行かせよう」
「お願いいたします」
「うむ、ではカナリアよ。カエサル君について行きなさい」
「分かりました」
「では、カナリア様行きましょうか」
俺はカナリアを連れて庭へと移動する。ってそういえば庭ってどっちだ?
「あなたも私を笑いに来たのですか?」
ん、何故そんな話になるんだ?意味がわからん。
「何故そんな話になるのですか?」
「いま、真剣に悩んでいたじゃない。それは、こんな落ちこぼれにどんな風にやれば、お父様の不満を買わないかを考えていたんでしょう」
ああ、悩んでいたのをそうとったのか。でも、全然違うんだな。
「すみません、そう見えていたなら謝ります」
「ほら、そうなんじゃない」
「いや、誤解ですよ。ただ、庭の場所を聞くのを忘れたなーと思ってどうするか迷っていたんですよ」
「そんな見え透いた嘘をつかなくてもいいです。そんな事、私に聞けばいいじゃない」
「あっ、そういえばそうですね」
「えっ、本当に庭への道がわからなくて悩んでいたの?」
「ええ、道がわからなかったので侍女にでも聞こうと思っていたのですが見かけませんでしたので、どうしようかと思いましてね」
カナリアは少し黙った後に大声で笑いだした。
「ははは、あなた一度で魔法を成功させたって聞いていたけど案外抜けているところがあるのね」
「悪かったですね、抜けていて」
「不貞腐れないでちょうだい。私が悪かったから」
「不貞腐れてなどいませんよ、カナリア様。ああ、道のわからない私に手を差し伸べてくださる心のお優しいお方は居ないのでしょうか」
「私が悪かったから普通に戻って」
「はい分かりました。カナリア様」
「敬語じゃなくていいわよ。あなたは気づいていないかもしれないけど、何か不自然よ」
まじか、まあ、相手もそう言ってるし戻すか。
「じゃあ、戻するかな。こんな感じでいいか?」
「ええ、いいわよ。というより、かなり変わるわね」
「ああ、基本は猫被ってるからな」
「なんでそんなことを?」
「いや、普段からちゃんとした言葉使いをしないと間違って咄嗟に礼儀正しい言葉使いを出来なくなりそうだからな」
「そんなことなのね。やっぱりあなたどこか抜けているわね」
「はいはい、抜けていますよ俺は」
「だから、不貞腐れないでってば」
「不貞腐れてない」
俺は、そっぽを向く。すると、カナリアが俺に話しかけてくる。
「そうだ。カエサル、鍋って何に使うの?」
あっ、露骨に話題を変えたな。
「それはついてからの楽しみってことで」
「なら、ちゃんと分かるように教えてちょうだい」
「かしこまりました、お嬢様」
俺たちは向き合って声を大にして笑う。
「「ははははは」」
「私、こんな友達欲しかったのよ」
「俺もだ」
「なら、私達はお友達ってことでいいのかしら」
「そうだな、俺とお前は友達だな」
「友達なら、名前で呼び合うものではないかしら」
「それもそうだな。なら、俺はカナリアって呼ぶ」
「私は、カエサルって呼ぶわ。これからよろしくね」
「ああ、よろしく。友達なら分からないことを教えあうなんて普通だよな」
「ええ、普通ね。カエサルは私に何を教えて欲しいの?」
「カナリアの事かな。普段は何をしているんだ?」
「普段は勉強が主よ。魔法はいくらやってもできないからね」
「えっとごめん」
「謝らないで、なんか惨めになるから」
「ははは、ごめんごめん」
「だから、謝らないでってば」
それから、俺たちは他愛のない話をしながら庭へと向かっていった。
「さあ、ここが庭よ」
「結構広いんだな」
「ええ、お母様が花なんかを栽培するのが好きなのよ」
「そうなのか、まあ、その話は後で聞くとして魔法の特訓を始めるか」
「ええ、無駄だと思うけど」
「まあ、やってみるだけやってみるぞ」
俺はそう言いながら鍋に水を貯める。
「我が言により水よ集え凝縮」
鍋に水が溜まっていく。
「さあ、始めるか」
「先ずは凝縮からやるの?」
「ああ、いつもどんな風にイメージしてこの魔法を使ってる?」
「えっと、何もないところから水が集まるっていうイメージでやってるけど問題なの?」
