現代版リアル『鶴の恩返し』!
現代版リアルシリーズ第4弾です。
ご感想等頂けると嬉しいです。
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんの職業は薪割りですが、おばあさんはニート生活をエンジョイ中です。
毎日朝から晩までPCと睨めっこで、働く気のカケラも見当たりません。
時給700円の薪割りバイトではニートなおばあさんを養うのも一苦労です。
そんなある日、おじいさんは「買い物に行く」とおばあさんに偽って、街のキャバクラで楽しんだ後、帰り道を歩いていました。
(ああ、今月も赤字か)
稼いだ金をおばあさんに取られるくらいなら、とキャバクラでお気に入りのギャルについつい貢いでしまいました。
女に甘えられると弱いのは昔からです。
(うむ?)
ふと横を見ると、なんと草むらで罠にかかった鶴がいるではありませんか。
「鳥肉ひゃっほーいッ♪」
おじいさんは迷うことなく鶴を助けに――いえ、捕獲に行きました。
これでしばらくは鳥肉が食べられそうです。
しかし、鶴捕獲作戦は楽なものではありませんでした。
「ぐふぉぁ!!」
なんとおじいさんまで罠にかかってしまったのです。
鶴の近くに別の罠が仕掛けられていたとは驚きです。
(むぅ、)
気を取り直してトライ・アゲインです。
「ぐひゃぁ!!」
今度は落とし穴に落ちてしまいました。
しかも穴の中に沢山の竹槍を忍ばせてあったことから、仕掛け人の悪意がうかがえます。
わずか10秒ほどの間に複数のトラップに掛かるおじいさんに、鶴も大爆笑です。
次は天からタライが降ってくるのではないかと期待してしまいます。
(むむぅ、)
全身血だらけになって穴から脱出です。
まさか3メートル進むだけで満身創痍になるとは、もはやここら一帯は地雷原さながらです。
(戻りたい……だが鶴も欲しい)
地雷原の真ん中に来て思います。
しかしここで諦めては、男のプライドもなんちゃらです!
(鶴の肉!!)
おじいさんは欲を前面に出して前に進みます!
「あひゃぁ!!」
今度は正面の岩壁から吹き矢が出てきました。
イナ○ウアーでなんとか全弾かわします。
日ごろから柔軟体操をしておいて正解でした。
「むぴょぁ!!」
またまた落とし穴です。
しかし同じ手は二度喰らいません。
落ちる前に5回転ジャンプでかわします。
無駄に回数が多いです。
(ふぅ)
スケートリンク上で決めるはずの大技を地雷原で決め、やっと鶴の元に到着です。
まさか自分の目の前でフィギュアスケートの大技を二個も決められると思ってもみなかった鶴は、すっかりおじいさんのファンになってしまいました。
そんなことも知らず、おじいさんは鶴の罠を外します。
「さ、家に持って帰って焼き鳥と焼酎だ」
(焼き鳥!?)
こうしてはいられません!
酒のアテにされるくらいなら、エスケイプした方がかなりマシです。
「旨そうな焼き――ぐふぅ、ぐふぉぁ!!!」
鶴はおじいさんの腹にアッパー、鳩尾に裏拳を一発ずつかまし、おじいさんが心肺停止に陥った隙に逃走です。
おじいさんは無念にも鶴を取り逃がしてしまいました。
――☆――☆――
その日の夜、激しく雪が降りました。
まだ8月31日で、子供たちが夏休みの宿題に追われている季節だというのに、明らかな異常気象です。
おじいさんとおばあさんが家で銀行マンのドラマを見ていたときのことでした。
主人公が「倍返しだ!」と宣言した途端、家のドアがコンコンと鳴ったのです。
「おいばあさん。 誰か来たぞ」
「あらじいさん。 誰かいらっしゃったわ」
お互い頑として譲りません。
コマーシャルまで待って頂きたいものですが、こういう時に限ってコマーシャルまでが長いものです。
しかし客を待たせるわけにはいきません。
ここはジャンケンで決めようと思います――
――が、
「はい、じいさん行ってら」
「むぅ」
おじいさんは意地悪なおばあさんに負けてしまいました。
「最初はパー」とは卑劣極まりない妻です。
バカ正直に最初にグーを出したことを反省です。
「へいへい、どちらさんで――」
ガラッ
戸を開けると、なんとそこには超美人なお姉さんが立っていました。
V字の谷間と美脚網タイツとは、おじいさん、鼻血が止まりません。
一歩間違えればバニーガールの格好です。
「今夜、泊めていただき――」
「OK!! 泊まっていきなされ!!」
ルックスばっちりなら誰でもOKです。
わずか2秒でお姉さんの寝床をしつらえます。
「ばあさんや、わしの職場の後輩が遊びにきたぞ」
おばあさんには適当に言って誤魔化します。
見ず知らずの女だとは口が裂けても言いません。
かくしてお姉さんが家に泊まることになりました。
「絶対に覗かないでくださいね」
そう言い、お姉さんは風呂場に閉じこもってしまいました。
しかしおじいさんの好奇心は抑えられません。
見るなと言われれば見たくなる主義です。
きっと中では秘密のお着替えが始まっているに違いありません。
ポロリとかチラリとかいうレベルではないでしょう。
「むぉおおおお!!!!」
興奮するあまり声が出てしまいます。
(こうしてはおれん!! さっそく覗き――)
風呂場前におばあさんが立ちはだかります。
「何のつもりだ」
闇の帝王風に、ちょっとかっこよく問いかけます。
「覗きは許しまへんで!!」
「むぅ」
おばあさんはかつて侍女のバイトをしていたため、今でもバイト時に使っていた槍は所持しています。
おじいさんでも丸腰では槍のおばあさんに勝てません。
「おっ、そうだ!」
おじいさんは思い出しました。
かつて自分が武士であったことを。
さっそく押し入れを物色し、当時使っていた鎧兜と刀を引っ張り出してきます。
兜には『愛』の代わりに『Love』の飾りがあります。
我ながらちょっとお洒落です。
おじいさんは屋内で予想される戦に備え、武装しました。
……しかし雰囲気が出ません。
そこでこの前通販で買ったホラ貝も引っ張り出します。
ブォォォオオっ
ホラ貝の合図と共におじいさん、風呂場に突撃です。
『進撃の老人』です。
「ババア!! 覚悟ぉおお!!」
ゴキッ
「ぐはぁあ!!」
あと少しのところでギックリ腰です。
おじいさん、無念の敗戦です。
翌日。
おじいさんはどうしてもお姉さんの風呂を覗きたくて仕方ありません。
(正面突破が駄目なら……)
おじいさんはギックリ腰だというのに、老体にムチ打って小屋で何かを作り始めました。
その日の晩。
「お・じ・い・さん♪ 覗いたらイ・ヤ・よ☆」
お姉さんはわずか1日で馴れ馴れしくなりました。
今朝からはすっかりタメ口です。
お姉さんが風呂に入って行くのを確認すると、おじいさんは覗き作戦に移ります。
お姉さんが織った布など目もくれません。
早速自室に戻り、用意していたモニターにスイッチを入れます。
風呂場にあらかじめ監視カメラを仕掛けておいたのです。
念のため5か所ほど隠しておきました。
「さあ楽しみじゃ♪」
ウキウキしながらモニターを見ます。
(む!)
画面に何か映ったかと思えば、監視カメラの先にはおばあさんのヌード写真集が映されているではありませんか。
「おえええええ!!!!」
おじいさんは1秒間に1リットルのペースで嘔吐し、胃のむかつきを抑えるために胃薬を常人の100倍服用しました。
どうやらカメラはおばあさんに気付かれていたようです。
(ならば!)
おじいさんは押し入れからネズミ型の小型偵察機を取り出しました。
顔がディ○ニーの某キャラクターに似ているので、『ネズミーマウス』とネーミングします。
ネズミーマウスはおじいさんの遠隔操作により、階段を降り、壁を伝い、時には小さな穴を通り抜け、ついに風呂場にやってきました。
(しめた!)
風呂場前にはおばあさんはいません。
これなら堂々と覗けそうな予感です!