「ああ、何もないところってのが問題だ。今からイメージし易くなるようにしてやるから」
「どうするの?」
「先ずは何か燃やしていいものあるか?」
「えっと、ええ落ちている枝ならばいいけど」
「ありがと、よし我が手に小さき炎を灯せ火種」
落ちている枝を燃やし鍋に入った水を沸騰させる。
「これでよし」
「何をしているの?」
「見てろって」
2.3分で完全に水が沸騰した。
「中に入っていた水がどんどん少なくなっているけどどこに行ったと思う?」
「そんなのわからないわよ」
「少しは考えて欲しいのだけどまあいいか。正解は水蒸気になってるんだ」
「水蒸気?」
「ああ、水の上に白い何かがあってそれより上に上がると何も無くなっているだろ」
「うんそうだね」
「それが、水蒸気だ。別に無くなっているわけではなくて目に見えなくなっているだけだけどな」
「それで、何が言いたいの?」
「分からないのか?凝縮という魔法は、この水蒸気を集めて水を作る魔法なんだよ」
「水を作るのはそういう原理だったんだ」
「ああ、今度はそういうイメージで魔法を使ってみろ。今水蒸気になった、水をこの鍋に戻すようなイメージで」
「わかったわ。我が言により水よ集え凝縮」
詠唱を唱え終わると水蒸気と化した水がカナリアの元に集まっていく。成功だな。
「出来た。私、魔法が使えたわ」
カナリアは5歳児らしくすごく嬉しそうに喜んでいる。
「よかったな。成功して」
「ええ、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、もう一つ教えておくぞ」
「何を?」
「水が今さっきのように気体になること、そして氷のように個体になることは知ってるか?」
「ええ、気体になるのは今さっき初めて知ったけど」
「ああ、そうだ。まずこの話をしないとだな。物ってどんな風にできているのか知ってるか?」
「えっと、分からないわ」
「うん、そりゃあそうだな。物ってのは全て小さい原子集合体でてきているんだ」
「原子?」
「ああ、目には見えないけどな。まあ、詳しい話は置いておくけどその原子の動き方はその物質の状態によって違うんだよ」
「どういう事?」
「えっと、簡単に話すと気体の時は激しく動き回っていて、液体は静かに動いていて、個体は止まっている。そんな感じだな」
「という事は氷を作りたいならその原子ってのが止まっているイメージをすればいいのかしら?」
「まあ、そういう事だ」
「そういう事習ってみるわ。我が命により水よ凍てつけ凝固」
鍋の水が少しずつ凍てついていく。
「成功だな」
「うん、ありがとう。信じられないわ、私がこんな魔法を成功させられるなんて」
「まあ、魔法はイメージ次第だからな。次は火種の魔法を教えるぞ」
「よろしくお願いします先生」
「先生はやめろ。じゃあ教えるぞ」
俺は鍋を熱するのに使っていた木の枝を一本取り出す。
「火が燃え続けるのに必要な物は何かわかるか?」
「えっと、分からないわ」
「仕方がない。火が燃え続けるのに必要なのは3つある。1つ目は燃える物が存在する事、2つめは酸素が存在する事、そして最後は温度が発火点に達している事の3つだ」
「酸素ってのと発火点ってのは何?」
「酸素ってのは今さっきの水蒸気と同じで目に見えない気体だな。そして発火点は物によって、燃える温度が違ってその燃える温度の事だ」
「えっと、つまり魔法ではどうすれば?」
「つまり、燃える物っていうのが魔力、発火点に達する為に必要なのが詠唱って感じだな」
「ちょっとやってみる。我が手に小さき炎を灯せ火種」
今度もしっかりとつく。実は俺って天才なんじゃなくてこのイメージさえ話せば誰でも魔法が使えるんじゃないかって気もするな。
「カエサル、ありがとう。本当に」
「いいよ、友達の頼みだからな」
まあ、いいか。こんなにも可愛らしい笑顔が見れたのだから。
1話目でこんなに総合評価が行くとは思っていなかったので驚いています。そして、嬉しかったので2話目を書き上げました。これからもお付き合いください