(あと少し……あと少――)
ブツッ
風呂場前まで到着した時、一番いいところで画面がブラックアウトしてしまいました。
一階の風呂場から『ガシャン』という音が聞こえてきます。
どうやらネズミーマウスは殉職してしまったようです。
(ぬう、)
もうまともなカメラはありません。
しかたなく、風呂場に仕掛けておいたサーモグラフィーを活用して、せめてお姉さんの体のシルエットだけでも堪能です。
(ぬ!)
画面に何か映りました。
しかしよく見ると、お姉さんではありません。
なんとそこにいたのは、槍をポールに見立ててポールダンスを踊るセクシーなおばあさんだったのです!
「ぐえええええ!!!!」
激しく嘔吐です。
昨晩食べたカレーまで逆流してきました。
(むむぅ、)
おじいさんは男なので諦めません。
諦めたら終わりです。
おじいさんは「こんなこともあろうか」と作っておいた抜け穴を使うことにしました。
さっそく自室のある2階の畳を引っぺがし、屋根裏から風呂場を盗撮です。
ガタン
「む!」
なんと屋根裏には無数の対人用電流装置があるではありませんか!
しかもご丁寧に『10万ボルト』と、技名まで描いてあります。
電気ウナギの電気くらいではビクともしないとはいえ、これではいくら電気に強いおじいさんでもショック死してしまいます。
残酷極まりないおばあさんの所業に違いありません。
――こうなったらもうあの手しかありません。
おじいさんはお金の入った巾着に手を伸ばしました。
おばあさんがお金に目が無い習性を考慮しての行動です。
これをおばあさんの前でまき散らし、おばあさんが拾っている隙に覗こうという算段です。
これぞ世に言うバラマキ政策です。
「ババアに倍返しだ!」
おじいさんは最後の賭けに打って出ました。
監視カメラはおばあさんのブロマイドで汚染。
ネズミーマウスは戦死。
サーモグラフィーはおばあさんのポールダンスで汚染。
さらに屋根裏は殺人トラップ満載という惨状です。
お姉さんの風呂を覗くには、もう強行突破しかありません。
「うおおおおお!!!!」
Loveの飾りがある鎧兜を着用し、おもちゃ屋で購入したエアガンを持って、いざ出陣です!
「死ねぇ!!!」
風呂場を警護するおばあさんに向かって発砲です。
ヘッドショットを狙ったつもりでしたが、おばあさんは華麗に10回転ジャンプでかわしてしまいました。
しかもジャンプする時にフィギュアスケーターを気取ってパンチラしてくるのですから、たまったものではありません。
「おええええええ!!!!」
おじいさんはすっかり萎えてしまいました。
しかしその向こうには楽園が待っているのです。
男として、覗かないわけにはいきません。
「これでもくらえ、ババア!!」
おじいさんは目玉であるのバラマキ政策を実行しました。
おばあさんが金を拾っている間に風呂場に突撃です。
「うおおおおお!!!」
「ハッ、しまった!!」
見事おじいさんはおばあさんの堅固なガードをくぐり抜け、エデンまで辿り着きました。
あとは覗くだけです。
ガラッ
「あっ」
「ぬ!」
なんと風呂の中にはお姉さんではなく、一羽の鶴がいたのです。
しかもよく見ると、昨日アッパーと裏拳を喰らわされた、かの憎き鶴ではありませんか!
「覗かないでって言ったのに!」
「あ、こら! 待て焼き鳥!!」
焼いても無いのに、すでに焼いた設定で呼びます。
鶴は窓を破壊して翼を広げると、おじいさんに追いつかれる前に飛んで逃げて行きました。
「むぅ」
このまま逃がしてしまったのでは、覗きの為に戦死したネズミーマウスも浮かばれません。
おじいさんは「こんなこともあろうか」と用意しておいた、地対空ミサイルの発射ボタンを「ぽちっとな」しました。
すると森からミサイルが発射され、鶴に命中して撃墜に成功しました。
これで焼き鳥が食える、と思っていたおじいさんでしたが、あまりの火力で焼き鳥どころか炭になったと知ったのは、それから5分後のことでした。